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西の国の王とバルダーが謁見したその日、ハヤセが一度屋敷に戻って来た。どうやら、本当に土地の浄化が可能なのか見定めたいとの申し出があり、優里を西の国に連れて行く事になったのだ。


「西の国の王は新事業に対してはとても前向きだったよ。優里ちゃんとベルナエルの浄化がどこまで出来るのか、バルダーも把握しておきたい様だったし、早速で悪いけど一緒に西の国に行って貰えるかな?」


ハヤセの言葉に、優里とベルナエルは大きく頷いた。


「もちろんだよ!」


「それで、浄化は天使固有のスキルだから、西の国には“使い手は神の加護を受けた特別な魔族”って事にしてあるんだ。念の為、ベルナエルは種族隠蔽をしておいて欲しい。背中の羽もしまっておいてね」


「優一郎君、私も“種族隠蔽”覚えたよ!」


優里は、取得したスキルが早速役に立つと思い嬉しくなった。


「そうなの? 僕が秘匿のスキルを使おうかと思ってたけど……必要ないみたいだね。あとは……ミーシャにも一緒に来て貰いたいんだ」


「えっ? オレも?」


突然名前をあげられ、ミーシャは少し驚いた。


「実は、西の国の新事業に、各国に名立たるヴォルコフ家の力添えが欲しいと、バルダーがヴィクトルさんに相談しててね。ヴィクトルさんは快く了承してくれて、西の国の視察にはミーシャを連れてって欲しいと言われたんだ。ミーシャの見聞を広げるいい機会だし、君が必ず力になると確信していたよ」


「父上が……」


ミーシャは顔を上げ、何かを決意したかのように胸の前で拳を握った。


「わかった。オレも一緒に行く。絶対に新事業を成功させるぜ!」


ハヤセはそんなミーシャの姿を見て、大きく頷いた。


「ちなみにルーファスは留守番だ」


「え!? 何で!?」


てっきり一緒に行けると思っていたのか、思わず声を上げたルーファスに、ハヤセが説明をした。


「シュリの様子を見ておいて貰いたいんだよ。まぁ眠ってるだけだから大丈夫だと思うけど、目覚めた時かなり体力を消耗してるはずだ。無理しない様、管理してやって欲しい。前の状況と同じなら、シュリは恐らく今日の夜には目覚めると思う。優里ちゃんの生気もチャージが切れるだろうし、優里ちゃんだって、ルーファスじゃなくてシュリから生気を貰いたいでしょ?」


「えっと……うん」


気恥ずかしいやら気まずいやらで、優里は遠慮がちに返事をした。


「あと、リヒトもここに残って、目覚めたシュリとルーファスを西の国まで瞬間移動させて欲しい。何かあった時の連絡役も兼ねてね。いい?」


「わかりました」


「リヒト君と一緒に留守番か~、悪くない!」


さっきまでしょんぼりとしていたルーファスだったが、リヒトと一緒という事がわかって納得した様だった。



優里はクロエを召喚し、まずサキュバス本来の姿から人型へと戻してもらった。その後、種族隠蔽を発動し、ミーシャ、アスタロト、ベルナエルと共にハヤセの転移魔法で西の国へと向かった。


西の国では、バルダーと“深淵の番人”の仲間たちが既に浄化予定地で待っていた。


「デクさん! みんな!」


久しぶりに会うデクたちに、優里は笑顔で駆け寄った。


「嬢ちゃん、久しぶりだなぁ! 今回の新事業の主役は、嬢ちゃんだって聞いたぜ。すげぇじゃねぇか!」


「いや、主役って……。浄化の手伝いをするだけだよ」


「サキュバスなのに浄化が使えるという話は本当なんですね。これは人買いに高値で交渉できますね……」


「バルダー様! スライが悪い顔しています!」


ニヤリと口の端を上げたスライを見て、ミーシャがすかさず告げ口した。


「スライ、北の国の財政大臣ともあろうお前が、品位を落とすような考え方をするな。あと、ユーリがサキュバスだという事は極秘事項だ」


「冗談ですよカシラ……じゃなくて、バルダー様」


「お前に様付けで呼ばれるのは慣れないな。公の場でなければ、今まで通りカシラと呼んでくれ」


バルダーは、少し気恥ずかしそうにそう言った。


「スライは財政大臣に任命されたの? すごいね」


優里が話しかけると、スライは顎を上げどや顔になった。


「まぁ俺ほどの能力があれば当然ですよ。カシラは俺の事をわかってくれているんです」


優里は今の地位に満足げなスライを見て、もう悪事に手を染めようとする事はないだろうなと思った。


「遅くなりました。皆様、もうお揃いだったのですね」


そこへ、ひとりの人のよさそうな顔をした小柄な男が現れた。


「私は西の国の外交交渉を担当しているアルフレッドと申します。本日はよろしくお願いします」


アルフレッドと名乗った男は丁寧に挨拶をすると、手に持った書類に何かを書き足しながら話を進めた。


「では、早速で申し訳ないのですが、この土地の浄化をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「はい」


優里とベルナエルが前に出ると、アルフレッドは一瞬、見定める様な視線を向けた。


「ユーリ、一度ベルナエルの浄化を見ておくといいよ。ベルナエルの力が強過ぎて、あんたの出番がなくなっちゃうカモしれないケド」


「失礼な! ユーリ様の浄化を見れば、そんな軽口叩けなくなりますわよ!」


「まぁまぁクロエ。私もお手本見たいし、ベルナエルの浄化を見学させてもらうよ」


アスタロトに食ってかかるクロエを、優里が苦笑いで宥めた。


「では、浄化します」


ベルナエルは目の前の地面に手をかざした。すると、温かい光が地面を覆い、どす黒く様々な不純物が混じっているように見えた土が、柔らかく質の良い土壌へと変化した。


(おおー! すごい! よし、私も!)


「クロエ、お願い!」


「かしこまりました、ユーリ様」


優里は、まだ浄化されていない場所へ手をかざした。クロエはその手に自分の手を重ね、優里の魔力をコントロールし、浄化のスキルを発動させた。すると、ベルナエルの時と同じように、温かい光が地面を覆い、土地が浄化された。


「……素晴らしい! おふたりとも素晴らしい能力(ちから)をお持ちなのですね! 青髪の貴方様は……こちらのメリュジーヌの方とご一緒に発動されているのですか?」


アルフレッドが優里とクロエを見て、興味深そうに質問をした。


「私は、まだ魔力の制御が出来ないんです。なので、クロエに協力してもらってます。ベルナエルみたいに、自分で自在に操れたらいいんですけど……」


優里が素直にそう答えると、アルフレッドは優里とクロエの手の甲にある召喚の(しるし)を見て微笑んだ。


「ユーリ様はまだお若いのですね。私も魔族の端くれですので、魔力の制御は鍛錬でどうにかなるものではないと存じております。焦る必要はございませんよ」


「……はい、ありがとうございます」


アルフレッドの優しい言葉に、優里の胸は温かくなった。


その光景を見ていたアスタロトが、フンと鼻を鳴らして優里の顔を覗き込んだ。


「ねぇユーリ、あんたとベルナエル、どっちがたくさんの土地を浄化できるか競争しない?」


「えっ!? そんな、遊び半分でやる事じゃ……」


優里が言いかけた言葉を、同じく鼻を鳴らしたクロエが遮った。


「受けて立ちますわ! わたくしとユーリ様にかかれば、この程度の土地の浄化など()でもないですわ!」


「ちょ……クロエ!」


優里が止めようとしたが、意外にもアルフレッドは笑い声をあげた。


「私は構いませんよユーリ様。競争意識があった方が、質や効率が上がる事も実証済みですので、おふたりの能力も、お互いに高め合えるのではないでしょうか?」


「決まりだね。時間は今から夕方まで。じゃあ行くよ!」


アスタロトはそう言うと、ベルナエルの手を引いて、まだ浄化されていない土地へと向かった。


「ユーリ様! わたくしたちも行きましょう!」


「わっ! う、うん!」


優里もクロエに手を引かれ、新しい土地へと走り出した。


「慌ただしいな……。では俺たちは、今後どの様に事業を進めて行くかの話し合いをしよう」


バルダーは走り去る優里の後ろ姿を見つめながら息をついた。


「私は町のギルドに提出しないといけない書類がありますので、バルダー様方は先に城へとお戻り下さい。馬車を用意させましょう」


アルフレッドにそう言われたが、ハヤセが一歩前に出た。


「よければ、今後の移動の為に転移魔法を使いたいのですが」


「ハヤセさんは、転移魔法が使えたのでしたね。もちろん、よろしければ城の中庭に転移して下さい。バルダー様に私の署名入りの認可証をお渡しします。これを見せれば、衛兵が攻撃するような事態にはなりませんから」


アルフレッドはそう言って、手元の書類の中から1枚に署名をし、バルダーに渡した。


「町の入り口に国が管理する空き地があるので、魔法陣を描くのに使って下さい。私も町のギルドまで行くので、ご案内します」


「感謝する」


バルダーは認可証を受け取り、アルフレッドの案内で町に向かった。




空き地への案内が終わり、バルダーたちと別れたアルフレッドは、ギルドではなく町外れの酒場に足を踏み入れた。そこにいた楽器を持ったひとりの男と目を合わせると、外に出ろと目配せをした。楽器を持った男はアルフレッドを追い、外に出た。そして、人目のつかない路地裏に入ると、アルフレッドは手に持っていた書類を男に渡した。


「狙いはユーリとかいう小娘だ。まだ魔力の制御も出来ないコドモだ。だがメリュジーヌを召喚している。それはそれで珍しいが、少し厄介だ」


「メリュジーヌねェ……。召喚の扉さえ開かなければ、問題ねェだろ」


楽器を持った男は、渡された書類を見ながら鼻で笑った。


「もう一人の浄化持ちはいいのか?」


「ベルナエルとかいう娘の方は、悪魔と行動を共にしていた。悪魔は何をしでかすかわからん。関わらない方が身のためだ」


「フーン」


「やり方は任せる。酒場へ行くよう誘導するから、後は上手くやれ」


そう言ってその場から去ろうとしたアルフレッドを、男が呼び止めた。


「待てよ! 北の国の王族の知り合いに手を出すんだ。俺が提示した報酬を必ず受け取れるんだろうなァ?」


「アレは成功報酬だ。お前がユーリを港まで連れて行けたらくれてやる」


「フン……」


男は手に持っていた書類を宙に放り投げた。すると優里やクロエの情報が書かれた書類がサラサラと砂になっていき、風に溶けて消えた。


「約束は守れよ、アルフレッド」


男はそう言って、町へと戻って行った。



月・水・金曜日に更新予定です。

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