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12月の軽井沢はその日に限って、上着は薄めでも何とか外で作業が出来た。
朝は吐く息は白かったが、昼食を終えると日差しが強くなり始めた。
つくづく思う。人間一人が失踪するのは簡単でも、存在そのもの個体そのものを喪失させれるのは難しい。
松原 英恵の遺体の処分はあきらめていた。
ただ、彼女の熱量が彼に危害を加える前に、確実に実行しなければいけなかった。実に手際の悪い、そして不快な作業だった。
半面、自分で気づいている。あの女と自分の何が違うのか。それとも自分は彼に、感謝でもされたいのか。
無償の愛というのは聖書の中でしか存在しないものなのか。
それでも一つだけ言える。
私は彼の守護でありたいと。
長かった。
ただそれももう終わろうとしている。それだけは感じていた。
すべてには終わりが来る。終わらなものは無い。
すべての始まりはあの黒い瞳だった。漆黒の光を知らない瞳が、彼の胸を突き刺した。この世の中で、そんな出会いは人生の中でそうあるとは思えなかった。そういう彼自身若かった。若いからからこそそう思えたのかもしれないし、それは必然だったのかもしれない。
それでも終わりは近づいている。
そう、何事にも始まりはあり、やがて終焉を迎える。それでは人生とはこれを模倣したものだろうか。
私が見ていたのは貴方の濁りの無い瞳。それを守りたいと思い続けて。
それは、愛に似ているし、殉教にも似ている。