表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Gift  作者: 鈴紀 通
3/4

 漆黒の闇の中車が加速する。目もくらむようなヘッドライトの明るさに、恭介は目を閉じた。

 爆音と衝撃。母の悲鳴。必死にハンドルを握る父の、怒鳴るような、叫ぶような声。必死に車体の体制を戻そうとしてハンドルを切り返し切り返し最後に


 畜生!なんでだ!


普段、そんな事を口にする人ではなかった。

正月の祖父母を訪ねた帰り。


 相手は少々アルコールが入った長距離運送の2tトラックで、それが前方で睡魔のあまり蛇行運転するのをさけようとした父の悲鳴だった。


 人はあっけなく死ぬ。

 父の必死さもむなしく、車は大破した。


 すさまじい当時の爆音に、恭介は、飛び起きた。

 今の爆音は記憶だった。

 夢だ。夢の中の。なのにいつもどうしてこうも鮮明なのだろう。震える手で顔を覆う。

 自分の写真を持った女の死のニュースが、まさしく”死”の記憶を運んできたのだ。誰が忘れることが出来るだろう。

 自分だけが生き残り、心のかがいつも何か欠けたまま、なぜ自分は今も生きているのかと時折頭を抱える夜は、ひどく朝を迎えるのが長い。それを知っている恭介は、震える指で、睡眠導入剤を飲むために、おぼつかない足取りでキッチンへ向かった。

 恭介は【黒猫】の二階に自分の住居を改築して住んでいる。

 多分自分は一生結婚する事が無いと思ったからだ。両親の生命保険で大学を卒業し、祖父に引き取られ、寡黙だが、祖父は恭介にかける言葉には愛情がこもっていた。その祖父も亡くなって。


 生家はあまりに見るのがつらくて処分した。

 恭介の母は美貌の女優として、映画4本の主演をつとめたのもあり当時は本当に大きなニュースになった。

 悲劇の子、として恭介が入院する病院を前にレポーターが無神経に、何かをがなりたてる。

 何も知らないくせに。

 お前たちの何が父と母を知っているのだ。


 それは怨嗟にも似ていた。




 

十一月も半ばになると日本という国はクリスマスに向けて街並みに色どりが重なっていく。

 なのに行きかう人々はマスク姿で、最近はマスクも洋服に合わせていろんな色をそろえ、顔が半分見えない事=衛生的という現実が既に人々の頭にインプットされてしまった。

「この間、コンパで、マスク取ったらがっかりなんて話で盛り上がって」

「お前まだそんな事してんのか」

 刑事とはいえ人の子だ、だが、浜村は聞き込み捜査の中でもそれなりに鈴木が女子を物色しているのには気づいていたのでいささかうんざりしながらハンドルをきった。

「マスクのお陰で、人相を聞いてもなかなか全体像が掴めなくなった。その分地下に潜った犯罪が増えやがったしな。ドラッグ関係は景気がいい・・・」

 街中に巡らされた防犯カメラにも、映るのは顔半分の通行人たちだ。


「でも、あの喫茶店の坊や、ほんと整った顔してましたね・・。ちょっとああいう顔立ちって久しぶりに見たんでどきっとしちゃいましたよ。でも、少し表情に乏しいというか・・・。ソープ嬢にとっては王子様だったんだしょうけど」

「主演作はそうないが、大層な美人女優で会社社長に見初められてすぐ結婚しちまったんだよ。あの坊やの母親」

「へえ・・・・納得」

「まあ、そのおとぎ話も、家族で交通事故に巻き込まれて生き残ったのは、あの坊やだけだった・・・。当時はワイドショーが大騒ぎしてな。やりきれない事故だった」

 だからだろうか。不幸は不幸な者を呼ぶ。寄せ付ける。

 あの殺されたソープ嬢も店の中では殆ど、恭介に話しかけることはなかったそうだが


 だって恐れ多いもの。あんな綺麗なひと。


 と彼女は言っていた。なのに、あの部屋で彼女は写真の中の恭介と会話していたのだろうか。ほぼ即死だったその瞬間彼女は何を考えていたのだろう。

 都会はこんなに人間が多いのに、交わす言葉は決して多くは無くなった。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ