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悪役令嬢のお友達  作者: 北見なみ
5/12

はじめてのお友達

初めてのお茶会を終え、家族そろって満足した顔で帰路につく。


馬車の外を見るともなしに見ながら、湧き上がる喜びに口元が緩むのを止められない。


ゲームをプレイしていた時からエレノアには好感を持っていたが、まさか、エレノアとこんなに気が合うとは思わなかった。



ゲーム内でのエレノアは、王子様のことが本当に好きで、そんな王子様に近づくヒロインを嫌う。

嫌がらせはもちろん良くないことだけれど、打算まみれのヒロインよりも一途に王子様を愛して嫉妬するエレノアのほうがかわいく見えた。



そして貴族社会のルールを知った今となっては、少し行き過ぎではあったけれどエレノアの行動のほうが正しいとすら思える。


婚約者のいる男性に過剰なボディタッチをする。

婚約者でもないのに一度のパーティで2曲以上踊る。

婚約者でもないのに名前や愛称で呼ぶ。


などなど、貴族社会では当然と言われるルールが存在している。

ヒロインはそんなルールをことごとく無視して、エレノアに苦言を呈されては、いじめられたと言って王子様に泣きつくのだ。



以前は『エレノアちゃん、悔しいのは分かるけどきびしいなー』くらいにしか思っていなかったが、今ではエレノアの正当性とヒロインの非常識さがよくわかる。


王子様の髪色や瞳の色を連想させる装いで舞踏会に参加したヒロインが、エレノアに水をかけられるシーンがあったが、水で我慢しただけ優しいとすら思う。



この世界では、婚約者や配偶者の色を連想させる装いをすることで、関係の良好さを周囲に伝える文化があるそうだ。

また、婚約者のいないご令嬢が意中の男性を連想させる装いで密やかにアピールすることもあるが、すでにお相手のいる男性を連想させる装いというのは、社交界では御法度。


それなのに、誰がどう見ても王子様を連想する装いで、腕を絡めて名前を呼び、何曲も踊られれば婚約者であるエレノアに喧嘩を売っているようなものだ。



エレノアとの邂逅を思い出しつつ、考える。

ゲーム内のエレノアは、優雅ではあるが気が強そうで、ある意味で高位貴族らしさのある、つんとした美女だった。


しかし、今日対面したエレノアとは正直結びつかない。

成長していくにつれて性格が変わることはままあることではあるが、それは周りの環境によるものが大きいだろう。


彼女は王家に連なる高位貴族で、彼女より上の立場といえば王家の方々くらいで、対等な立場の友人は作りづらいに違いない。

それでも、今のエレノアは取り巻きを引き連れるような子には見えなかった。



対等な立場であるボールドウィン家と同じ侯爵家――三大侯爵家に数えられるティベリオ領のフォーサイス家とガヴィリオ領のサンチェス家にも、それぞれ歳の近いご令嬢がいるそうだが、『王家への謀反を防ぐため、三大侯爵家同士の過度な交流は控えるべき』という暗黙の了解があるそうなので、親しい友人にはなりづらいだろう。


ゲーム内のシンシアたち取り巻きは、とても対等な友人には見えなかった。

そしてエレノアのすることなすこと持ち上げるばかりで、ヒロインにきつく当たるエレノアを諫めるどころか、同調し囃し立てていた。


幼いころからそんな子ばかりが周りにいれば、どんな子でも多少は傲慢になるだろう。


むしろ、優しく素直そうなエレノアは周りにたきつけられていたのではないかとすら思う。

そう考えると、これからの彼女との接し方次第で、彼女の運命が大きく変わる可能性もあるだろう。



(わたし個人としてもエレノアちゃんとはぜひお友達になりたい!

それで彼女の運命が変われば一石二鳥だわ!)



エレノアに借りた本をなでながら、心の中で拳を握る。



「お父さま、わたしエレノアさまにまたお会いしたいです!」

「そうだね、馬車の旅も大丈夫なようだし、侯爵のお許しが頂ければ会合の時に一緒に行こうか。」

「はい!約束ですよ、お父さま!」



父の言葉に瞳を輝かせれば、母と兄がよかったねと頭をなでてくれた。




あれから、エレノアとはかなり頻繁にやり取りしている。


借りて帰った本はあっという間に読み終えて、すぐに感想をしたためた手紙を送った。

エレノアからもすぐに返事があって、本について語り合ったりおすすめの本を紹介しあったり。


前世ほど交通の便が発達していないので直接顔を合わせることは難しかったが、数日おきに手紙のやり取りをして、一度しか会っていないのにこの数か月でかなり仲良くなれたと思う。


初めて会ったときに感じた通り、本の趣味がよく似ていた。

感性が似ているところが多いのか、お互いのおすすめを紹介してがっかりしたこともされたこともない。


次第に本のこと以外にも話題が増えていき、手紙の分厚さをみた家族には笑われるほどだった。




「お父さま、わたしも行きたいです!エレノアさまに会いたいの!」



そんなある日の夕食席で、父が「明日は仕事でボールドウィン家に行ってくるよ」と言った。

大きな港町のあるリメリオ領と海と王都をつなぐ運河の大部分を占めるリベラニアは、領地の経営をするうえで深い繋がりがあり、父たちが頻繁に行き来しているのは知っていた。


今までは幼いからという理由で兄しか連れて行ってもらえなかったが、今回からはぜひ一緒に行きたい。

祈るような思いで父を見つめると、「そう言うと思っていたよ」と苦笑された。



「シンシア、明日うかがうのはボールドウィン家の本宅で、先日よりも遠い場所にある。もともとアルバートを連れていくつもりだったから、休憩を多くとれるようにしてあるけれど、距離は先日の倍以上あるんだ。大丈夫かい?」

「大丈夫です、お父さま!とっても元気ですし、この前の馬車の旅も楽しかったですもの!」

「父上、僕からもお願いします。シンシアの面倒は僕がみますから。エレノア嬢は、シシーにとって初めてできた友人なんです。」



兄も加勢してくれたので、二人そろって上目遣いに見つめると、降参だとでもいうように両手を上げて、「分かったよ」と父は笑ったのだった。






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