はじめてのお茶会3
「さて、紹介しよう。我が家の天使、エレノアだ!エレノア、皆さんにご挨拶しなさい。」
案内されたサロンで、娘たちの顔合わせが始まった。
侯爵に促されたエレノアが、緊張した面持ちで椅子から立ち上がる。
「セシリアさま以外とは、お初にお目にかかります。エレノア・ボールドウィン・リメリオです。」
幼いながらも優雅に淑女の礼をして、少しはにかみながら口上を述べるエレノアを、ほほえまし気な顔で見つめる大人たち。
続けて、あちらの兄君たちも挨拶してくれて、今度はこちらの番だと視線が集まった。
隣に座る兄がすっと立ち上がって、そつなく礼を返す。
「エレノア嬢、お初にお目にかかります。アルバート・オルティス・リベラニアです。兄君たちと仲良くさせていただいてます。以後お見知りおきを。」
にこりと微笑んで挨拶を終えた兄の視線を受けて隣に立つと、兄がそっと背中に手を添えて、励ますように微笑んでくれた。
その笑顔に勇気をもらって、わたしも立ち上がり礼を返す。
「みなさま、お初にお目にかかります。シンシア・オルティス・リベラニアともうします。本日はお招きいただきまして、まことに光栄に思います。」
緊張しつつもカーテシーをして微笑めば、関心したような侯爵が父の肩をたたきながら笑った。
「ブライアン、お前が言っていた通り聡明そうなお嬢さんだな!うちのエリーに負けず劣らず、綺麗なカーテシーだ!」
「ありがとう、フレッド。親ばかなのは承知の上だが、それを抜きにしても優秀で自慢の娘だよ。」
そう返す父が本当にうれしそうで、こちらまでうれしくなる。
親ばか全開で褒められているので、恥ずかしくもあるけれど。
一通り挨拶が終わると、侯爵の合図でお茶が運ばれてきた。
香り高い紅茶と可愛らしくおいしいお菓子をいただきながら、和やかにお茶会が進んでいく。
エレノアの緊張も徐々におさまってきたようで、時折わたしに向けてくれる笑顔がまぶしい。
「シンシアさまも、ご本がお好きなのですね。」
「はい。物語はどんなものでも好きですし、図かんをながめるのも好きです。」
オルティス家はみんな読書家だ。
幼いころから書物に触れる機会も多く、前世からオタクのわたしも、この世界の物語たちにすぐ夢中になった。
図鑑に関しては兄の影響が強いが、草花や鉱石の図鑑を眺めて解説を読むのが好きだ。
「わたくしも、読書が大好きなのです!さいきん読んだのは『レイニアの風』というぼうけん小説で…」
「『レイニアの風』わたしも大好きです!」
『レイニアの風』とは子供向けの冒険小説だ。
臨場感あふれる文章と、見せ場シーンに差し込まれるイラストが躍動感たっぷりでかっこいいと、貴族子息の間で話題になり始めている。
どちらかといえば少年向けで、ちょうどお互いの兄たちくらいの年代に人気らしい。
「お母さまが、お兄さまにと買ってくださったのですけれど、お兄さまよりわたしのほうが夢中になってしまいました。」
「わたくしも同じです!ぼうけん小説ははじめて読んだのですけれど、本当におもしろくて…ほかの作品も読んでみたいのでお父さまにおねだりしているところなのです。」
少し照れたように笑うエレノアが、本当にかわいい。
そして、意外なことに読書の趣味が大変よく合いそうだ。
盛り上がる2人を、大人たちも兄たちも嬉しそうに見ている。
我が兄に関しては知っていたことだが、あちらの兄君たちも結構なシスコンらしい。
表情が完全に両親と一緒で、妹に友達ができたことを喜んでいるようだ。
「エリー、せっかくですからシンシアちゃんを図書室にご案内したら?シンシアちゃんの気に入る本があれば、貸して差し上げてもいいですよ。」
「シンシアさま、いかがですか…?シンシアさまがよろしければ、わたくしの好きなお話を読んでいただきたいです…」
「もちろん、よろこんで!」
少しの期待を込めた、輝く紫紺の瞳と目が合う。
ほんのり染まった頬といい、本当に美少女だ。
(いやほんと、エレノアちゃん可愛すぎじゃない!?
お姉さん、エレノアちゃんのおすすめならいくらでも読むよ!)
優雅にほほえみながら、内心でエレノアの可愛さに悶える。
嬉しそうに笑ったエレノアに手をひかれ、一緒に図書室に向かうのだった。
「まあ…!」
エレノアと共に向かった図書室は、古いものから新しいものまで多くの蔵書がそろえられていて、本好きとしては胸をときめかせずにはいられない。
扉を開けた瞬間に目を輝かせたわたしを見て、エレノアが嬉しそうに微笑んだ。
「シンシアさま、本当にご本がお好きなのですね。ふふ、目がきらきらしています。」
「すみません、あまりにも素敵な図書室でしたので…!」
非公式な場であるが、貴族の子女として社交のために来ているのに、つい素で喜んでしまった。
恥ずかしくなってしゅんとするが、エレノアはさらに笑みを深めて「よろこんでいただけて、わたくしもうれしいです。」と言いながら、繋いだ手にきゅっと力をこめてくれた。
そんなエレノアの様子に嬉しくなって、私も繋いだ手に力をこめる。
「ふふっ、シンシアさま、わたくしのおすすめをご紹介させてくださいませ!」
「ええ、ぜひ!」
まだ、出会って1時間と少し。
それでも、確かな予感がする。
―――きっと彼女との出会いは、わたしにとって、生涯の宝になる。




