はじめてのお茶会2
そして翌日、家族そろって馬車に乗り込んだ。
お隣の領地で、古くから付き合いのある家同士なので、両家の本宅は比較的お互いの領地寄りにある。
そのため早馬で半日、馬車だと1日。
それでは幼いご令嬢には大変だろうということで、あちらが領地内で最も西寄り―――つまり我が領地リベラニア寄りの別宅まで出てきてくれるらしい。
ちょうどそこがお互いの本宅の中間地点にあたるらしい。
他家も交えての本格的なお茶会であれば、領主館である本宅で行うのが普通だが、今回はあくまで娘同士の顔合わせ。またの名を、娘たちにお友達を作ろうの会。
まだ幼いわたしを気遣っての、ありがたい提案だった。
それでも片道3時間。
遠出に慣れていない者としては少々しんどい距離だが、それよりも楽しみの方が勝っていた。
領内の視察に同行させてもらったことはあるが、領地から出るのはこの世界に生を受けてから初めてのことだ。
(精神年齢だけみれば、もういい年なんだけどね…。)
そうは思いつつも、変わっていく景色と風に混じる潮のにおいに、ワクワクがとまらないのだった。
馬車に揺られること3時間。
たどり着いたのは、白亜の豪邸だ。
さすが大領地を治める侯爵家なだけあって、別邸とはいえ立派である。
それでも嫌味な感じがしないのは、華美すぎない外観と前庭の豊かな緑のおかげだろう。
可愛らしい花々が色とりどりに咲き誇り、丁寧に手入れされた庭木は青々としていてとてもさわやかだ。
感嘆の思いでお屋敷を眺めていると、門前で一度止まった馬車が再びゆっくりと動き出した。
そうして案内された屋敷の前で、ボールドウィン家が勢ぞろいで出迎えてくれた。
「ブライアン!よく来てくれた、久しぶりだな!」
闊達に笑いながら進み出たのは、シルバーブロンドをしっかりとなでつけ、深い紫紺の瞳をキラキラと輝かせたリメリオ領主のボールドウィン侯爵だ。
親しい間柄とはいえ、侯爵と伯爵。
貴族社会では家格がものをいうことが多い。
「ご無沙汰しておりました、ボールドウィン卿。本日は娘までご招待いただきまして、誠に…」
「よせよせ、ブライアン!私たちの間にそんな堅苦しい挨拶は必要ないだろう!」
定型の挨拶をはじめた父を、笑いながらさえぎる侯爵。
父から聞いていた通り、フレンドリーな性格のようだ。
ブロンドを華やかに結い上げた公爵夫人は翡翠の瞳に呆れをにじませ、瞳の色以外は侯爵に瓜二つな男の子と、瞳の色以外は夫人に瓜二つな男の子はまたかとばかりに苦笑している。
父も少しあきれたように息をつくと、「久しぶりだね、フレッド」と笑った。
お互いに肩をたたきながら声をかけあう2人を見ると、本当に仲の良い友人なのだと感じる。
そんな夫たちをあきれたように見ながら、顔を合わせる母と侯爵夫人も仲がよさそうだ。
手をつないでいる兄がこっそり、わたしの耳元で「いつもこうなんだよ」と言って笑っている。
二人でクスクス笑っていると、ふと視線を感じた。
どうやら、侯爵夫人の影に隠れた悪役令嬢その①――エレノアがこちらを見てはもじもじしているらしい。
(かっ、かわいい…!)
陽の光に輝くふわふわとしたシルバーブロンドに、深い紫紺の瞳。
お人形のように整った顔立ちの、可愛らしい女の子。
色合いは公爵に似て、顔立ちは夫人に似たらしい。
ゲームで見ていた時はもっとつんとした感じだったが、今の彼女は恥ずかしがり屋なようだ。
想像以上に可愛らしい悪役令嬢の登場にひっそりとテンションが上がってしまった。
もじもじしながら見つめあう娘たちに気が付いたのか、侯爵夫人はエレノアの頭を軽くなでると、くすりと笑って夫に声をかけた。
「さあさあ、旦那様。こんなにいいお天気の中でレディをいつまでも立たせておくものではありませんわ」
たおやかに笑いながら夫人が声をかけると、父の肩を抱いて楽し気に何かを話していた侯爵はハッとした顔をして、笑いながら頭をかいた。
「これはこれは、失礼した。このままではお前の美しい白い肌が焼けてしまうな!」
そう言いながらするりと夫人の手をとると、おどけたように礼をして、ようやく私たちを屋敷の中に案内してくれたのだった。




