はじめてのお茶会1
転生した世界がプレイしていた乙女ゲームの世界だと気づいてからも、わたしの暮らしは特に変わらなかった。
魔法訓練、教養、淑女としての立ち居振る舞い…それらを日々教え込まれ、適度に遊び、両親と兄にそれはそれは大切に育てられた。
物覚えの速さから、天才だ神童だと褒めそやされた時はどうしようかと思ったものだ。
わたしは天才でも神童でもなく、同年代の子供よりも言葉を理解しやすく、効率的な勉強の仕方を知っていただけなのだ。―――前世で義務教育や高等教育、社会人まで経験しているが故に。
わたしが16歳から通うことになるリターリア魔法学園では、領地や国の運営に必要になる、魔法学と教養を、3年かけて学ぶ。
そしてそこでは、良家の子女であればあるほど、それに見合った成績を期待される。
豊かだが小さな国なので、貴族一人ひとりにかかる期待と責任は大きくなり、努力もできない無能だと分かれば世間に白い目で見られてしまうのだ。
妙に落ち着いた、物覚えの早すぎる娘を不気味がることもなく、心から慈しみ愛してくれる両親。
どんな時でも味方でいてくれて、たまには肩の力を抜けと甘やかしてくれる兄。
そんな家族の期待を裏切り、家名に泥を塗るわけにはいかない。
だから、慢心せず真面目に勉学に励んだ。
単純に、こちらの世界のことを知るのが楽しかった部分も大いにあるが。
―――そうして過ごしているうちに、友人のいない子供になってしまった。
(屋敷から出ることも少ないから、同世代の子供と知り合わないし、知り合えたとしてもわたしは領主の娘だもの…。お友達にはなりづらいよね。)
加えて、同世代の子供のことを可愛いと思うことはあれど、どうしても対等な友人としてではなく、庇護の対象として見てしまう。
こちとら、精神年齢だけを見れば同世代の子供の母親でもおかしくない年齢なのだ。
それに、友人がいなくて困ったこともない。
大人と話す機会は多いので社交性が身につかないわけではないし、遊び相手なら兄がいる。
趣味が読書なので、一人でも楽しい。
友人は学園に入ってから、将来困らない程度に作ることができればいいだろうと思っていた。
しかし、両親はそう思わなかったらしい。
可愛い娘に友達がいないのを気にして、同い年の娘のいる知人のお茶会に参加できるよう計らってくれたそうで、明日は人生初のお茶会に参加することになった。
次期伯爵として連れ歩き、着々と友人を増やしている息子と違い、一人の友人もいない娘がかわいそうに見えたらしい。
「本当なら、6歳ではお茶会に出られないのだけどね。シシーはとても賢いし、マナーもすでに完璧だ。あちらのお嬢さんも友人がいないと嘆いていてね。ぜひ会わせてみようという話になったんだよ。」
父は、お父様もお母様も、お兄様も一緒だから心配ないよ、と笑っている。
明日行くのはお隣の大領地・リメリオの領主、ボールドウィン家だそうだ。
(リメリオ…ボールドウィン…、確か悪役令嬢その①エレノアの生家だ。まさかこんなに早く会えるなんて!ぜひお友達になりたい!!)
「ボールドウィン家とうちは何代も前からの付き合いだし、あちらのご夫妻と私たちは学友でね。爵位にこだわらず昔から親しくしていただいているんだよ。」
そう言って優しい顔でわたしの頭をなでる父。
「お母様は一度、お嬢さんにお目にかかったことがあるけれど、本当に可愛らしいお嬢さんだったわ。シシーと同じくらい聡明そうな子でした。2人が並ぶときっととてもかわいいわ!」
可愛いもの好きな母は、少女のように目をキラキラさせている。
「僕はエレノア嬢と会ったことはないけれど、兄のジェイドやレッジは良い奴だよ。妹は優しくて良い子だと言っていたし、僕がシシーの話をしたら妹と気が合いそうだと言っていたから、きっと良い友達になれるよ。」
兄は励ますように優しく手を握ってくれている。
「お兄さま、リメリオやボールドウィン家のみなさんのこと、もっと教えてくださいませ!」
わたしがそうねだると、兄は少しあきれたような顔で笑いながら、頬をつついてくる。
「シシーは少し真面目すぎるなぁ。そこが君の良いところでもあるけれど、もう少し方の力を抜いてもいいんだよ?」
苦笑した兄がそうもらすと、父や母まで頷いている。
「いいえ、お兄さま!わたしはオルティス家の娘として、お父さまやお母さま、お兄さまに恥をかかせるわけにはいかないのです。それがわたしの、大切な家族に対するあいじょうの示し方なのですもの!」
自分でもいささか頑なだと思うけれど、領主の娘として立派な淑女となることが、両親や次期当主の兄にとって一番の恩返しになると知っているから。
(なによりわたしがエレノアちゃんとお友達になりたい!女性キャラの中で断トツでルックスが好みなの!)
個人的な願望も大いに込めつつ、ふんすと息をつくと、肩をすくめた兄は仕方ないなあ、と笑った。




