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悪役令嬢のお友達  作者: 北見なみ
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プロローグ

ああ、早くお家に帰ってゲームがしたい――



そんなことを思いながら、なんとか乗り込んだ最終電車で大きく息をつく。

初夏だというのに、降りしきる雨のせいでずいぶん冷える夜だった。


やっとのことで仕事を終わらせ、疲労困憊ながらもどこか浮足立った気持ちで電車を降りる。

中途半端な器用さと断り切れない性格のせいで、仕事に埋もれ忙殺される日々。

そんな生活の中で、唯一の癒しが乙女ゲームだった。


はやくクリアしたいゲームがあるのだ。

中世ヨーロッパ風ファンタジーな世界で、斜陽貴族のご令嬢がハイスペックヒーローに見初められ幸せになるシンデレラストーリー。

まあ、ありがちな設定。



ただ、ヒロインがあまり好きじゃないのよねぇ…



天真爛漫、素朴で庇護欲をそそる健気な女の子。一見するとそうなのだが、実際は野心家でしたたかな…まあ、一言でいうと腹黒い。

恋愛感情や好意ではなく、『斜陽貴族から抜け出したい』という打算から攻略対象たるハイスペックヒーローに近づいていく。


相手に婚約者がいようと悪びれる様子はなく、それどころか証拠もないのに婚約者に嫌がらせされたと訴えて悪役にする。

嫌がらせをして去っていく姿を見て、『違うかもしれないけどあれはきっと彼の婚約者の〇〇様…!そうじゃなくても〇〇様ということにしておけば相談と称して彼にまた近づけるわ!』というタイプなのだ。


すでに相手のいる男性にアプローチして、注意を受けるといじめだ嫌がらせだと訴えるのはいかがなものだろう。

ゲームの性質上、ヒロインにはヒーローと接近してもらわねばならないが、あまりにもガッツと悪意にあふれている。


一番腹黒かったのは、従兄である宰相子息の攻略。

クールに見えて人の良い従兄を誘惑、彼の婚約者が通ると分かっている場所でキスして目撃させ、振られた従兄を慰めるふりで篭絡。

見事な悪女である。


もし本当に悪役令嬢がヒロインに嫉妬して嫌がらせをしたのだとしても、ヒロインよりもよっぽど相手を愛していると思う。

恋心というより、立場からくるものだとしても、婚約者に近づく女をけん制する悪役令嬢たちのほうが、健気で可愛く見えるのだ。



(早くコンプして次のゲームにうつりたい…!)



王子様、宰相子息、エリート宮廷魔導士…3人の対象を攻略すると裏の攻略対象が現れる仕様だったようで、まだ完全攻略出来ていないのだ。

今までのストーリーから考えるに裏ルートも期待できそうにないが、コンプリートしないまま終わるのは性格的に許せない。


それに、好みのストーリーでなくても現実より数段ましな世界なのだ。どんな手段であれ、誰かに愛される世界。

さあ、早く帰宅してゲームでこのささくれだった心を癒さなくては。


青になったばかりの横断歩道を、急ぎ足で渡る。左前方がやけに明るい。






―――そう思っているうちに、私の人生は一度終わったらしい。


次に気づいた時には、生まれたばかりの赤ん坊として、見知らぬ大人たちに囲まれていた。


ぼんやりとした視界と思考の中で、生まれ変わったのだと認識した。

精神が肉体に引っ張られるらしく、言葉も話せなければ感情の制御もままならない。

それでも、一度は成人した記憶を持つおかげか、かなり大人しい赤ん坊だったと思う。



改めて生まれ変わった…それどころか前世とは全く違う世界に生まれたのだと知ったのは3歳の時。


それなりに位の高い家に生まれた自覚はあったのだが、どうやら貴族に生まれたらしい。

言葉をある程度理解できる年になると、貴族として必要な教育が始まった。

本当は4歳からの予定だったそうだが、記憶がある分、口が回るようになってからは言葉が早く、1年前倒しで教育を始めることになったそうだ。


この世界には魔法が存在していて、電気やガスの代わりに魔法を使うことで生活が成り立っている。

平民でも魔力を有しているが、貴族は特に魔力に優れているそうだ。

わたしが生まれたオルティス家は、水や風の魔力を持つ者が多く、わたしの魔力は水だった。

ご先祖様がとても優れた水と風の魔力を持っていたので、海から王都まで続く大きな運河を持つ領地を任されたらしい。


つまりわたしは、国にとって結構重要な土地を任された領主の子孫であり、なかなかのお嬢様であるということだ。

前世ではいわゆる一般的な家庭に生まれ、生活にそれほど不自由なく暮らし、しかし働かずに生きていけるほど金銭的に恵まれているわけでもない―――ごく普通の人間であったのに、ずいぶんと出世したものである。


そんなことを感じながら魔法の勉強に励み、魔法について基本的なこと学んだあとはあとはひたすら実技訓練。


幼いうちに魔法を多く使うと魔力が高まりやすいので、基本の知識を身につけた後は専門知識よりもまず実技なのだそうだ。

領主一族らしく、わたしの魔力はなかなか高いようだ。この1年でさらに高まった。

五つ離れた次期当主である兄のアルバートも、かなり素質のある風魔法使いで、オルティス家は次代も安泰だと大人たちは満足げだ。




そして、ここは異世界ではあるけれど、知っている世界だと知ったのが今日の午後。

ただいま4歳である。



魔法技術と魔力が及第点に達したので、次は教養を、と国の成り立ちから教えられた。

国の名前、他の領地、領地の特徴や主要貴族の名前…それらが前世のわたしが最後にプレイしていた乙女ゲームそのものだったのである。


そういえば、ゲームに登場する悪役令嬢その①である王太子の婚約者――エレノア・ボールドウィン・リメリオ侯爵令嬢の取り巻きの中に、青い髪の女の子が居た気がする。

そしてその女の子を幼くした顔は、毎朝鏡の中で見る顔だ。


つまり、その青い髪の女の子―――シンシア・オルティス・リベラニアが、わたし。


どうやら、悪役令嬢のお友達に転生したようです。






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