拉致、そして仮司令官に
初めまして、落合秀樹です。
楽しんでもらえれば幸いです。
「死ぬかと思った…」
僕は幻覚魔法にでもかかったのだろうか。
だってダイアウルフの群ってBランクの冒険者パーティーか聖騎士団の分隊と同じぐらい強くてEランク冒険者の僕なんかでは到底歯も立たないレベルなのに…そう考えながら首から下げた家宝の模様が彫られた金属製の板を僕は無意識のうちに握りしめていた。
「夢だな!これはきっと夢だ!ここ2.3日魔法撃ち続けたから疲れてたしな、うっかり寝ちゃったんだろう!ははははははは……はぁ…」
だめだ、乾いた笑いしか出ない…
さっきまで僕を追いかけていたダイアウルフの群れが辺りに血や肉を飛び散らしながら消滅していく様を見ながら僕は夢にしてはリアルだなあ、なんて考えていた。
「目標殲滅完了、救助対象の生存を確認。」
さっきから僕の後ろで筒のような物を使ってダイアウルフを爆散させていた鉄のゴーレム?が1人の女性に報告しているのが聞こえたので振り返ってみた。
「了解、警戒態勢に移行せよ。」
女性は僕と同じぐらいの歳だろうか?身長は同じぐらいで目は透き通るような青で髪は金髪のロングストレート、顔はとても整っていて、そしてなによりその声と姿勢は凛としていて気品に満ち溢れていた。
「「「了解」」」
返事と同時にゴーレムは僕と女性を囲んだ。その動きはゴーレムにしてはとても滑らかで実は人間でも入ってるんじゃないかと思うほどだった。
「お怪我はありませんか?私はアリスと言います。」
女性はさっきとは打って変わってとても優しげに話しかけてきた。
「えぇ、おかげさまで。ありがとうございます。僕はエイジ・アマノと言います。本当にありがとうございます。」
そう言って頭を下げるとアリスさんは泣きそうな顔になって頼むから頭を上げてくれと言ってくる。
「あの、なにか僕まずいことしてしまったでしょうか?」
心当たりはないが聞くしかないだろう、女性が泣いているのだ。僕にはちょっと経験がないので対処法がわからない。
少しして落ち着いたのか女性が顔を上げるとさっきの優しげな表情に戻っていた。
「申し訳ありません。そうではないのです。あまりの嬉しさに動揺してしまったので…」
ますますわけがわからないぞ…?
でもまずは助けてくれたし謝礼を払わないと…僕の手持ちで足りるかはわからないが…
「少ないのですが受け取ってください。」
今度は向こうが困惑し出した。相手が冒険者でなくても助けた側にはお金を受け取る権利があってこういう場合は持っているお金を渡すのがセオリーなはずなのに何度言っても受け取ろうとしない…そういえば魔石を回収する気もなさそうだな……なんか怪しいぞ……
ここでふと小さい時に聞いた今は亡き両親の言葉を思い出した「「怪しい人がいたら取り敢えず逃げなさい。」」、これまで何度か僕の命を助けてくれた言葉だ。今回も従おう。
「えっと、それでは僕はこの辺で失礼します。」
「!?」
女性が固まってしまった。
「ありがとうございました。」
そう言って立ち去ろうとするとアリスさんが僕の腕を掴んできた。
「エイジさん、お話があるので少し残ってはいただけないでしょうか…?」
街中で言われたらグッとくるシチュエーションなんだろうがここは森の中でしかも周りには武装してるゴーレムと血塗れの木々…だめだ嫌な予感しかしない。
「急ぎの用事があるのでここで失礼したいのですが…」
なんとか逃げないと…奴隷商人かもしれないし…
「エイジさんの首に下がってるもののことで話があるのです。」
「!?!!?」
これはだけは絶対に手放すなと両親に言われたから誰にも見せてないし話してもいない、さっきも彼女は僕の後ろにいたから見えてはいないはずなのにどうしてわかったんだ…
「それは、エイジさんのもので間違いありませんか?」
どうしよう、家宝が狙われているんだろうか…?でもただの模様が彫られた板だしなあ…
それに正直に話したほうがいい気もするな。助けてくれたし。
「そうです。これは代々僕の家系の家宝です。」
「そうですか。よかった。」
それでは失礼しますと言ってアリスさんが僕を抱きかかえて空中に突然現れた乗り物に飛び乗った。それから数時間しないうちに目的地に到着したみたい。疲れてたのか眠ってしまって全然道中のことは思い出せないけど。
「先ほどは失礼しました。直接来ていただいた方がエイジさんに落ち着いて話を聞いていただけると思ったので来ていただきました。」
空飛ぶ乗り物って神話の時代の技術じゃん!!
てかこれ拉致じゃん!!!
全然落ち着かないよ!!!!
「全然落ち着かないよ!!!!」
あ、声に出ちゃった…
「ですがこの方が私たちの話を信じていただけるのではないかと思ったのです。」
これからなんの話をされるんだろう…
そう思っているとアリスさんが部屋のティーセットでお茶を入れてくれた。
「ありがとうございます…」
とりあえず飲んで落ち着こう。
「エイジさん、それは私達の要塞の鍵なんです。」
ブフゥーーー!!!!ゲホッ!ゲホッ!!
「ごめんなさい!!!!!」
紅茶吐き出しちゃったよ…
アリスさんにかかっちゃったし…
殺されるかも……父さん母さんごめんなさい。
2人がつないでくれた命こんなことでなくなりそうです…
……あれ…?なんでアリスさん嬉しそうなの…?
なんで顔についた紅茶舐めてるの…?コワイ…
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「エイジさん、それは私達の要塞の鍵なんです。」
何もなかったことにされた…コワイ…いろいろコワイ……悲しいかな、僕には拒否権がなさそう…
「お願いします。」
アリスさんは僕に鉄製の板を渡してきた。
「その板の右側面にエイジさんの鍵を入れてください。」
言われた通りにするしかなさそうだ…
『アクセスキーを認証、遺伝子に前司令官との類似点を確認。前司令官の命令に従い司令官不在の非常事態につきエイジ・アマノを仮司令官として登録します。』
うわっ!喋った!!
「やはりエイジさんはあの方の子孫だったのですね。よかった。」
いや、よくない…勝手に司令官とか仮だとしても勘弁してほしい。
「あのう…これは一体…?」
「これでエイジさんはこの要塞の仮司令官として登録されました。」
「もし認証されてなかったらどうなっていたんでしょう…?」
アリスさんがスッと目を逸らした。
コワイよう…まじでコワイよう…
「大丈夫です。ここの管理は私が行っているので大丈夫です。」
なにが大丈夫なのか言わないあたりがとてもコワイですアリスさん…
「えっと、いろいろ教えてほしいんですけどまず、ここはどこでアリスさんは何者なんですか…?」
「分かりました。しっかりと説明させていただきます。」