もぎたい彼女はTS幼女を恨む
“TS幼女は~”シリーズの番外編です。今作はシリーズでも毛色が少し違いますのでご注意を。
シリーズでチョコチョコ垣間見えるもぎ子(仮)さん。
ダンマスのTS幼女の一人称視点では語られない歴史が彼女にもある。
その電波を受信してしまいましたので、投稿。
むすっ。
「……Zzz」
わたしは今、それはもう……とっっっても、不機嫌です。
「…………Zzz」
なぜかって?
原因は今わたしが後ろから抱き抱えるようにして一緒にこのベッドで横になっている、さりげなくレースやフリルが入った可愛らしいワンピースパジャマを着た幼女です。
普段着代わりに着ぐるみパジャマを着てるのに、寝るときは違うなんて変なの。
幼女の頭から生えているアホ毛がわたしの腕に、巻き付くように絡んでくるのがなんとなく微笑ましいけど、その位では不機嫌は治らない。
幼女の高めの体温でぬくぬく幸せだろうと、腕にぽよぽよ当たるやわっこいアレのせいで、不機嫌ゲージの降下速度は超鈍足。
ヤハリコノ、フタツノオオキイフクラミハ、モイデシマイタイ。
この幼女は4年前、トラウマに近い悲しみの記憶をわたしに刻み込んで、この世から消えた男の子だった。
男の子はわたしの友人……正直に言えば、片思いの相手。その子の親友に洗いざらい打ち明けて、聞き出した情報から男の子に近付こうと沢山頑張った。
例え片思いの人にわたしじゃない思い人がいようとも、せめて友達としてでも近くに居たかったから。
そしてしばらくの後に、放課後の寄り道ではない、休日に1日遊ぶ約束を取り付けて、いざ休日デート!ってタイミングだった。
待ち合わせで約束の時間を30分は越えて、遅いな~いつまで待たせるんだろ~。でもどれだけ遅れても笑顔で迎えるのが良いオンナ!なんて健気な女の子ブってるのはキャラじゃない。
そこで電話をかけてみたのが永い絶望の始まりだった。
結論を言うと、急死だった。男の子は静かに眠るように死んでいたそうだ。
その事実を知り、思ってしまう事。
――わたしのせい……?わたしと遊ぶ約束をしたから?わたし、大切な人と約束をしてはいけない人間なの?
お葬式に参列してから、命日にあの子の家へお線香をあげに行く以外はずっと引きこもり。とにかく自分を責め続ける日々。
わたしの恋心を知る人達は、誰のせいでもない。わたしは悪くない。そう言って家に籠ってしまったわたしを励まそうと、メールやわたしの部屋の前で言ってくれるけど、なにもわたしの心に届かなかった。
わたしが欲を出して約束なんてしないで、気持ちを封印して喋るだけの仲だったら。約束の時間まで待たないで、迎えにいっていれば。そもそも友達になっていなければ……。
後悔ばかりで心の殻に閉じ籠っていたら、あの子が亡くなってから3と半年近く。わたしはハタチを越えていた。学校はあの時から登校していないし、中退になっているだろう。
ずっと籠り続けるわたしに両親が、ついに強引な手段に出た。扉を破り、わたしを外へ引きずり出したのだ。
そして引きずり出されて、色々教えられた。主に大きく変わった世界のこと。“あの頃”とは違う世界だから、日が暮れる頃まで外へ出て、変化を感じて来なさい。
そう言われて無理矢理外に出された。
あてもなく歩き回っていると、沢山の人がある方向へ流れていく。
それが気になって、人の流れに乗った。
たどり着いた場所は、役所の隅。
そこに設置された高台から、目立つ薄いピンク色の髪をした小さい女の子の姿が見えた。
「…………っ!?」
見えた瞬間に、自責でボロボロ、死別という悲しみで凍えきって久しいわたしの心が暴れ狂う。
「アイツが生きている訳が無いのに、なんであんな小さい子にアイツが重なって見えるのよ……」
――――その時は親から聞いていたのに忘れていたけど、帰宅してから思い出して、ステータスを確認したら分かった。スキル名〈真実を求める眼〉何年も何年も、死別した好きな人の姿を心の内で追い求めた結果芽生えたスキル。スキルの説明文にそう書いてあった。
それを読んだ瞬間、やっぱり死んでいるって事を強く意識させられて、涙がしばらく止まらなかったなぁ……。
それよりなにより、わたしの心が荒れ狂った部分がある。それは嫉妬だ。穴が開きそうなほど見つめても、ツメモノをいくら疑っても否定する、その圧倒的な天然感。
「不公平だ、なんであんな幼女が、わたしより大きい胸をぶら下げてるのよ。なんでわたしの胸は育たないのよ。万年Aだ?うるさいうるさい、わたしはBに極めて近いAだから、実質Bなの。あんな胸なんてクーパー靭帯がブチッと切れちゃえばいいのよ……(ブツブツブツブツ)」
それからのわたしは変わった。
冒険者カードを手に入れて、あの幼女のダンジョンに繰り返し挑戦してレベルを上げ、イベントが始まると聞けば参加する。そしてつのる幼女の持つ巨乳への恨み。
何日かに1日取る休みはお使いも兼ねた町の散歩で、幼女がどこかを歩き回っていないか、へんな人に絡まれていないかと探し歩く。そして頭で幼女への心配と同時に、グルグル渦巻く巨乳への敵愾心。絶対にいつか、もいでやる。
1度商店街で大きい胸を隠して、別人を装う幼女の姿を視たときは、本気でムカついた。アレだけ散々バルンバルンさせておいて、なんで今更隠すのか。それは隠すほど無いわたしへの当て付けかあ゛あ゛ん!?いらないなら、もいでやるぞオラァ!
……そんな日々で、気が付けばストーキングに使えそうなスキルばかり育っている点は知らない。気にしないったら気にしない。
幼女を見れば、死んだアイツの影がいつもチラつく。あの幼女とアイツは絶対に何か関係している。そう信じて幼女の姿を追い求める。
お巡りさん達が幼女を護っている所をよく見るが、わたしは職質されない。だって色々スキルが育って、ほとんど誰にも気付かれず幼女を追えるから。
両親から、前より目が据わったね。なんて言われたけど、それどういう意味よ、ワケわかんない。自分で鏡を見て、典型的なジト目をしてるのは知ってるよ?
前より目が据わったって、それは本当にどんな意味よ、ねえ?
ダンジョンと幼女にばかり関わって過ごし、やって来たこの日。アイツが死んで丁度4年。
アイツの家へ行って、飾られた遺影に向かって手を合わせる。
思い出すのはあの日の気持ちと、それまでに育てた恋心。これはどれだけ経っても変わらない。恋愛感情なんて化学反応、続いても2年半とか聞いたことがあるけど、そんなのを軽く越えても消えない。
それと、アイツの影がチラチラしつこい幼女。あの胸は反則だ、これ見よがしにユッサユッサさせて、我等ヒンヌーの民を嘲笑う悪魔。いつか奴を調伏して……フフフフフフフ。
そんな事を真剣に考えていたら、アイツのお母さんがわたしを戸惑い気味に呼び、尋ねてきた。「もしかして、息子が帰ってきてる事を知らないの?」
――――その時のわたしは、どこかのベタなハニワ人形みたいな顔をしていたと思う。
「……っえ?あのデカチチ幼女が、アイツなの!?」
大雑把にだけど、事情を知った。
アイツは魂だけ抜かれて、神に頼まれて異世界で3年ほど仕事をしていたらしい。
それで帰り際にもうひとつ頼まれた。それがダンジョンマスター業。
地球に置いていった肉体自体は既に処理され、無くなった代わりとして異世界で使っていた肉体をそのまま使っていると。
――――そこでふと思い出す。幼女の姿を見る度にアイツがチラついた理由だ。まだ生きていた頃に、ゲームのやり込み自慢をされた際に、そのゲームで作ったキャラの姿を。
あの幼女の姿でどれだけゲームをやり込んだか、誉めて欲しそうな子供みたいな顔をして、自慢してきたその時を。
あの時のアイツの、あまりにも無邪気な顔にどれだけ胸を苦しめられたか。どれだけ赤くなっているだろう顔を誤魔化すか苦心したことを。
そして永い事閉じ込めていた感情と言葉が、それと真実を知って漏れ出た色々なモノも爆発した。
その後はアイツ以外揃っていたアイツの家族と、ダンジョンにある神社エリアで神へ本気で祈る。
(アイツを連れ去ってメチャクチャにした人生を返せ、異性の体でまともな人生なんて送れないし、ダンマス業で一生が終わるなんて酷すぎる。わたしの壊れかけた心4年分を補填しろ。無理だって言うなら、アイツとくっつくチャンスを整えやがれ。できればアイツと子供を作れるようにして欲しい。ついでにわたしの胸を大きく……はぁ!?無理だぁ!!?ざっけんなぁっ!!)
ブツブツミュンミュン、語りかけるのではなく、神を呪うが如く無理矢理押し付ける感覚で祈り続けた。
……その結果、呪術とか念話とか神との交信とか、変なスキルが生えてレベルが上がっていた事は、汚点だから語りたくない。
それから少し経って、詳しくは語らないけど、世界的に大きな出来事があった。それの説明に幼女が使われ、恥ずかしい思いをしたら実家に逃げ込むかも。
そうアタリを付けてアイツの実家で待ち受けて、以前やっていたような馬鹿なやり取りをしてから、今まで溜め込んできた思いを込めて告白。
結果は「お前は友達。恋人にしたいなら、俺が好きになるようなオンナになってみろ」
ふざけんな、と思ってしばらく暴れたけど、ふと思うとコイツもなかなかに苦労してるし、忙しくて恋愛どころじゃなかったよねって思い直す。
ならばわたしの告白とその返答通り、一緒に居てこちらに振り向かせてやる!と一念発起。わたしの家へ幼女を連れていって、一緒に暮らすから家を出る宣言。
自分の両親へ挨拶した流れから、死に別れた後のわたし酷い生活を幼女にバラしやがった。それには殺気を出して黙らせようとしたけど、暖簾に腕押し。ちくせう。
それから、あの外に追い出された日の真実を打ち明けられた。幼女の家族とはお葬式をした頃から密かに連絡しあっていて、今日は幼女の晴れ舞台だから、わたしがそれを見かけさえすれば変わると聞いたらしい。
それを聞いたら込み上げてくる物があったけど、それはただの幻想だ。わたしの恥を、コイツへ楽しそうに晒しやがって!!
最後に了承をもらって早速幼女とふたり暮らし開始!って、もちろん時々実家へは帰るよ?喧嘩別れじゃないし。両親大好きだし。あんなやり取りなんて、仲が良くなきゃできないもん。
…………そんな訳で同棲を始めたのは良いのよ。でもね?
「わたしが料理を作るわ!」
「茂木さんの料理レベルは?」
「2」
「マックスの俺が作った方が早くて美味い。俺が作る」
「」
「あ、何か甘い物も作るか。歓迎パーティー代わりに」
「わーい、うーれしー(白目)」
「洗濯、するよ!」
「ほいっ魔法で完璧汚れ落とし。洗濯機で洗うより綺麗」
「(ファッションカタログを眺めながら)こんな服も良いな~」
「欲しいなら縫うぞ?ゲームで最強装備を作るために裁縫スキルは極めたし、買った服のアレンジにも時々使ってる。今なら肌に優しい素材があるから、着心地の良い服が縫える」
「髪の毛をさわらせて~」
「ん」
「…………あれ?別の髪型にしても、勝手にすぐポニテに戻る」
「この体はゲームキャラだからな。装備変更でその辺は変えられる」
「一緒にお風呂入ろっ!」
「良いぞー」
「ついでに寝る時も同じベッドで寝ようか」
「ん~」
「…………わたしは(精神的に)異性だけど、そこまでベタベタしても問題無いの?」
「向こうで散々、そんな感じで遊ばれてな。それで馴れた」
「え~……」
「風呂のアヒルのオモチャや抱き枕扱いなんて日常茶飯事だったからな」
「……(嫉妬の炎)」
はい。解りましたね。何も!!(アピールした)成果を得られませんでした!!
女子力が驚くほど高いのよ!女の子を意識させてドキっ!作戦なんて「ハニトラかー……女の子が好きって察知されて、やられたなー」とか遠い目されて終わるし!
役立つ存在、欠かせない相棒路線を目指しても、それはタマちゃんが既にその場所に居るし!
ならば以前の友達の頃の立場を、と確保しようとすれば「ゲームしてる時間が無いんだよ。ダンジョンと甘えた冒険者達の事を考えないと」とか社畜化してるし!おいコラ神この野郎!わたしの大好きな人の自由時間を求めるぞオラァ!!!
って言うか、どうやって好きって伝えれば良いのよ!そして伝わって、好きって言ってもらえるのよーーー!!
コレはアレですかぁ!?もう色々投げ捨てて、腕にぽよぽよ当たってるソレとかメチャクチャにして、ドロッドロでグッチョグチョな実力行使をしないと駄目ってやつなんですかぁっ!!?
不機嫌極まった頭のグチャグチャ具合を時間かけてなんとかなだめて、腕の中の愛らしい思い人を抱え直す。……その時意識して、さりげない感じに思い人をぽよぽよしたのは死ぬまで秘密。
もいでしまいたい気持ちより、好きな人が持っているモノを愛でたい気持ちが勝っているのは良いことなのだろうけど、まだ恋人同士ではない。我慢の時だ。
「なんでこんなに好きって言いたいのに、伝えられないんだろ……」
思わずポツリと口から出ちゃったの。そしたらね?
ピクッ!
って腕の中の幼女が一瞬動いたのよ。
「……もしかして寝たふりで、実は起きてるの?」
試しに呼び掛けたらね?
こくり。って頭が小さく動いたの。
「抱き枕にされるのは馴れていると言ったけど、そのまま寝られるとは言ってない」
だって。
そんなの聴いちゃったら、不機嫌だった分も併せてどうなると思う?
わたし、コイツに告白したんだよ?その後でこうやって抱き枕になってくれた。それで寝られないって事はだよ、意識してくれてるって事ですよ!?
なんかチョットだけ悪い意味で警戒されているとか言う方向で不安になったけど、そんなの今はポイするよ!
わたしの行動で!意識されていて!寝つけない!こんなの絶対ヘンな方向にしか妄想が進みませんよ!!ええっ!!
腕を動かしても妙な弾力で巻き付いたまま離れない、このアホ毛ちゃんに大○ゅきホールドされてるんだって、後押ししてくれているんだって信じて!!
この愛しい幼女に、どっかの少女漫画みたいにぎゅ~~~っ!と、今度は抱えるのではなく、力いっぱい抱きつく。
「照れてるの可愛いっ!!大好きっ!!!」
「ヤメロおい、苦しい!喉が絞まる、絞まってる………!!」
はい。正解は、絞め落としてしまった。でした。
いつもの後書き小劇場?はありません。
もぎ子(仮)こと茂木さん、圧倒的強者を絞め落とした事により大量のレベルアップ。
ステータスやスキル等にプラス補正がある称号群、ジャイアントキリングとか神殺しとかのアレやコレやがズンドコ付いて、神(になってしまった幼女)の配偶者に相応しい力を備えます。
しかし、本当に配偶者になるかは作者も知りません。
今後の展開は恐らく書きません。
続きがどうしても気になると言って、思って下さる方の妄想の中で進んでいってもらいたいです。