ドーナツ星人
未來幾百年・・・地球では宇宙開発に革命が起こり、卓越した技術を持って宇宙船を使用した探索が可能となっていた。
望遠鏡を覗いては真っ暗な未知の世界へ星々の輝きの謎に想いを馳せロマンティックを感じていた時代とは打って変わって日々、新しい星、宇宙の謎が暴かれ・・・そして未だ発見されていなかった様々な生命体が見つかった。
無数のまたたきの一つ銀河系H564の惑星番号HTS47280093とマークされたナトリウムと輝石の塊、それが後のドーナツ星となる星だった。
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宇宙船ミリアム7号は游泳中、小惑星の群の中に突如として現れた惑星反応をレーダーで探知した!
惑星発見を伝える信号が船内に伝わると共に船員達に緊張が走る、未知との遭遇には危険が付き物だ。
その星は一体何でできているのか・・・空気は、水はあるのか?はたまた生命体は存在するのか・・・
生命体が存在する場合、相手に敵意がある可能性を考慮し武装なんてこともしなければならない。
ミリアム7号は緩やかな速度で惑星へと近づく・・・慎重に慎重に皆が固唾を呑む、色は、成分は・・・地表はどうなっているのか、山や谷の存在、物陰に隠れた石ころまでもを目視で確認できるまで安心はできない。
暗闇を懐中電灯一つで歩くような恐怖が船員たちに広がる、怖い・・・だが一歩また一歩と未知へと近づくたび恐怖と共に別の思いも膨らんでゆく。初めて出会うものへの好奇心、ワクワクだ。なんたって彼らは、広い宇宙を旅する冒険者なのである。
砂埃を高く上げミリアム7号は着陸に成功する。
視界がクリアになるまでのしばらくは張り詰めた空気が艦内を支配していた。今のところレーダーに動くものは映らない・・・
しかし一つ腑に落ちない点が・・・船長であるハンソン・グレモリーは先程から眉間に深いシワを作ったままだ。
遊泳中、突如としてレーダーに反応が現れたからである。小惑星が密集している中だ、惑星どうしで作られた影に潜むこの星を目視で発見するのは至難の業、しかしレーダーに頼ればすぐに発見できるはずである。
何故、この星は突如として現れた・・・まさか船のレーダーが故障したのか・・・?
皆が窓に視線を張り付かせる。砂埃が落ち着いた頃、船から数百メートル先に人工物と思われる物体を発見した!!
「船長!あの黒い金属のようなもの・・・やはり人工物でしょうか!?」
「だろうな!!っだから!早く双眼鏡をよこせっ!!」
・・・ったく、最近の若いのは気が回らなくてしょうがねぇ。あんな直線的な建造物、遠目で見たって人工物だってわかんだろ!そんで人工物があるってことは何かしら物を作れるくらいの知的生命体が存在するってことだ。
だから確認は俺様船長ハンソン・グレモリー様の仕事でオマエら船員は第一に武装だ!!
「モタモタしてんな!!全員さっさと戦闘配置だ!!平和な航海が続いてたからって、まさか日和ってんじゃねぇだろうなぁ!!シャキっとしやがれ!!」
「「は、はいぃ!!!」」
まぁ、確かに日和る気持ちもわかる・・・だって60日間も何の発見もなくただ退屈に宇宙を漂い続けたのだ。あと数日で地球へ帰還する予定だったところにこの発見・・・いや、日和ってたというよりこの発見に浮き足立ってたと言う方が正しいか・・・。だが何より、探索よりも安全の確保だ!!
・・・ク、ククク・・・やったな、このままノコノコと帰還していたら減棒ものだったぜ。まさにこの星は俺の・・・いやミリアム7号の救世主てヤツだな。さあ、この星には一体どんな女神様が住んでいることやら、早くお顔を拝みてぇものだ。
双眼鏡に飛び込んできたショットは人工物・・・というところからは想像できる範囲のものだった。
かなり年季の入ったアンチ信号アンテナである。惑星戦争が盛んだった時代、敵国のレーダー探知から逃れるために150年ほど前に開発されたものだが、前世代の宇宙船乗りが昔話をするときに、ときたま探査船のレーダー探知がアンチ信号アンテナに引っかかって惑星のハイドに気づかないときがあった・・・なんて話してくれたか。なら、なんて長生きなアンテナだったんだ。ちょうど先程その生涯を終えてミリアム7号のレーダーに惑星が映ったって訳か・・・。
為先ほどの船長の疑問を解決する答えとは十分だが新たな問題が浮上する。
わざわざ探査から隠れようってんだ・・・。ここに住むヤツらは何かワケありか・・・だったら見つかったときに攻撃してくる可能性が高い!!
船員皆の武装が完了し、いざ上陸にかかる。幸いここには地球人でも生息可能な大気と重力が存在した。前時代だったら地球以外に人が住める環境を持つ星を見つけりゃぁ、そらもう大発見だったが生憎この時代だ、地球以外の奇跡の星なんてホイホイ見つかる。陣形を保ち安全を確保しつつ探索を進める・・・。広がるのは薄く灰がかった白、黒っぽい石ころ、それとたまに何かの金属パーツのような破片が転がった世界。たまに建築物の跡のようなものとすれ違うだけで一言で言えば荒廃した一度、終わり迎えた星だった。
5キロほど歩いた地点に1つの集落のようなものを発見した。石造りの民家はひび割れ天井が落ちているところもあり相変わらずどこもかしこもが荒れ果てていた。
目に見える光景が語っていた・・・ここに住んでいた生命体は絶滅したのだと。
「星を見つけただけで新種の生物の発見とは行かねぇみたいだな・・・。」
まぁ、そんなトントンと上手くは運ばないだろう、いつだって神様は運を平等に振り分ける。
ふと風が吹いた・・・砂埃を巻き上げ思わず目を瞑る。
「せ、船長・・・、ハンソン船長!!あれはっ!??」
「何だよデカイ声出しやがって・・・こちとら目に砂埃が入って・・・ん・・?」
「・・・オイ、まさか・・・あれは・・・っ!!」
痛みを堪えながら瞼を開く・・・砂に隠れていた塊は、先ほどの風で露わになり我々に衝撃を与えた。
人型だ。
人型をしたものが倒れている!!大きさは地球人とそう大差なく、ただ・・・酷く痩せている様子だった・・・。
人型がピクリと肩を震わす・・・
ミニアム7号の船員たち、一斉に緊張が走った!素早く銃を構える。
数分間の沈黙が続くが人型は先ほど以来、動く様子がない緊迫の中、船長が歩み出した。
ザッ____ザッ・・・・ザッ・・・・。一歩一歩、歩み寄る。
「船長!!近づくのは危険です!!止まってください!」
「ごちゃごちゃウルセェ・・・俺ぁ我慢弱いんだ!何もないまま何分も待つなんて性に合わねぇ、こいつが危険かどうかは俺が確かめる!」
「しかし!罠かも知れません!ソイツを餌に近づいた我々目がけ仲間が襲いにくるかも・・・!」
「そんときゃ俺ごとまとめて撃ちゃいいだろ!!そんでお前らは数匹生け捕りにして、ソイツら地球に連れて帰りゃ立派に仕事したってもんだ!!大発見に報酬もガッポリ、俺も勲章なんか貰っちまってこの世に未練なく成仏できるってもんよ。」
「そんな!ハンソン船長!!」
ハンソンは人型と1mの距離まで近づいた。
今のところ罠にかかったような動きもない・・・。
人型の肩は規則的かつ微かに上下しており呼吸をしているのだと感じられた。
随分痩せて皮膚も乾燥している・・・。まぁ、ここまで見てきた光景から察するに食料も尽きたのだろう。本当にこの星の死を迎える一歩手前だったのだろうな。
「まぁ、なんだ・・・俺たちゃ侵略なんて考えてはねぇ、ただ冒険の途中知らない星と出会っちまったからフラっと立ち寄ってみたというか・・・ホラ、誰だってそういう気分になることあるだろ?特に俺たち冒険家ってのは好奇心って奴に逆らえねぇようにできてるんだよ!!だから只、単に俺たちはお前らのことが知りたいんだ・・・。」
「だからこんな、涎が出るほど欲してた未知の存在であるオマエに・・・こんな目の前で死んでもらっちゃ困るんだよ。それに俺は他人を看取れるような器も持っちゃいねぇ。だから聞く、オマエに。」
「なぁ・・・生きる意志はあんのか。あるなら何でもいい返事をしてくれ。」
人型の指先が、わずかに・・・力を入れた。必死に、地面から起き上がろうとしているのだ。
「●*・・・+*☆・・・。」
掠れるような音を人型は発した。
「ハハ・・・全く何言ってんのかワカンねぇ。だが、俺の言ったことは伝わったようだな。」
「ほうら起こしてやるから顔あげろ。とにかく飢えてるんじゃぁ・・・まずは飯だな。」
「だが生憎まともなモンは全部船の倉庫の中だ・・・だからすまねぇが今は、ちょうどポケットに入ってた、この俺の食いかけのドーナツで我慢してくれや、航海中つまんでたんだがそれどころじゃなくなっちまったからよ。」
「○*●#・・・。」
ドーナツを口にした人型は涙を流しながら、そう呟いた。
その光景を見てか廃屋の中から数名の今の人型の仲間と思われるものが集まってきた。
皆同様、酷く痩せて体を引きずり最後の力を振り絞って船長の元へと群がってくる。
「ハイハイ・・オマエら順番だ!ちゃんとみんな均等にちぎってやっからよ!!」
「○*●#・・・○*●#・・・」
「○*●#○*●#!・・・」
「○*●#・・・!!」
「ドーナツの穴ってなんで開いてっから知ってっか!?なぁ?こうやってパカって半分に割りやすいようにするためできてんだよ!!」
「オマエらも!いつまで銃構えて突っ立ってんだ!さっさとコイツら保護して帰還すんぞ!!」
船長の人情が良い方向へと働いたようだ。その星の住民たちは皆素直で船員の誘導に従い全員がミリアム7号へと収容された。ここまで星が荒廃するまでにかなりの数が脱落したのか発見できた生き残りは10名にも満たなかった。何かから逃げ、隠れてこの星は逃れたのか・・・はたまた、元々この星に生まれ何か問題が起き絶滅へと向かっていたのか・・・聞きたいことは沢山あったが、なんせ地球人にとっては始めて耳にする言語で話すものだから詳しくは分からなかった。
只、大きな特徴としてこの星の生命体は、見た目は地球人とほぼ変わらずボロボロの服を着用し何故か皆、目に布を当てていた。そして、とても素直に行動する。得体の知れない我々一団を一切疑うことをせず、命の危機を救ってくれた船長にべったりと懐いてる始末だ。
地球への帰り道、我々は飢えた様子の彼らに食料を恵んでやるつもりだった。
「オイ、倉庫の非常用ビスケットとホットミルクを用意してやれ!!もっと食いそうだったら…うーん…そうだな、あの米をふやかした・・・あぁー・・・」
「お粥でしょうか??」
「ああ!そうだそれだ!!とりあえず身体に良さそうなもん食わせてやれ!」
せっせと準備してやる我々に反して、彼らは一切食料に手をつけなかった。
「なんだオマエら、腹が減って餓死寸前じゃなかったのかよ!?」
「○*●#・・・#=*○●・・・。」
「あぁ?なんだって?」
「#=*○●、#=*○●・・・。」
「#=*○●!!!」
互いに言語が通じず不毛な訴えの中で、船長からドーナツを与えられた個体が必死にジェスチャーを使い、何か伝えようとしている。
腕で大きな円を作り必死にそれをアピールする。そうだ、丸くて…甘かった…それで、それで…
ハッと閃いた顔をしたかと思うと船長が持っていたドーナツの包み紙を指差した!!
「ん??あぁ!!なるほどな、ドーナツが食いたかったのか!」
彼らはそれからというもの、地球に帰るまでの数日間ドーナツしか口にしなかったという…。
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地球へ帰還したミリアム7号は、新しい惑星を発見したとの報告と…そこに住む未発見の生命体を保護したとの発表をした。
後にその惑星は”ドーナツ星”と・・・そして、そこに生息する生命体は”ドーナツ星人”と命名された。