魔戦~災厄との戦い~
祭壇があった。
広大な空間。
その中央に一体の魔物がいた。
災厄の魔物――ゴルムバロズ。
五メートルの巨体。
迸る魔力。
二足歩行の恐竜の如く異様だった。
「きたな、人間」
「お前が付近の村をやった魔物だな」
「聞くまでもなかろう……」
災厄の魔物は口角を釣り上げた。
「……」
「安心せよ……全員殺したわけではない。エサは大事に
喰らう主義なんでな」
ゴルムバロズが指し示した先には
とらわれた日本人がいた。
荒く作られた魔法陣にとらわれている。
呻き声をあげている。
意識が朦朧としており、草薙を満足に認識できてないようだった。
「助け、て……」
「いた、い、痛い痛い」
いまにも消えてしまいそうな人質の命達。
目をそむけたくなる光景だが、草薙はその者達を
目をはなさずに見据えた。
「――」
草薙は見る。
目に焼き付けるように。
「いい光景であろう?
虚神」
日本人が苦しむ悲惨な光景を、ゴルムバロズは嘲った。
「我ら魔族は人間の負の感情を糧とする」
ゴルムバロズが手をかかげた。
その巨大な手からは強大な魔力が迸っている。
とらえた人間の絶望を絞り出し、災厄の魔物は
さらなる力を得ていた。
ガルディゲン。
日本に敵対する魔大国の魔物は我がモノ顔で
「許せねぇな」
何度でも思う。そして何度でも滅ぼす。
「災厄の魔物――ゴルムバロズ。
お前は国敵だ」
「ならばどうする?」
ゴルムバロズの魔力が高まる。
「――国敵討滅」
風が吹く。
討滅戦がはじまった。
◆
疾風を纏った草薙が一撃を放つ。
ゴルムバロズに叩き込む――しかし
「なにっ!!?」
攻撃が弾かれた。
ゴルムバロズの圧倒的な防御が草薙の拳を
弾いたのだ。
「ハッハハハハハ!!」
哄笑と共にゴルムバロズの体から
膨大な魔力がふきだした。
「無駄無駄アアァァ!
誰もこのゴルムバロズに傷をつけられぬわああぁっ!?」
竜燐に匹敵する鱗。
村を襲い、多くの人間から簒奪した魔力。
そしてゴルムバロズは風に強い耐性を持っている。
(凄まじい防御力だな」
拳の一撃を防がれた草薙だが――
「ぶっ潰す」
怒りと共に一撃を叩き込んだ。
――ズゴオオオオ
炸裂音めいた轟音が鳴り響く。
「無駄だと――いっただろうがぁ!」
ゴルムバロズの憤怒と共に
暴炎が放たれた。
草薙が暴炎の飲み込まれる。
「馬鹿め!これで……なにっ!?」
ゴルムバロズは見た。
「ぶっ殺すと――」
暴炎を突破した草薙悠弥を。
「いっただおうがああぁぁっ!!」
風を纏った一撃を叩き込む。
「ぐおおおおぉぉ」
今度こそゴルムバロズは吹き飛んだ。
「俺が滅ぼすと決めた国敵だ。うぬぼれるなよここで死ね」
暴炎に焼かれながらも草薙悠弥は啖呵をきった。
今も苦しんでいる日本人。
このゴルムバロズを倒さないとその苦しみは続くだろう。
故に滅ぼす許さない。
「――国敵討滅」
瞬間、草薙がかけた。
「おおおおぉぉ!!」
嵐打嵐打嵐打。
百を超える拳を叩きつける。
「ごおおおおおお」
嵐打を叩きつけられるゴルムバロズ。
だが――
「ヴォオオオオオ!!」
総身から魔力を噴き出すゴルムバロズ。
指向性のない魔衝撃が広がった。
「ちぃっ!?」
吹き飛ぶ草薙。
にらみ合う両者。
血を吹き出しているゴルムバロズが笑った。
「ハッハハハハハ!
このゴルムバロズに血を流させるか。
やはり貴様はガルディゲンの宿敵だなぁ!!」
「うるっせえぇぇぇぇ」
一撃を叩き込む。
「さっさとオオォォ――」
怒りと共に――
「日本人を解放しろおおぉぉっ」
風を放つ。
「猛るな!」
ゴルムバロズが暴炎をまき散らした。
瞬間、激突する風と炎。
はしる衝撃。
風と炎がおさまる。
「!!」
「!!」
草薙とゴルムバロズは互いに健在。
(やはり、風の耐性が高い)
草薙は瞬時に判断。
そして――
「――」
神理を放つ。
理力の弾丸を散弾のように放った。
それが纏うのは風ではなく雷。
雷の属性を編み込んだ雷速の散弾がゴルムバロズの巨体を撃つ。
「ぐあああぁぁっ!?」
数多の散弾がゴルムバロズを撃ちすえた。
(効いている!)
理力リソースを風にふりきらず、多属性の攻撃を行っている。
その戦術は功を奏した。
草薙が多くの人間と交わり編み出したオリジナルの攻撃だが
その攻撃は災厄の獣にも通じていた。
このような戦い方が出来るのも草薙がここまでガルディゲンと
戦ってこれた由縁の一つ。
しかもこれは只の雷属性の攻撃ではない。
多くの人間から交わり吸収した力、それを独自に構成した攻撃。
その攻撃は、
風をはじめとした多くの攻撃耐性を持ち、高い防御力を有するゴルムバロズの
鉄壁を貫いていた。
「ハアアア!」
怒りに燃えるゴルムバロズが豪腕を振り下ろす。
草薙が回避するが――かすった。
「っ!」
草薙の肉体に衝撃がはしる。
かすっただけで、ダメージがくる。
振り抜かれたゴルムバロズの豪腕は岩を粉々に砕いた。
「ヴォオオオ」
ゴルムバロズが魔力を迸らせた。
そして裂けんばかり大口
ゴルムバロズが炎を吐いた。
燃え上がる灼熱の炎。
草薙が背にしていた、岩壁が飴のようにドロドロに溶ける。
(とった!?)
歓喜するゴルムバロズ。
だが――
「おおおぉぉぉっ!!」
上空から草薙が――落ちる。
風を逆流させ、凄まじい勢いで急降下した草薙。
腕を組み、一撃を――
ズゴオオオオオオォ
叩きつけた。
「ぐおおおぉぉ」
メキメキメキィとゴルムバロズの骨がきしんだ。
「まだ、まだああぁぁっ!?」
だがゴルムバロズが生命そのものを振り絞ったかのように叫んだ。
瞬間、桁違いの魔衝撃が放たれる。
「ちぃっ!?」
ゴルムバロズはまだ死んでいない。
――短期決戦
長引かせる気はない。
強敵だ。普通に戦えばどうしても長引く。
だが時間はない。
この災厄の魔物にとらえられた日本人はいまや生命の危機にある。
故に
(一刻も早く滅ぼす)
草薙が詠じる。
今まで数々の交わりを経て得た理。
その中のものを選択し滅びをもたらす最適解を選び取る。
「ぐごごごごっ!?」
いななく災厄の魔物。
ここで殺す。
奇しくもその思想において
草薙とゴルムバロズは一致した。
「――」
草薙は駆けた。
風を纏いかける草薙。
「こい! 人間よ!!」
ゴルムバロズが全身全霊を以て迎え撃つ。
――刹那。
ゴルムバロズが巨体をうねらせ、一撃を繰り出した。
強く、そして速い。
――
草薙が炎を放つ。
燃え上がるゴルムバロズの巨体。
今まで交わりで得た炎の理、炎耐性を持つ
ゴルムバロズだが、特殊な属性を付与された攻撃にひるんだ。
ゴルムバロズが豪腕をふるう。
――回避。
額を削られ血が出るが
草薙は構わず草薙が水の理をを放った。
水属性の攻撃。
燃え上がった
ゴルムバロズの肉体が冷やされ、温度が低下する。
今まで交わり得た氷の属性も付与している。
急速な温度の低下にゴルムバロズの巨体が鈍った。
「きさまああああぁぁっ!!」
怒りのゴルムバロズが旋回した。
炎と豪腕をまき散らす。
空間全てを蹂躙するような攻撃を――草薙は受けてなお前進した。
「なにっ!!」
血が流れる骨が砕ける。
だが――
「おおおぉぉぉ!」
草薙が進撃する。
「!?」
驚愕するゴルムバロズ
響く神理。
数多の理を内包した神理を構成
消費理力は膨大。
――だが
「――こいつ相手には」
ゴルムバロズ相手にはこれが最速最殺。
「きさ、まああぁぁっ!?」
ゴルムバロズが――
――災厄の魔物がはっきりと恐怖を浮かべた。
瞬間――
「――滅びろ」
炸裂する必殺の神理。
膨大な力の波濤に災厄の魔物が断末魔と共に消失した。
◆
「大丈夫か?」
ゴルムバロズが倒れた後、草薙は生き残りの
村人を解放した。
「は、はい……」
「お、お兄ちゃん……ありがとう」
「なんとお礼をいえばいいか……」
「うわーーーん、うわーーーん」
泣いている子供や村人。
魔大国ガルディゲンによって多くの日本人が殺されている。
今回、草薙が救ったといえ犠牲がゼロだったわけではない。
「……」
草薙は唇をかんだ。
だがその時。
「あ、あの……」
一人の子供がかけよってきた。
「あ、ありがとう……お兄さん……」
草薙は子供の頭を優しくなでた。
助けられた、その事実が報酬だった。
風が吹いていた。
予告なく変更される可能性が高いです。