読了
少しだけ窓を開けて最後の風を嗅いだ。
騒ぐ子供の声が何故か遠く聞こえる。
寄りかかった窓から顔を覗かせて、目の前の景色を眺めた。
ガランとした街並みは何処までも続くようで、見えない道の先にも誰かが生きているんだ。
当たり前の事を新しく知って、どうでもいいと思ったことを少しづつ捨てて。
なんて退屈な日々、だけれど僕達は生きていく。
少し開いた窓を閉めて、違う空気を吸った。
轟々と家を鳴らす音は、置いてきた昔の思い出。
冷たい窓から離れて、コーヒーを飲むためキッチンへ向かう。
聞きなれた音、いつもと同じ日々。
だけどもいつと違う日々。
ため息を漏らして、白い湯気を目で追う。
明日から変わることと、これからも変わらないこと。
どちらもきっと大切で、大切だったこと。
飲み終わったコップをシンクに置いて、読みかけの本を持ち指定席へ。
どうしても、今日のうちに読み終えてしまいたいから。
物語の主人公は、終わる世界を救うヒーロー。
僕が子供の頃になりたかった存在。
以外に展開は単調で、涙も笑いもない。
淡々と救われた世界でエンディングが流れる。
そして、今日も終わる。
感慨深くもない、少しも楽しみもない。
どうせいつかは訪れるもの。
誰かが亡くなっただとか、そういった訃報で聞くよりかは断然良いものだけれど。
もしかしたら凄いことなのかもしれない、大変なことかもしれない。
だけど僕には、よく分からない。
世間がやけに騒いでいて、有名人なんかは大慌てで。
僕にはよく分からない。全然分からない。
1つの時代が終わって、新しい時代が始まって。
それでも僕の明日は、何も変わらなくて。
安い月給で暮らして、セールの食品を買って。
温いシャワーを浴びて、冷たい布団で眠る。
何もいいことは無いし、悪いことだって無い。
読み終えた本は、『平成』の棚に仕舞った。