第1章 第1話「退屈な毎日」
────研究都市004
各国の人間は気が付けば戦争に勝つため手段を選ばなくなっていた。
人体実験により生まれた"神"と呼ばれる異能力を持った少年少女。
この研究都市はいわば、そんな彼らの最終調整のための場所。
無能な人間を駒に力を手にした少年少女が理不尽な世界を作り上げる。
そして、そんな形で力の調整を行いながらも、そのような理不尽をも凌ぎ万に一つ生き残った者を新たな"神"にするため今日も実験が始まろうとしていた。
×××
木田 雅也、16歳。高校1年男子。
趣味、スポーツ。好きな事、特になし。特技、特になし。好きな人あり、将来の夢……手に届く範囲だけでも助けられる、そんなヒーローになりたい。
自分の携帯が鳴らす着信音に気付いてはいたが、なんだか動くのがだるく感じる雅也はベッドでモゾモゾするが携帯を取ろうとはしない。
当然時間が経ち着信音は止まった。
着信音さえなければ静かな自室は眠るには最適で、雅也はもう一眠りしようと試みた。
その時、自室の窓をノックされているのに気付く。2階にある彼の自室の窓がノックされるというのは、常識的にはホラーでしかないが原因のわかる彼にとっては無視する事が可能だった。
無視を続け、眠りに落ちかけるとノックが止み、窓を開ける音に気が付き雅也は目を覚ますが起き上がらない。
このまま寝過ごす考えだ。
「しまった。窓の鍵閉め忘れたよ」
雅也は小声で呟きながら寝てるふりを継続する。
「起きてるでしょ?ねー雅也ー。起きてるんでしょー。可愛い幼なじみを無視するのー。ねー!」
「ああ!? なんだよ!」
あまりに長い時間同じ呼びかけを繰り返され揺さぶられ続け、流石に限界がきた雅也はカッとなり起き上がってしまう。
彼女は宇宮 美緒。雅也の幼なじみで生まれた時からお隣さん同士だ。
首半分くらいまで伸びたサラサラの茶髪、黒い瞳。そしてなかなか発育のいい体は幼なじみとはいえ、思うところがある。
「もう! やっぱり起きてたじゃん。こーんな可愛い幼なじみが連絡してるのに無視するなんて……」
「はあ、どうでもいいが窓から入ってくるなって何度言えば……っ!」
風呂上がりなのか湿った髪、部屋着用のホットパンツ。上はジャージだけなのかその下には豊かな谷間が顔を見せる。
「おまっ、なんて格好で」
「あれー? 意識しちゃったのかな〜?」
「ちげぇよ、ブス! 自惚れんな。それで? 何の用だよ」
「あ、そうそう」
美緒は手の平をパン、と打ち鳴らし思い出したような素振りを見せる。
「まさか、忘れてたのか?」
「うっかりね、うっかり。」
なんて無邪気な笑顔を見せられると怒る気も失せてしまう。彼女は顔もよく、スタイルもいい。頭が悪い点を除けばスポーツ万能で人望も厚い。雅也からすれば自慢の幼なじみだ。
「それでね、宿題! 見せてください!」
「だと思ったよ。ほら、これ貸すから」
「あ、いいよ。そこでやってくね。借りて行くのはなんか悪いし」
「借りて行くのは悪い気がするのに机は借りるんだな……はあ。わかったよ」
思っていたより遥かに時間がかかったが、雅也は美緒との時間が幸せなのかもしれない。
彼女に対するドキドキやいろんな気持ちを恋やそれらとは別のものと思い込み、また雅也は目を逸らすのだ。
×××
そんな事があっても毎日同じようなことを繰り返すだけ、単純な話『つまらない』のだ。
美緒や、学年のマドンナである沙耶原 香澄。雅也が好きだと思い込んでいる相手だ。そして親友の篠崎 龍平もいる。お調子者の桜木 康太や学級委員長の本多 政宗。演劇部で女優を目指す小学生からの付き合いの光塚 心音。色んなやつがいて、もちろん学校での生活は楽しい。だが、退屈なのは別の話だ。
雅也はそんな生活をしている内に求めてしまう。これは誰もが求めてしまうような事であって、だが実際に起こるとそれは悲惨で。
「なんて言うかな、何か今の平凡な日常が嘘みたいな、そんな出来事って起きはしないのか」
「刺激が、欲しいんですかね」
「あ、そうそう。それだ。……って、お前、誰だよ。」
雅也が振り返った先にはピエロの仮面を被ったローブに身を包む人の姿があった。
フードで髪型などもわからず、声もボイスチェンジャーのようなものを使われているようで聞き辛い。
そのため、そいつの性別がはっきりとはわからない雅也。
「私が誰かなんてのはどうでもいい内容でして、あなたの願い叶えようと思ったんですよ」
「願いをって……お前が一言言えば世界に魔物でも湧き出すってのか?」
「いえいえ、そんなファンタジーみたいな事じゃないですよ。これを」
仮面のそいつは雅也へと1冊の本を手渡す。
「なんだ? これ読んでファンタジーにいりびたれとでも? そんなの今どきラノベでも出来んだろ 」
「そのタイトルを見ても同じ事言えますかね?」
「は? タイトル? ……っ!」
────『運命の書 木田 雅也』