#1 拓斗と海の始まり
俺の名前は武田 拓斗。
ごく普通のごく平凡な中学2年。
変わったことなど何もない。
もっとも人間という事で変わっているなど無いのかもしれない。
少なくとも俺はそう思う。
第一変わっているってなんなのだろう。
ただの自己満足じゃないのか?
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
予鈴だ。
もうすぐ授業が始まる。
っと、次の時間は数学。
「ぁ。」
最悪だ。
全部忘れた・・・。
俺は深くため息をつく。
隣のクラスに借りるか。
と、思ったその時
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
虚しく本鈴が鳴る。
この際しょうがない。
居眠りでもしていよう。
ガラッ!!
先生が扉を開けた。
「ハァイ今からぁ数学をはぁじぃめぇまぁーす」
よし! 寝よう!
そう思って俺は机に腕を置き、
腕の中に顔を埋めた。
今は5限目。
ちょうど眠い。
欠伸をしたところを先生に見つかってしまった。
「武田くぅん!! ちゃぁんと聞いぃてるかぁ!?」
「ふぁーい」
俺は情け無い返事を先生に返した。
先生は納得のいかないような顔をしていたが、また黒板に向かって何か書き出した。
先生っていっつも同じ事、繰りかえすから聞いてると眠くなるんだよなぁ。
というか、俺の場合は家で一人で勉強したほうがはかどるんだけど・・・。
「武田くん 武田くん」
誰かが俺を呼んでいる。
でもそれを無視して俺は起き上がろうとしない。
「武田くーん 武田くんてばー」
しつこいから顔を上げてみる。
「何?」
顔を上げてみたら声の主は隣の席の、
燕崎 海だった。
燕崎の外見はメガネにボブカットのストレートの髪だが、
内見はスポーツ好きの頭はそこまで馬鹿ではないが限りなく馬鹿に近い。
「武田くん教科書忘れたの? 忘れたなら見せようか?」
「いいの?」
「別にいいよ」
「そう? じゃぁありがとう。 でも」
「でも?」
「武田くんはやめてなんかキモイ。 てかなんで俺だけ『くん』なの?」
「ただのノリだよー。 さっき先生『くん』付けてた。」
「あそ。」
「じゃぁなんて呼んで欲しいの? あ武田ってワードできるだけ入れないで欲しいな。」
「なんで?」
「友達の名前『竹田 琴美』って言うんだよ。 だから呼び捨てしてるみたいでなんか嫌。」
「ふーん。 まぁ適当に呼べば?」
「適当が一番困るんだよ!!! 何か決めて!! そうじゃないと拓ちゃんって呼ぶよ!!!」
「え、それは嫌。 ・・・じゃぁ拓斗とか?」
「ん。 分った!! じゃぁ拓斗ねー 」
「アンタは何て呼べばいいの? それともアンタでいい?」
「え? あたし? あたしはー・・・ んー・・・ 。 じゃぁ拓斗って呼び捨てだから海でいいよー」
「ふーん分った。 じゃぁヨロシク海。」
「コラァ! そこぉ何話してんだぁ!!」
先生の雷のような声がとんで来た。
でもこの先生の話している言葉はなんかモゴモゴしていて雷でも無い。
「すんませーん」
何も心のこもっていない言葉に先生は不満があるようだったけど俺の言う事にいちいち、
突っかかっていたら、ただでさえ遅い授業が授業が進まない。
だから先生は授業を進めた。
授業終了まであと45分か・・・。
「拓斗ー ヨロシクって言うか今日6月だよ? なんか酷いな。」
「あー ゴメンゴメン」
「まぁいいや教科書見したげる」
そう言って数学の時間は終わった。
あれ? そういえば女子とこんなに喋ったのはじめてかも・・・。
*
今は休み時間。
さすがにこんな俺でも友達は居る。
というか結構仲良くしている。
この昼休みは廊下ダッシュ大会をしていた。
「うぉー拓斗早ぇー!!!」
「なんだよ拓斗が一番か?」
「いやまだ決まってねぇぞ!!」
「そうだぞ まだまだ試合はあるのサ☆」
「それもそうだな でもこの試合は確実に拓斗の勝ちだな」
「・・・あぁそうだな。」
こんな会話が聞こえてくる。
俺は小さい頃から・・・いや生まれたときから運動だけはできるほうだ。
並の上ってとこか。
「うわぁあ!! 海のが早ぇぇ!!!」
「コイツ拓斗こすんじゃね!?」
「ありえねぇ 女じゃねぇよコイツ!!」
なぜ女子の海が男子の遊びに混じっているのかはあまり気にしないほうがいいようだ。
それにしても本当に海は早かった。
海と対戦している宮高が可愛そうだった。
なんかすごい死にそうな顔をしてるし・・・。
「ひゃっほ〜い あたしの勝ち〜♪」
「海ぁー お前女じゃねぇよ・・・」
「ヒャハハ 中2で男子に負けるかっての!!」
海は勝ち誇った。
『中2で男子に負けるかっての』
って言葉、去年も
『中1で男子に負けるかっての』
って聞いたことがある。
「うぁー ムカつく!! メガネのくせにー」
「ハッハッハ 眼鏡をなめるなヨ」
この言葉も体育が終わるたびに聴いたことがある。
50M走で女子3位取ったとか
100M走で女子2位取ったとか・・・。
それでも海の上に人が居ることが驚ける。
海が言うには
『だってあたし部活入って無いもん』
だとサ。
あの足にサル並みの身体能力。
運動部が必死で海を入れようと頑張っているらしい。
でも海は『めんどくさい』という理由で断っている。
「えっと次の試合はー。」
そこまで言ってそいつは黙った。
「どうしたんだよ」
俺は聞いてみた。
「・・・拓斗と海だ」
「うぉぉ!! マジかよ!!! おもしろそー!!」
皆は騒ぎ出した。
俺かよ。
海か。
頑張れば勝てないことも無いかな。
「なんだと!? あたしに勝つ? キャハハ無理無理ー」
いつのまにか俺は口に出して言っていたらしい。
でもさすがにこの海の言葉にムカついて
「はっ! 男子が女子に負けるかよブァーカ!!」
と言ってしまった。
「ははっ 犬の遠吠えだね」
「それを言うなら負け犬の遠吠えだろバァカ」
「あー2回も馬鹿って言った!!!」
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪い」
「うわームカつくーー」
2人とも負けず嫌いだ。
「おーい もうはじめていいかー?」
「「おう!!」」
海も『おう』って言った。
女子なのに・・・。
「位置についてー よーい・・・ ドン!!」
宮高の声で俺達は走り出した。
俺はスタートダッシュが苦手だから最初の方は海が少しリードしていた。
「拓斗頑張れー!!!」
あいつ等の声が聞こえる。
俺はその声に答えるようにちょうど中間地点で海を抜かした。
だけど途中で海も追いついてきて俺達は並んだ。
「拓斗頑張れー!!!」
「海頑張れー!!!」
っと応援の声がする。
だけど俺達はそのまま最後まで来た。
ココまで来たら抜かしてやりてぇな
と思い俺は加速する。
だけど海も同じ事を考えていたらしくやはり加速する。
俺達はまた並んだ。
そしてそのまま
ゴールした。
海はあたしに似せてます。