第二章 第七話 南部の跡継ぎ
信直らは花輪の陣中に戻った。為信ら諸将は兄弟の周りに集まる。席に座ることなくその場で信直を囲み、立ち話を始めた。
石川家筆頭家臣の大光寺は、顔をしかめる。
「……大変なことになりましたな。」
信直は言葉を返す。
「これで決着をつけてしまうとは……豪快な大殿らしい。」
ひやりとした汗が、信直の頬を伝う。弟の政信は言った。
「はたして……父上は存じておるのでしょうか。」
信直は口を歪ませる。
「うむ……。」
“もしかして、父上が邪魔であったか”
“……確かに、父上のいる前ではあのようなことは言えまい”
“……どうなさいます”
皆、悩みこむ。そんな中、大光寺はある提案をした。
「夜駆けでしょうな。」
“九戸に手柄をとられる前に、城を落とすしかない”
“その実、あちらも同じことを考えているやも”
考える中に突然、信直は閃く。話し合いの輪を抜け、陣中の上座に腰を下ろした。そして周りに叫ぶ。
「おい、地図を持ってこい。」
政信は家来から大きな布に描かれた地図を渡されると、それを持って信直の隣に駆け寄った。手前の机に布を広げる。諸将は信直の周りに集まって、立ったまま共に地図を眺める。
「……北や東から攻め入るとき、この丘が厄介だ。」
信直は指さす。その丘の草むらを避けてみても、小川が城を囲んでいる。さらには乗り越えたところで、城へと駆け上がる目前の土堀。矢じりがこちらへ向く。敵にとってたいそう守りやすいだろう。




