第二章 第四話 他国者とは
小笠原は新しく為信の家来となった。やはり他国者とあって、家来らの反発は強い。“どこぞの骨に、禄を与える気か” “為信は何を考えている”
特に、森岡は為信に詰め寄ってきた。
「このような勝手なふるまい……殿はこれまでの殿らしく、黙って御座にいればいいのです。」
為信は言い返す。
「飾り物といえど、“殿” は “殿” だ。決して曲げん。」
無理やり押し通そうとする。これは重大な約束事なのだ。対して森岡は怒鳴る。
「やって良いことと、悪いことがございます。」
二人は顔と顔を近づける。一触即発とはこのことか。
あわてて、家来の兼平が止めに入る。二人を引き離し、落ち着かようとする。
実は、この兼平という男。先の陣中には参加していない。留守役として大浦城を守っていた。従って為信の活躍を見ていない。
ただしの家来や兵士から伝え聞くことより、“本当は力があるのでは”と思い始めていた。力があるのならお飾りの婿殿といえど、大浦家の為に才覚を発揮してほしい。そう考えた。
兼平は言う。
「では、こうしましょう。」
二人は兼平を見る。
「もし、次の戦で小笠原殿が手柄を立てれば、そのまま家来として雇う。為信様の目にも狂いはなかった。」
手柄を立てなければ……
「小笠原殿には大浦家から出ていただく。」
その時は、為信の立場は以前のように戻るだろう。
森岡は渋々承知した。為信もそれを受け入れた。……ここは小笠原を信じるしかない。あの万次が選んだ男だ。期待していた面松斎は来ず、つまる所それ以上の活躍をするということだろう。
……その小笠原はというと、言葉を滅多に吐かず、ただひたすら槍の腕を磨いていた。