表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
津軽藩以前 (1568-1576)  作者: かんから
大光寺の戦い 天正四年(1576)正月
100/105

最終章 第六話 天地否

 本陣も大光寺城へと進む。座していた林を抜け、見晴らしのよい田んぼの、細い畦道に入った。すると……向こう側の林から、南部の二羽鶴の旗が見えた。


 滝本勢七百、大浦の本陣を急襲する。予想外の事態に兵らは乱れ、倒されていった。組織していた火縄隊は無意味。敵兵は一斉に矢を浴びせかかり、怯んだところを討ち取っていく。田んぼに転げ落ちた者、泥まみれになりながらも起き上がって、敵兵と取っ組み合いをする者。ただし助太刀に入った敵に横より刺される。


 為信の危機だ。


 すべてを捨て、大浦城へと戻ろうとする。滝本は“あれが為信ぞ”と指さす。敵の意気は高まり、こちらへと向かってくる。


 己の馬は、どこかへと行ってしまった。おい、そこの者。馬を貸せ。……よし、そうだ。大将が死んでは、津軽統一は果たせぬ。今は退いて、様子を見るべきだ。


 その時、為信の乗る馬の尻に、槍が突き刺さる。馬は大声をあげ、高く足をあげた。為信は後ろざまに倒され、田んぼの泥の中に転げ落ちる。



 兜が外れた。紐が切れる。長く伸びたあご髭が、汚泥に浸かる。虫などは毛をつたい、体の至るところをまわる。為信にそれらを払う余裕はない。


 ……近くの者が兜を拾い上げて、自らかぶった。田んぼのあぜ道に仁王立ちし、敵兵へ刃を向ける。“我こそは為信だ”と叫び、勇ましく敵兵の中に飛び込んだ。


 為信はなんとか田んぼより足を出す。草履は失い、裸足のまま大浦城へと駆けていく。


 そのうち、異変に気付いた第一陣と第二陣がこちらへ来る。滝本は仕方なしに襲うのをやめ、大光寺城へと引き上げていった。……沼田は本陣を見つけることができず、近くにいた第二陣の小笠原に知らせた。こちらの兵らも弱ってはいたが、本陣が倒されては元も子もないと急いで探したのだ。


 こうして、大光寺の初戦は滝本勢の勝利に終わる。数多くの錫杖の旗は戦の泥にまみれ、神仏の加護だけでは勝てぬ相手だと証明していた。ただ一つ、卍の旗だけが汚されることなく戻ったのは幸いか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=684254948&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ