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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第六話

第一章 第六話


「その、まぁ、声を遠くに届ける装置ですね。」


「そんなことが?!可能なのか?!」


「いや、まぁ、その、たぶんアンプがないんで、音は小さすぎて聞き取れないと思いますよ。それより、もっと原始的な使い方があります。」


「む?」


「では、神官さん。」


「こっち、こっちの機械をもって隣の部屋へ行ってください。」


「コレデスカ?」


「そう、その、この線は気を付けてくださいね。」


電話機の片方を持った神官が、チハルの言うままに部屋を出て隣室へ移動した。チハルは扉を閉め、大声で部屋についたかどうか確認した。隣室からは同じように大声で神官が準備完了を告げた。普通の話し声では何も聞こえない。


「それではスイッチオン!」


ブーンという電磁石に特有の低い振動があり、チハルは装置に向かって声を出した。


「あーあー、聞こえますか?テス、テス、聞こえますか?」


「……。」


「聞こえますか?」


「……。」


「んー、ノイズだらけですね。」


「どうだ?これで成功なのか?」


「いや、失敗です。」


「む?ダメなのか?」


「たぶん出力が足りないのかと。やっぱりアンプとか必要なんでしょうね。」


「?」


「そこでこれです。」


チハルは電話機に付けられていた小さなボタンをちょこちょこと連打した。


「?」


サクシードはよくわからない顔で電話機を見ているが、チハルは構わずボタンを押し続ける。


「そろそろいいでしょ。」


チハルは電話機の操作を止めて、大声で神官を呼んだ。


「もう結構でーす!帰ってきてくださーい。」


チハルはすぐにサクシードに向き直り、今度は小声で声をかけた。


「サクシードさん、今夜またどうです?」


「ふむ、いずれ、こちらから声をかけようと思っておったが、よいぞ。チハル殿からということなら、何かあるのだろう。」


「あります。」


チハルはニヤリと笑った。それから数秒して隣の部屋から神官が帰ってきた。


「僕の声は聞こえましたか?」


「イヤ、キコエマセン、ザートイウオトダケシテイマシタ。」


「ザーの音だけってことなら、一応スピーカーは成功ですね。では、鐘の音は?チンチンと鐘がなったはずですが?」


「アア、ナリマシタ。ナンノアイズデスカ?」


「ではそっちは成功ですね。」


「まさか!?」


サクシードが驚きの声を上げた。


「さすが船乗りさん。分かります?」


「まさか、いや……。」


チハルはいまだ電源の入っていたままの電話機のボタンを押した。神官の手にあるもう一方の機械から、『チン』と鐘の音が鳴った。チハルが続けてボタンを押すと、それに合わせてチンチンと鐘が鳴る。


「さすがに電話は失敗しましたけど、こっちには成功したみたいですね。」


「チハル殿、いや、これはすごいぞ?!どのくらい遠くまで届けられる?10里でも、いや、1里でも可能か??」


「たぶん、最初なんでおそらく2-30メートル?えっと、50尺?くらいかな。でも簡単な装置をかませば、どんどん伸ばせますよ。すごいでしょ?」


「コノカネノドコガスゴイデスカ?」


「し、神官殿。これを軍に、軍の将校らに伝えるのだ。伝令が要らなくなるぞ。」


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


その日の夜、チハルは前回と同じようにサクシードから連絡を受けて部屋を抜け出し、近隣の建物の一室で向かい合っていた。室内での軟禁が解けたとはいえサクシードと二人きりで会話をすることはまだ許可されていない。こうして抜け出すのは簡単だが、見つかったときのことを思えば危険な逢瀬である。


「それでも、いくらか自由にはなりましたね。」


「うむ、しかし今日の電信?だったか。あれはまことに素晴らしい。」


「まぁ、≪リレー≫とか、出力を上げないとそれほど遠くまで音を届けることはできないとは思いますけど。距離はどんどん伸ばせるでしょう。」


「それにしても、あれは、例えばここからルーカンまで一瞬であの鐘の音を届けられるということだろう?それは、素晴らしいぞ!早馬もいらなくなるのではないか?」


「いずれそうなるでしょうね。今から200年以上後の技術です。」


「ふむ。すばらしい、まことに素晴らしい。」


「ところで……。二つ三つお伺いしたいことがあります。」


「うむ。」


「一つ目です。この南タライバンに外国人はいますか?宣教師とか、船乗りとか。」


「うむ、いるぞ。実はな、それについては俺の方からも話をしようと思っていた。」


「というと?」


「俺が海運をやっているのは知っているな?」


「ええ、知っています。たぶん同じことを考えてますね。」


「だろうな。」


「では話が簡単です。≪電信≫の技術を外国に売りましょう。」


「うむ。相当な利益が期待できるはずだ。そしてそれを王家に明かすか、それとも秘密裏に行うかで俺の立場もはかれる、と。」


「あ、いや、そこまでは考えて無かったです……。」


「あ、うむ?そうか?まぁ、俺の立場はな。その、将軍が本当に疫病で死ぬのかどうかで、決めさせてもらう。まぁ、いまさらチハル殿の言うことをそれほど疑ってはおらん。が、今はその立場をまだ保留ということにしておいてほしい。」


「いえ、まぁ、こうして別世界に来て歴史がどう転ぶかとか、僕も興味があるので、ひとまずはそれでいいんじゃないですか?それで……、二つ目です。これはサクシードさんが王を目指すのなら、必要なことかもしれません。」


「というと?」


「亜人です。その……、僕はまだ一度も彼らを見たことがありません。ヴィキペディアにも記載がないので、どういうものなのかいまいち理解できていなんです。いずれ外出ができるようになったら、いろいろな亜人に会わせてください。」


「それが俺を王にするのとどうつながる?」


「えーっと、僕らの世界では近代国家ができるときは必ず革命が起きます。民衆が支配者を打倒して民が主役の国になります。メルイーウのように王家がすげ変わるという革命ではありません。民衆が放棄して支配者を打ち倒すという革命です。市民革命と言います。それを起こさないと新しい国を興せません。」


「それをここで起こすというのか?」


「はい、ただ、必ずしも暴力的なものである必要はないんです。民衆の意識を変えればいいだけなんですが、その時に亜人らがどう動くかで、その後の国づくりが大きく変わってくるでしょう。人と同じように考え行動するのか?それともまったく別の行動理念を持っているのか、とか、そういうことを知っておきたいですね。」


「俺が王になりたがるかどうか、まだわからんぞ。」


「たぶんサクシードさんが思ってるような王とは違いますよ。象徴のようなものです。今やってる仕事をそのままやってもらって大丈夫です。たぶん。主な仕事は外国との交渉とかですね。」


「ふむ、平亜人については知っておるな?」


「はい。それと蕃亜人がいるんですよね?」


「平亜人は人と変わらん。このタライバンではな。仕事もするし、共同で助け合って暮らしておる。蕃亜人に狙われるのも人と変わらん。確率は低いが、人と子も作れるぞ。まぁ、婚姻までする奴はまれだがな。外出が可能になったら合わせてやろう。俺の部下にもおる。」


「亜人かぁ。僕らの世界では、まぁ、なんというか亜人はロマンなんです。」


「ロマ?なんだそれは?」


「犬耳萌えとか、猫耳萌えとか、いや、すいません、関係ないですね。でも、病気が多いんでしたっけ?んー、いや、まぁ、流してください。」


「ん??ま、まあいい。だが蕃亜人は厄介だぞ。奴らとも交易のルートはあるのだ。しかし、決して集落に入れてはくれんぞ。そして奴らの一部は定期的に人を襲って首を持ち帰る。そういう風習があるらしくてな、祭りに使うのだそうだ。通常は南タライバンに手は出さず、亜人同士で山の中で争っているだけだがな。首を手に入れてしまえば、しばらくはおとなしくなるので、その時に交易をおこなっている。香辛料とか燃える石とかだな。」


「?燃える石?まさか、石炭?」


「あ、ああ、そうだな、イャワト語では石炭と言ったか。」


「それ!少し集めておいてください。」


「うむ?わかった。燃料にはなるが、木の方が安いぞ?」


「たぶんすぐには使えませんけど、蒸気機関作ることになったらいるでしょう。」


「ふむ?それで、民だったか?意識を変えると言うが、そう簡単にいくか?」


「こっちにはヨンデル先生がついてますので。」


「ヨンデル先生?」


「マイケル・ヨンデル先生という、僕の世界では最高の哲学者の一人の講義録を持っています。それを使えば、どんな人間も、自分と向き合うことができちゃいますよ。」


「どういう?なんなのだ?それは?」


「自由になったら、町で講義しましょうか。軍人さんとかも一緒に。できればサクシードさんも部下の皆さんを連れて参加してみて下さい。あ、いや、すいません、サクシードさんは通訳ですね。」


「また何か作るのか?」


「そうですね、形ではなく、思想を作り上げます。たぶんこの世界で最初です。民が≪哲学≫に目覚める瞬間に立ち会えますよ。」


「すまぬ、またチハル殿が何を言っているのか分からぬわ。」


「あ、いや、すいません。これもその時になってみないと分からないでしょうね。」


「ふむ。」


「最後に、三つ目です。サクシードさんは外国とも取引がありますよね?電信を売りたいということですし。」


「ある。西からの船には香辛料を流しているが、あの電信は間違いなく売れるぞ。」


「その西の国の文字や言葉は分かりますか?日本語が通じるなら、もしかするとラテン語が話されているのかもしれません。ラテン語が話されていて、文字まで同じなら……。イアイパッドで英語から翻訳できます!」


「西の国の文字?と言葉?チハル殿はそれを使えるのか?!」


「いえ、未来の西の国の言葉なら少し。それが日本語のように通じるなら、あるいはと思いまして。」


「いや、私は話せぬが部下には話せるものがおる。というか、そいつは混血だったな。」


「文字はもしかしてこういうの、見たことありませんか?」


チハルは机の上に広げた紙に、アルファベットの大文字を書いた。


「む、これが?いや、確か樽や木箱にはこういうものが書かれていたか。これが西の?うむ、見たことはある。確かこういう文字だ。私は読めぬが。」


「ではこれは?」


チハルは同じ紙にアラビア数字を書き込んだ。


「おお、これは数字だな。西の国はすべてこれを使っておる。」


「文字、いや、数字が同じなら、もう半分成功ですね。先ほど電信を売ると言いましたが、実はそれと一緒に西の国に送ってほしいものがあります。」


「なんだ?」


「こういうものです。まだ途中ですが…。」


チハルは懐から紙を取り出した。その紙には数式、化学式、グラフや図がびっしりと書き込まれている。


「これは?」


「いまから数十年先までに証明や発見される数学や物理学の公式、主に微分積分とか運動方程式とかですかね。あと硫酸の効率的な製法、そして元素周期表です。蒸気機関という動力の設計図、おまけで僕たちの世界にある音楽の楽譜とかです。」


チハルはそれらを次々に机の上に並べていった。


「それを外国に売るというのか?」


「いえ、無償で提供します。」


「しかしそれでは!?」


「未来にはフリー経済という言葉がありまして。」


「フリー?」


「無料商業とでも言いますか、要は複製の簡単なもの、ここでいうこういう公式とかです。まずはそれを無料である程度提供します。そしてそれ以上を求める人には、お金を払ってもらうという商売の方法です。」


「そんなことが可能なのか?」


優秀な商人であるサクシードが知らない未来なお


「たぶんこの時代には複製が簡単で価値があるものというのが、大量にないのでそういうお金の稼ぎ方はないでしょうね。」


「いや、待て、それは……、うむ。後で詳しく聞かせてくれ。」


「はい。それで無償で公開する知識は、これから数十年以内に発見されるものばかりにします。それに僕の時代でも最先端とされる理論を少しだけ混ぜておきます。断定できますが、僕の時代の最先端の学問はこの時代の学者にはまず理解できません。」


「わからぬ。それで何が得られるのだ?」


「異国の天才たちを、ここに呼び寄せます。」


「は?なんと?」


「公開する未来の知識は一部のみ、そのほとんどはこの時代の学者ならすぐに理解するでしょう。まぁ、この時代なら神学との兼合いもあるので、おそらくすべては受け入れられないとは思いますが、それでも一部でも理解できれば、与えた知識のすべてが本当なのではないかと疑う。しかし自分たちにはそれが理解できない。」


「するとどうなる?」


「学者というのは欲の塊です。それを知るためなら命さえ惜しみません。ある意味冒険者よりも冒険者らしい生き物でしょう。おそらくどの時代でもそうです。その解けない問題の答えを、ここ、タライバン島で教えることにしましょう。」


「そう簡単にいくか?」


「そういう内容の手紙を世界中の国に送りましょうか。それとなくほかの国にも同じ内容の手紙が届いていることを臭わせれば……。」


「先を争ってやってくる、と?」


「ここに来ることさえできれば、100年、200年先の知識が手に入ります。未来の技術に関しては、彼らに再現してもらうのが良いでしょう。というか、本音を言えば、僕だけ未来の技術を再現するのには無理があるんです。蒸気機関とか、理屈は簡単ですが、僕一人でそれ作るのは絶対に無理です。それを西の天才たちに手伝ってもらおうかと。おそらくは、最初は各国トップの学者の弟子?とか、もしかすると学会で異端とされるような人がこの島を目指すでしょう。」


「逆に攻めらることはないのか?」


「ここに攻め入っても何にもないですよ?僕が引き抜かれるくらいでしょうかね。でも、僕を誘拐してもイアイパッドは僕にしか使えませんし。」


「言葉はどうする?」


「僕、英語なら少し話せます。この時代のものとは違うでしょうけど。あと、僕の持ってる英語の教科書なら、アプリでイタリア語とかラテン語系の言葉に翻訳できますし。」


「西の言葉が分かるのか?」


「僕らの世界では、中学で習います。えーと、13歳くらいから、習得しますね。半ば強制的に。」


「?!」


「まあまあ。そうしてやってきた学者にはそれぞれ断片的に知識を授け、その対価として別の国から来た人たちに持ち回りで講義を行ってもらいましょう。たぶん西の国にはラテン語みたいな共通語があると思うので、なんとかなりませんかね?国同士の争い事は持ち込まない約束で。破った国は数年この島に出入り禁止にしましょうか。その辺のさじ加減はサクシードさんに任せます。」


「しかし、いや、それでも、その、最初はどうするのだ?何を教えるにせよ、チハル殿が最初にそれをやらなければならないのでは?大変な労力だと思うが?」


「せいぜい高校の知識ですよ?えっと、僕らの時代では18歳までに習得する知識ばっかりです。家庭教師やってたことあるんで、全然大丈夫ですよ。それに、あの板、イアイパッドには……、僕の趣味で大学、大学院レベルの様々な分野の教科書をダウンロードしています。英語ですけど。それをそのままラテン語とか、スペイン語とかに機械翻訳すれば、それから先の知識でも何とかなるでしょう。英語で講義やっても西洋の国の言葉は似たようなもんなんで、板書すれば、何とかわかってくれるでしょう。頭のいい学者さんたちですし。」


「うむ、いつものことながらまったく分からん。、まったく分からんが、ひとまずそれでいい。で、だ。対価に何を得る?」


「そうしてやってくる西の強国にこの島を守ってもらいます。」


「…?む?そうか、なるほど。」


「はい、イアイパッドの知識を無料で提供する代わりに、軍事力?じゃない、この場合は防衛力ですか。それを得ます。対岸の新王朝もこっちに逃げているメルイーウの王族さえどうにかすれば、この島に興味はあまりないでしょうし。いろんな国から学者が集まるようになれば、それぞれ抜け駆けしてここを襲おうというのも難しくなるでしょう。技術の試作品はまずここで作ってもらいますので、サクシードさんはそれを量産するなりして、儲ければいいですよ。電信みたいに。海外の学者が多数滞在しているここを、どの国もおいそれとは攻撃もできないでしょう。攻撃して知識を奪うより、優秀な学者を送り込んで、先に知識を習得させてそれを応用したほうが早い。」


「むう?」


「それが軌道に乗ってきた頃、サクシードさんがこの国の王になればいいですよ。」


「ううむ。大体の流れはわかった。ただ、そううまくいくか?」


「さあ。」


「さあ?」


「机上の空論ですよ。うまくいくかどうかわからないですよ。そうなるんじゃないかという僕の予想です。ただヴィキペディアでいろんな学者の記録を見ましたが、彼らは知識欲に関しては恐ろしく貪欲です。自分の命なんか簡単に捨てられるほどに。それに賭けようかと。ダメなら、この紙きれで西の国が数年先の知識、そして解けない問題を得るだけです。」


「そうか。まぁ、電信を売るだけでも相当の利益となる。だが分かった、チハル殿の言う通り元手はタダだ。試してみてもよいだろう。しかし、すごいな、未来の商売の知識か?他にないか?もし教えてもらえるなら、ぜひ知りたい。」


「それですよ、それ。それがフリー経済です。」


「うん?あ、ああ、なるほどな。」


「でもサクシードさんなら僕の世界でも商人としてやっていけると思いますよ。商売とかそういうのに必要な才能は、多分いつの時代も変わらないですから。」


「うむ……。そうか?まぁ、未来の商業の知識は時間があるときにまた。あ、それと、もう一つお願いが。」


「なんだ?」


「もし僕を殺すことになったら、なるべく痛くないようにお願いします。」


「!?」


「あれ?違います?」


「……っぶっ、ぶわっはっは!」


「いや、笑うとこじゃないんですけど。」


「なんとなんと!いや、いや。なんと、そこまで読むか?いやぁ、チハル殿、確かにな、俺も海賊まがいのことはやるし、商売敵は幾人も葬ってきた。しかし、チハル殿を殺す?いやっはっは!」


「えー、でもちょっとくらい考えたことあるでしょ?」


「うむ、ある、正直に言えばな、あるぞ。メルイーウ復興の邪魔にしかならぬなら、殺してしまうかと考えたことはある。だが、な、今はない。それどころか死なれると困る。電信にしろ今の学者を集める案にしろ、王家復興と関係なく、やる価値はある。そのフリーとかいうのも、学んでみたい。いやいや、今のは面白かったぞ。いやぁ、そこまで覚悟するかよ。」


「いや、まぁ、こうして過去?別世界に来て感じましたが、サクシードさんもほかの人も僕の生きている時代の人間と全く変わりません。ただ僕の言うことが理解できないでしょう?普通の人は理解できないものは、融和しようとするか拒絶しようとするかのどちらかだって言われてるんですけど。で、もしサクシードさんが僕を拒絶するなら殺されちゃうかなと。融和したがるというのも違うようだし、それなら殺されちゃうかなと。」


「いやいや、理解できない、まったく理解はできぬぞ。ただしそれはチハル殿の言う知識が理解できぬだけで、オヌシという人間を理解できぬわけではない。そう、自分の命を軽く考えるな。チハル殿は俺にとって金の卵のニワトリよ。そう簡単に手放さぬぞ。死んでもらっては困る。はっはっは!」


おそらくチハルと出会って初めて、サクシードは腹の底から笑った。軟禁生活もあり、相当久しぶりに笑ったのだろう、目じりには涙が浮かんでいた。


「将軍が疫病で死ぬと言ったな。それよ。もしそれが本当ならチハル殿の言うことに本格的に乗ろうと思っておる。それと、これからはそうだな、定期的にこうして会おうぞ。電信か、あれはたしかに軍の役に立つ。が、もともと作ろうとしておった声を届けるという機械、それはおそらく電信以上の使い方ができる。おそらく王からも褒美が出るだろう。それである程度の自由も許されるはずだ。俺も本業に戻るぞ。それで?ほかに売れそうなものがあればそれも教えてほしい。次はなんだ?」


「電信の距離を伸ばすものも作りたいと思っていますが……。これを作ってろうと思っています。」


チハルはさらに懐から目盛りのついた棒を取り出した。


「?物差しではないか?」


「そうですね。サクシードさんには、相当役立つはずです。」


「物差しが?秤か?いや、それはすでにあるぞ。いや?チハル殿のことだから何かあるのだな?なんだこれは?」


「計算機です。」


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