第一章 第五十六話
更新が遅れました。申し訳ありません。
第一章 第五十六話
「チハル殿、あれが北の街だ。」
「おー!あれが。思ったより大きいですね。」
「中央の大きな川が見えるだろう。あの川沿いに500戸ほど、河口までぽつぽつと家がある。」
「へぇ、やっぱり橋はないんですね。」
「はっはっは、何度かけても雨季に流されるそうでな。船で渡ることにしておるらしい。どれ、ついたら話があるのだが、少し時間を取ってもらってもよいか?」
「え?ええ、いいですけど。ビダイちゃん口説くのなら、やっぱギターですよ。僕がいないときも練習してます?」
「ち、違う。いや、それもあるが……、別の件だ。ショーピンも連れて来てくれ。」
「?いいですよ。」
チハルは目的地である北の街に到着直前にサクシードの荷車に呼ばれ、車内で会議を行っていた。チハルは合流してから毎日一時間ほど、サクシードにギターと歌のレッスンを行っていた。ちなみに練習中の曲はスリーコードのみで弾けるブルースにサクシードの気持ちを歌詞にしてのせたオリジナルソングである。
「まあ、あと半刻ほどで着く。戻って準備しておくと良い。用意した部屋は前よりも狭いがな、短い間だ、我慢してくれ。」
「いえ、感謝してます。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後チハルたちは無事北の街に入り、それぞれの住居に荷物を降ろしてようやく一息ついた。チハルは簡単に荷物の整理を済ませ、言いつけどおりショーピンを連れて近くに住むサクシードを訪ねた。
「うむ、早いな。時間は取らせん、ちょっと顔を貸してくれ?」
「なんじゃ?わらわとチハルが一緒とは珍しいの。」
「姫、これから行く先で見聞きすることは他言無用で頼みます。チハルも同じくで頼む。」
「うむ?」
「ん?ま、いいですけど。怖いことじゃないですよね。」
「うむ、まぁ、ついて来い。すぐだ。」
サクシードは二人を連れて建物を出て、郊外にある廟に二人を案内した。
「ここだ、二人で入って参ってくるといい。参拝の仕方は中で教えてくれる。」
「ん?僕たちだけ?」
「ん、行ってこい。行けば分かる。」
「???」
タライバン島では船の安全を祈る神仏が熱心に信仰されており、南タライバンの廟では、航海の安全の他、健康、縁結び、男児出産などにも幅広くご利益があるとして多くの参拝客を集めていた。
北の街の廟は表から見た感じでは南タライバンの廟と同じようなデザインであるが、一回り以上小さい。
チハルとショーピンはサクシードに促されるまま門をくぐった。
門をくぐってすぐ、二人は僧の格好をした者に呼び止められて火のついた線香を渡された。言葉が通じないので身振り手振りで参拝の仕方を説明してもらい、奥にある本殿に向かうよう指示された。
「なんだろ?ショーピン分かる?」
「む?チハルが仕組んだのではないのか?」
「いや、俺も知らないんだけど……。ま、本殿ってあれか?行けば分かるんじゃね。」
「そうじゃな。では行くか。何かあったらわらわを守れよ。チハル。」
「うん?まぁ大丈夫だろ。なんか俺ちょっと想像つくんだけど。」
チハルとショーピンは本殿に入り、祈りを捧げて線香を香炉に差した。
「チハル殿。ショーピン。」
チハルとショーピンの背後から聞き覚えのある声が響いた。二人が振り向くとそこにはひとりの僧侶が立っていた。頭をきれいに丸めているが二人はその顔に見覚えがあった。
「し、神官長!?」
「ふふ、久しぶりだな。」
「え?なんで?!南タライバンにいたはずじゃ……。」
「え?」
「はっはっは、職を変えてな。ついて来い。」
「どこに?」
頭を丸めた神官長は二人を無視して歩き始めた。
「俺たちが出発したときは南タライバンにいたよな?あの人。」
「うむ、別れはしかと済ませたはずじゃが……。」
神官長は二人を連れて本殿の裏にある小さな門をくぐり、中に入って部屋の隅に移動した。神官長に続いて二人が部屋に入り、視線を神官等からから部屋の奥へ移すと……。
「父様?!」
薄暗い部屋の奥には、みすぼらしい服を着て痩せこけてはいたが、ショーピンにとってよく見知った顔、父親のメルイーウ王が悠然と座っていた。
「王、さま?」
「ふふふ、驚いたろう。」
部屋の隅の神官長が説明を始めた。王と神官長の一行はチハルたちの出発後、潮が凪ぐのを待ってから身分を隠して漁船に乗り、海岸沿いに北上して一足先に北の街へ到着したのだという。王は身分を捨て、今後しばらくはこの町の廟に隠れ住むらしい。
「海賊は?」
「ふむ?聞いておらぬか?海賊らにはすべてサクシードの息がかかっておるのだぞ?海賊ら同士も知らぬことらしいがな。」
「じゃ、一部が新王朝の側についた……というのは?」
「うむ、それはタクトの流した虚言であるな。海賊同士も欺く必要があってな。」
チハルとショーピンは神官長にタクトの策の全貌を聞いた。
「そうだったんですか……。さすがとしか言いようがありませんね。」
「隠しておいて悪かったな。味方も欺く必要があった。許せ。ショーピンにも心労をかけたな。」
「か、母様は?」
「王妃たちも太子も近隣の村に別れて避難しておる。落ち着いたら会いに行ってやるとよい。」
「バレませんかね?」
「なぁに、同じ服を着ておけば意外とばれぬものよ。ほとぼりが冷めたら慣れないものは別の島へ移る手はずだ。王族であることも二度と名乗らぬ。」
「宰相は?」
「"元"宰相だな。王女の一人についておる。自分の子として育てるらしい。」
「通門者チハル。」
今まで口を開かなかった王がチハルに突然呼びかけた。チハルが聞いたことのある王の声と同じものだったが、どこか力の抜けた優しい声色であった。
「この度の働き、旧メルイーウ王家への尽力、まことに感謝する。娘のこともな。」
「え、ええ。ハイ。」
「ショーピン。」
「はい。」
「苦労を掛けた。これからは王族であったという身分を捨て、その男、チハルに尽くせよ。」
ショーピンはチハルの横で涙目で突っ立っていた。
「ふむ、ショーピンとは一度今生の別れを済ましておるのでな。どうもやりにくい。が、これからは気楽に接してほしい。もう朕は王ではないのだからな。ふむ、はっはっは、言葉遣いも変えねばならぬな。」
「父様……。」
「チハル殿、我々は名を変え、身分も捨て、今後は民としてこの街で暮らしていく。生活が違い過ぎるのでな、不都合もあるだろうが、その時はせいぜいサクシードやチハル殿を頼らせてもらうよ。はっはっは。なぁに、祭祀に関しては任せておけ。この村に本物の神事というのを根付かせてやろう。はっはっは。」
「通門者チハル、そなたに我が王家のリーベル姓を授けたいと思うが、どうする?」
「あー、要らないです。サクシードさんにでもあげてください。」
「名乗らなくても良いぞ。形だけだ。」
「形だけとか、それこそ要らないですよ。ショーピンひとりで十分です。サクシードさんの方が功労者ですよ。どうか彼に。」
「ふむ、ではそうしようか。」
「ショーピン?少し残って話をしていくか?」
「う、ううん。良い。いつでも会える。また来る。」
目を真っ赤にしたショーピンが鼻をすすりながら答えた。
「では、僕たちはこれで。また来ます。」
「うむ、息災でな。この街は小さいが面白いものがたくさんあるぞ。チハル殿なら活用できるはずだ。」
「ん?楽しみにしています。では。」
「うむ、二人とも息災でな。」
チハルとショーピンは廟を後にした。チハルが門を出ると、入り口の石段にサクシードが座ってキセルを咥えていた。
「あれ?待っててくれたんですか?」
「うむ?早かったな。どうだ?面白いものは見れたか?」
「そうじゃそうじゃ、まさか父様も神官長も生きておったとは……。まぁ、感謝する。」
「張本人のタクトさんは?」
「うむ、彼は責任者として南タライバンで敵軍との交渉にあたるらしい。どうなるかは知らん。彼のことだ。上手くやるだろう。」
「海賊の話も聞きましたよ。」
「あ、おお、そうか。黙っていてすまんかったな。」
「まったく黒幕はサクシードさんですか?」
「はっはっは、海賊本人たちも知らぬことよ。分かっておると思うが、口外無用で頼む。」
「二人ともメルイーウ語で話すのじゃ!何を言っておるか分からぬ!」
日本語で会話するチハルとサクシードに仲間外れにされたショーピンがメルイーウ語で口をはさんだ。
「あ、ああ、ではそうしよう。」
「神官長はこの街に面白いものがあると言っておったぞ。何があるのじゃ?」
「おお、聞いたか?今から案内しようと思って待っておったのだ。このすぐ近くの川沿いにあるのだが、来るか?」
「行きましょう。」
サクシードは廟から歩いて10分ほどの距離にある川に向かった。南タライバンの港ほどではないが、荷受けをする労働者らの声が通りに響いてきた。すれ違う人たちの中には亜人も散見され、サクシードによるとこの街でも亜人と人は共存しているようだ。
「あれだ。」
サクシードは川沿いにある建物の一つを指さした。
「普通の建物?」
「入ってくるか?チハル殿なら話もできるだろう。」
「?」
チハルたちはさらにその建物に近づき、開け放しになっている入り口から中を覗いた。
「金髪?あの顔立ちって……まさか異人?」
「ふむ、ここは西の国から来た者らの詰め所でな。20人ほどが働いておる。」
「何じゃあれは?!なぜ髪が黄色い?あれも亜人か?」
「いや、ショーピンあれは西洋人。西の国の人だ。なんでこんなところで?」
「北の街周辺の開発が急に進んでおってな。この辺りでとれる鉱物や動物の皮の取引にしばらく前からやって来たのよ。こいつらはまだ何も悪さをしておらんのでな。交易の許可を出してこうして仕事をしてもらっておる。こやつら南タライバンの異人を追い出したのと入れ替わるようにしてやってきおったわ。強かなものよ。まったく強かにもほどがあるわ」
「へぇ……。全員フォーシュ語ですか?」
「うむ、片言だがな。取引するには問題ない。どれ、顔通しだけはしておくか。責任者に会わせてやる。」
「お、おおお。」
サクシードは入り口近くの職員にフォーシュ語で何かを訪ねると、その者は部屋の奥の扉の向こうに消えていった。しばらくすると見るからに西洋風のいで立ちといった背の高い男が表れ、サクシードに近づいてきた。
「おお、サクシード、お久しぶりですね。」
「うむ、ジャンも元気そうだな。紹介しよう、我が友人のチハルにその妻ショーピンだ。遠くイャワトからやって来た。」
「始めまして、ジャン・クラウドです。メルイーウに5年いました。言葉少し分かります。」
「お、おお、メルイーウ語。こんにちは、チハル・マツオカといいます。こちらは妻のショーピン。」
「しょ、ショーピン・ま、マツオカである。」
なぜかショーピンが顔を赤くしながらチハルの姓を名乗った。メルイーウでは結婚しても姓が変わらないのであるが、チハルが日本の風習を伝えてからはショーピンはなぜかそれを気に入ったらしく、対外的にはチハルと同じ姓を名乗っていた。
「かわいい妻さんね。」
「二人ともしばらくここで暮らす。改めて挨拶にやってくるが、今日はひとまず顔通しだな。忙しいところすまなかった。」
「構わないね。」
「あ、ジャン?Nice to meet you。分かる?」
チハルはローマ字をそのまま読む発音でジャンに話しかけた。
「お、おおおお!チハルはラーティノ話せるか?この街で話せる人初めて見た。すごいよ!」
「Haha so you can speak Latin, too?」
「Oh, your Latine copioso.」
「コピオソ? Sorry my Latine is based on English. Because of poor vocabulary, difficult story is impossible to continue.」
「English?いや、すごいよ。でも大体わかるよ。どこで覚えたの?」
「ああ、昔友達に異人が居てね。彼に習った。本もたくさん読んだよ。」
「そうなのか?とにかく、すごいよ!また話そう!」
「うん、こちらこそ。よろしく。」
「ジャン、チハルも商人なのだ。参考になることもあるだろう。今度酒でも招待しよう。では、邪魔したな。」
チハルたちは異人たちの商館を後にした。
「い、あれが異人か!初めてあんなに近くで見たわい。しかもチハル、おぬし偉人の言葉を話せるのか?」
「ああ、なんとか通じたわ。ただ発音や単語が違うんだよなぁ。」
「改めてすごい男じゃのう。そんな男が夫であるとは、わらわも鼻が高いわ。」
「ジャンはまだ若いが、この辺りの異人を取り仕切っておる。商人にしては出来すぎなくらい誠実な男よ。目をかけてやってくれ。」
「ええ、人のよさそうな奴ですね。」
「異人の女子はおらぬのか?」
「あ、ああ、うむ、それは……、な。」
「??」
「おるぞ、おるにはおるが、まぁ、数は少ない。あまり表にも出てこん。姫が期待するようなものではない。」
「なんじゃ?はっきりせい。」
「あー、ショーピン、あれだ。異国の船員は男ばっかり、そいつらがトラブルを起こさないように異人の女もいる。そういうことだ。」
「む?ぬ、そうか、なるほど……。一目見てみたかったが、残念じゃ。」
「写真で良けりゃイアイパッドにいくつかあるだろ。それで我慢しろ。」
「むぅ、残念じゃのう。」
チハルとショーピンはサクシードと別れて自宅に戻った。ショーピンは家に戻ってすぐ、侍女たちに先ほどあったことを話し始めた。チハルはすぐにショーピンの口を塞ぎ、自室に連れ込んで説教をした。
チハルたちの北の街での生活はこうして始まった。
第一章はこれで終わります。二か月間おつきあいありがとうございました。
大した人気もないのにこんなに続くとは……(笑)。
正直書き直したい気持ちでいっぱいです。
その内まとめなおすかもしれません。
感想頂けるととても嬉しいです。
第二章は一週間以内に再開の予定です。
その間は人物や発明品のまとめをやるかもしれません。
稚拙な文章でお見苦しい点もあったかと思いますが、読んでくれてありがとうございます!
そしてこれからもよろしく!




