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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第五十三話

 

 第一章 第五十三話


 その日、チハルは無口なスーと同じ荷車に乗りこんだ。前日の夜にスーに計画を打ち明け、何度もきちんと戻ってくる、絶対に帰ってくる、二日だけだから、と繰り返して数時間かけて説得したのであった。もちろん夜の休憩時に皆にばれてしまうまでは固く口止めしておいた。


 計画当日の早朝にサクシードに話があると言って荷車を抜け出し、あらかじめ準備しておいたテントや保存食などの野営セットを背中に背負って隊列を抜け出した。念のためカン護衛官とボリー護衛官に言い争いをして人目を引いてもらうといういう道化を演じてもらった。


 チハルはいつものイアイパッドと共に、海賊の頭目サチにもらった日本刀と秘宝≪始王之門≫も身につけている。経緯はこうだ。


「もしかするとさ、増えるんじゃないか?これ。」


「「?」」


「未来の俺は別に消えることなくあの時代、あの世界にまだいるとして、この時代、こうしてイアイパッドを持ってやってきた。てことはだ、もともとあったこれ、イアイパッドは二つに増えてるよな?仮定の話だけど。」


「お、おお!」


「じゃあもしも、俺が秘宝を持ったまま、秘宝に呼び出されたら、これも増えるんじゃないか?」


「な、なるほど!」


「そしたら50年じゃなくて25年ごととか、同時に二人呼び出したりとかできるんじゃね?(壊れなければ)。」


「やはり、チハルさまは賢人ですな。まさかそのようなことにお気づきになるとは。」


「いや、まぁ、もしかしたら、の話だよ。でも試してみる価値はある。」


「ええ、やってみますか?この旅の間秘宝の管理は我々に任されています。その……、チハルさまはタクトさまから聞いているとばっかり思っていましたので、実質チハルさまがご自由に管理してよろしいと思います。」


「じゃさ、箱はいらないから、秘宝を布にくるんで持ってきてくれ。」


「ッハ!」


 こうしてチハルがふと思いつきで発した言葉が元になっている。仮定の話しとはいえ通門者に関する記録を調べていたチハルにはかなりの勝算があった。


「これが増えたら……、しばらく倍々ゲームで8個くらいまで増やして、俺がずーっと呼び出され続けるとかアリか。呼び出す間隔が数年とかにできたら、同じ世界に俺が二人とかもあり得るのか……。出会ったら対消滅とかな。へっへ。」


 隊列を抜け出したチハルは近くの丘陵の陰に隠れ、荷車が無事出発したのを確認してから、昨日まで来た道を歩いて戻り始めた。


「20km位戻ればいいかな。日中歩き通せばいけるか。うし、行こう。」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「チハルがおらぬじゃと!」


「はい、先ほどからお姿が見えません……。」


 サクシードたちの隊商はその日、いつもの倍ほどの距離を強行して進んだ。たき火を囲んで遅い夕食をとる段になってようやくチハルの不在が発覚した。特にショーピンは大騒ぎである。


「さ、探せ!サクシードにもきくのじゃ!」


「ひ、姫、落ち着いてください。説明いたします。」


「まさか、一人厠に向かった時に何者かに襲われたとか……、いや、野犬の類か?猪かも知れん。だれか?チハルが今日用を足したのを見たものは?」


「姫!説明しますから、ちょっと落ち着いて!」


 スーが一人で右往左往するショーピンを抑えていたが、一人では埒が明かず他にも事情を知る護衛官たちを呼んだ。


「……、というわけです。」


「なぬ?チハル……、一人でまた勝手なことを……。オイ、イ神官を呼べ、あ奴なら詳しく知っておろう。」


「っは!」


 護衛官に呼ばれて旅を初めて伸びてきた髪の毛をザリザリと触りながらイ神官がやって来た。


「おぬしも一味か?」


「あ、チハル殿のことですか?ええ、まぁ。」


「詳しく説明せよ。」


「はい、我々が記録を調べた限り……。」


「……。」「……。」「……。」「……。」


「ふむ、なるほど、チハルの考えは分かった。が、なぜわらわに相談せなんだ?危険があるからじゃろう?」


「あ、いえ、ショーピンさまに仰ると絶対に付いて行くと言って騒ぐから……、だそうです。」


「む……。そ、それは……。そうじゃが。」


「明日、隊商の本体はゆっくりと北上、足の速い荷車に護衛をつけて南に、北上してくるチハルさんと合流、連れて戻ってくる予定です。何事もなければ明日の夜には会えますので心配はいりません。」


「何事もなけ"れば"、じゃろう。何かあったらどうするのじゃ!この年で二回も夫を失うのは嫌なのじゃ!」


 ショーピンが涙目になってイ神官に詰め寄った。ショーピンの拳が容赦なくイ神官の体に打ち付けられる。見かねた護衛官がショーピンを引きはがした。


「姫、とにかく、もう今日はどうすることもできません。明日チハルさまがお戻りになられてから、ご本人にお聞きなさるのがよろしい。イ神官、下がって良い。ケガはないか?」


「っは、はい……、ゴホ……、ダイジョブです。たぶん。」


 その日、チハルを心配して夜遅くまで来た道を眺めるショーピンであったが、遅くに侍女らに諭されて眠りに入った。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 チハルが道を引き返し始めてからすでに10時間以上が経過ししていた。夕刻に差しかかり、あらかじめ目星をつけていた野営地候補の一つに差し掛かるとチハルはぐったりと腰を下ろした。水筒の水を一口だけあおり、カバンから鶏肉の燻製を取り出して口にする。本日二度目の食事である。


 ぐるりと周りを見渡しても、人や動物の気配はない。チハルは念のためさらに山側に数km移動し、そこでようやく一息ついた。


「この辺でいいだろ。あとは明日の昼過ぎまでここから動かなけりゃ、いいはず。」


 チハルは食べ終わった燻製の骨を穴を掘って埋め、裾で油をぬぐった。


「これかあ、機械っつーより、魔法の道具だなこれ。」


 チハルは取り出した≪始王之門≫を様々な角度から眺めてみた。四角睡型のこぶし大のオブジェクトで、表面は翡翠を削り出したような淡い緑色をしている。光の加減か、表面に雲のような模様が浮かんで動いているようにも見えた。四角水の各面には記号のようなものが凸凹で表現されており、イ神官によればその模様の角度を調節することで方角や時代を合わせるのだそうだ。


「相当未来のテクノロジー……、なんだろうけど、最初は誰がこんなもの作った?時間を超えるとか、いくら未来でも法律とかで規制されそうなもんだろうけど。ま、人が作ったって保証もないけど。」


「方角と時代だろ……、てことは≪GPS≫、それと≪原子時計≫みたいなものがこの中にあるってことだ。角度で調節するってことは≪加速度センサー≫みたいなのもある……はず。しかしGPS衛星は……、ないよな。まさか、ある?でも数千年ももたんよなあ。」


「人以外が作った?宇宙人か、それとも一人の天才か……、にしてもこれ一つで位置を測定するって……、ああ、≪ジャイロセンサー≫か?こんな小型だっけか?まぁ、もっと未来の技術ってなら、そうじゃなくてもいいのか。」


 手のひらの上でクルクルと≪始王之門≫を回しながら、チハルは他にも変わった点がないか観察した。


「次に使うまで50年、なんで50年なんだろ……、充電するのにそのくらいかかるってことか。エネルギー源は?そもそもどうやって充電する。ずっと箱に入れられてるはずだから太陽光……じゃない。≪ニュートリノ≫とかか?漫画とかっぽく次元エネルギーとかだったりして。」


「そもそもなんでこんなもの作った?人を呼び出すのがこいつの機能、なら目的は?さすがに遊び半分で作れるようなもんじゃない。しかも人だけじゃなく、そいつの手にした物質まで移動させるってことは……、いや、まてまて、俺が呼び出された時持ってたのは服とイアイパッド、身につけてたものだけだ。でも体に触れてたベッドやシーツは転送されてない。どういうことだ?」


「んー、人間を"呼び出す"、ってのが間違いなのかもな。取り出す?釣り上げる?理由は分からんが、人が必要で、手にしてるものはオマケ?」


 チハルはすっかりと自分の思考の世界に入ってしまった。ブツブツと考えを言語化しながら手のひらで≪始王之門≫を弄んでいる。


「これが未来のガジェットとしてだ、人類は遂に光速の壁を越えたって……。物理法則ガン無視だよなぁ。過去から呼び出すのはともかく、未来から呼び出すってのが納得できん。何か秘密があるのか?」


「……。」


「んーまさか?全部過去?いやいや……、……しかしそれなら割と納得がいくかも。で、人類は同じ歴史を繰り返している?いや、でも世界のズレは未来に行くほど大きくなるよな……。あ、それを修正するためにこれがあるのか?過去の近い時代とつなげることで歴史に修正を……、ってなんで?てことはそれを観察している人がいる?数千年も?」


「……。」


「何のために。もしかして今も見られてる?」


 チハルはがばりと起き上がって天空を仰ぎ見た。もちろんそこには誰もいない……。


「いやいや、無理だろ、どう考えても。妄想だわ。妄想。んー、しかしなぁ、ほんと一体何なんだろなぁ。あー、あとは亜人か。もしかして通門者が作ったってより、もともとこの世界にいたんじゃね?俺たちの時代から遠い未来、動物と人間のハイブリッドが生まれて、さらに時代が下って、技術が失われた、そんで同じ歴史を繰り返してる。いやいや、これも妄想だな。」


「……。」


 チハルは手のひらの上の≪始王之門≫を顔に近づけてまじまじと眺めた。表面にはかすり傷一つなく、つるりと輝いている。


「角度を合わせるためっつー記号はコレか……。?小さい穴がある……?」


 チハルは≪始王之門≫の表面の一部にごく小さな穴が複数開いているのを見つけた。


「こういうガジェットの穴は大体スピーカーかマイクだな。……、まさかね。」


 チハルはその穴に耳を近づけてみた。


「!?」


「……イxーxxxxXXXxxニXXスXXxxドXXXxxルXXヘxxxxローxxxxベーxxxxxxxルxxXXXXヌXxxxカXXXバ。」


「な、なんかしゃべってる!!!」


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