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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第五十話

何と!昨日更新忘れていました。


五十話は昨日更新するはずだったものです。


今日は一日二回更新となります。楽しみにしていてくださった方。申し訳ありません。

 

 第一章 第五十話


 チハルたちはサクシードの案内で前方1kmほどの場所にある小さな集落に入った。チハルはショーピンらに絶対安全でありすぐに戻ることを伝え、心配そうな顔をする彼女たちを尻目にサクシードと共に海賊の頭目がいるという建物に向かった。もちろん何かあってはいけないので本体には武装した兵士らが護衛についており、チハルたちにはカン護衛官が同行している。


 集落には民家が点在し、その周りには畑があった。農作業に勤しむ人も見られ、それと知っていなければ海賊の村だと知りようもない。サクシードに聞くと、海賊の村とはいえほとんどが普通の民で彼らの家族が海に出て海賊行為を行っているだけらしい。商船以外を襲うことはまれで、サクシードは定期的に金や武器を提供することである程度の安全を買っているらしい。


「サクシードさんとは顔見知り?ってことは船で移動してもよかったのでは?」


「うむ、それはそうなのだが、海賊も一枚岩ではないのでな、ここの者たち以外に襲われんとも限らぬ。こやつらを護衛に雇ってもよかったが、対岸に行くならまだしも島内の移動だけなのでな、そこまでするほどでもない。……、ほれ、ここだ。それと通門者であることはなるべく黙っておけよ。俺の客ということになっている。」


「もちろん。」


 チハルたちは集落の一番奥にある周りの建物より一回り大きな民家に入った。建物に入ってすぐ潮の香りがした。


「おう、ここだ、福さん。」


「福?」


「俺のイャワトでの名だ。」


「あ、そうでしたね。」


「久しぶりだな。こちらがイャワトからの客人、チハル殿だ。」


 チハルたちは部屋の中央、火の入っていない囲炉裏の側で胡坐をかく海賊の女頭目と相対した。


「こんにちは、チハルといいます。」


「よく来てくれた。わしの名はサチという。但馬サチだ。この辺りの海を仕切っとる。」


「マツオカ・チハルです。」


 海賊の頭目サチは男言葉を話してはいるが見た目は完全に女である。潮風に縮れた髪を肩甲骨まで伸ばし、首の後ろでひとくくりにしてある。整った顔立ちというわけではないが、ぎょろりとした大きな目で日に焼けた筋肉質の体をしていた。上半身にはさらし、下にはももひきのような服を着ており、その上から派手な女ものの着物を羽織っている。


「どこから来た?」


「長州です。」


「ほう、わしは土佐からじゃ。よう来たよう来た。うむ、すまんな、イャワトから来た男が南におるちゅうので、一目会いたかった。ふふ、どうだ?仲間にならんか?」


「ええ、いいですよ。」


「はっはっは、即答か!気に入った。」


「サチ、戯れが過ぎるぞ。チハル殿も。ほれ、面通しは済んだろう。帰るぞ。」


「はっはっは、まぁまぁ、ゆっくりして行け、久しぶりのイャワト人じゃ、言葉も話さんと忘れるきに。」


「ま、ちょっとならいいでしょ。急ぐ旅でもないし。」


「はっは、福よ。面白い男じゃのう。まぁ呼びつけたのはな、それだけではない。」


「うむ?」


「北のいくつかは新王朝側についたぞ。」


「ぬ?なんと、しておぬしらは?」


「わしらは中立じゃ、どちらにも付かん。福さんには世話にもなっとるきに。下手にどちらかに肩入れして割を喰うのは好かん。ここいら辺りまでなら福さんの船は襲わんが、これ以上北となるとしばらくは海路はやめておいた方がいい。陸なら安全じゃろ。」


「うむ、助かる。そのうち酒でも届けさせよう。」


「ふふ、分かっておるな。ほうじゃ、母君は元気か?臥せっていると聞いたが?」


「おお、まぁ大丈夫だろう。チハル殿が治し方を知っておった。」


「ほほう、チハルさんは医者じゃったか?」


「いえ、商人ですよ。本職は。ただたまたま治療法を知ってました。」


「ほうかほうか、いつぞ世話になるかもしらん、今後ともよろしゅう頼む。」


「ええ、こちらこそ。ところで、他にイャワトの人っているんですか?」


「うん?おお、おるぞ、といっても少ないがな。うちには二人じゃったか。どれもわしと一緒に売られてきたもんたちじゃ。半分くらいは死んでしもうたがな。」


「売られ?すいません、ぶしつけな質問で。」


「はっはっは、構わん構わん。貧しい村ではよくあることじゃ。どこぞに連れていかれる最中に船が難破してな、船員が減ったところでそいつらを殺して逃げて来たんじゃ。そのまま頭領に祭り上げられてこのざまじゃ。昔から自分のことを男かもしれんとも思っておったしな。ちょうどよい機会じゃからそのまま輿に乗ることにしたんじゃ。ここでは男じゃ女じゃとうるさいものもおらんきに、好きにやっちょる。ここでも変人扱いじゃが、文句を言うやつはおらん。というか殺した。」


 チハルの頭には元いた世界でようやく認知され始めた≪性同一性障害≫という言葉が浮かんだ。男子至上主義のこの時代の日本では相当生きにくかったはずだ。チハルはいろいろな言葉を呑み込んで一言、返答した。


「なかなか波乱に満ちた人生ですね。」


「はっはっは、イャワト人にそういわれるのは初めてじゃ。チハルさんも変人のようじゃな。」


「ですね。よく言われます。」


「はっは、面白い御仁じゃ。」


「そういえば、船ってどこまで行けるんですか?」


「そうじゃな、わしらなら対岸までくらいか。あんまり荒れてるときは沖には出ん。他の船もおらんしな。北の連中の大型船ならこの島をぐるりと一周するくらいはやるぞ。まぁ、福さんのとこの商船には負けるがな。」


「何を言うか、足ならそなたらの方が早い。海の上では勝てん。」


「へぇ……、あ?それって、もしかして……。」


 チハルはサチの脇に置かれている二本の黒い棒に目をやった。今までも視界に入っていたが、話に夢中で気づかなかったのだ。


「おお、これか?ふふふ、いいじゃろう、刀じゃ。」


「ほ、本物の日本刀!キタ!」


「ど、どうした突然に?」


 サチの脇に置かれていたのは大小二本の刀、いわゆる日本刀である。


「やはり本物のイャワトの│男≪おのこ≫のようじゃの。これに惹かれるか。しかし数打ちのものじゃ、大した価値はないぞ。」


「み、見せてください!」


「ふむ、なら表に出ようか。おい!」


 サチの号令で建物の陰に隠れていたサチの部下が入り口からのそりと入ってきた。サチがフォーシュ語で何か指示すると部下は姿を消した。何を言ったのか聞き取れたサクシードがサチに質問を返した。


「いいのか?」


「なあに、数打ちで良ければいくらでもある。ほれ、外に出るぞ。」


 チハルはサチに促されるまま表に出た。サチは右で掴んでいた大小を左の腰帯に差し、するりと大刀を抜いた。


「おお!本物だ!すげ!かっこいい!」


 少し頬を赤らめたサチが嬉しそうに剣を上段に構えた。


「やぁ!ッハ!セヤァ!」


 サチは気合と共に切り下ろし、切り上げ、突きを空中に繰り出した。チハルはそれに拍手で答える。キラキラと目を輝かせて、丸で少年のようである。そんな目で見られたサチは張り切らずにはいられない。続けて数度斬撃を繰り出し、するりと刀を鞘に納めた。


「いやぁ、いいものを見せてもらいました!くぅ!やっぱ日本人はこうでなくちゃね!」


「はっは、我流の剣じゃど、そう言われると少し恥ずかしいな。」


 日本で育ったことがあるとはいえ、ほとんど刀に触れる機会のなかったサクシードはチハルがなぜそこまで刀にあこがれを持っているのか分からない顔である。


「おう、あったか?」


「ええ。倉庫にいくらでも。」


 先ほど建物から出て行ったサチの部下が手に大小二本の刀を持ってやって来た。


「ほれ、チハルさん、土産にくれてやる。持って行け。」


「え?これ?僕に?刀?日本刀を?」


「日本の船から奪ったもんがいくらでもあるでな。一本ずつ持って行け。」


「本当ですか?マジ?う、うれしいです!サチさんありがとう!」


「下手に振ってケガはするなよ。ほれ、ここを見ろ。」


 サチは股を開いて右足の膝の内側にある傷を見せた。


「素人が振るとこうなる事もある。敵を殺すなら振るより突いた方が良かろう。はっはっは、わしも最初は調子に乗って振り回してこのざまよ。はっはっは。」


「はい!肝に銘じます。お返しできるものは……。」


「よかよか、サクシードから土産ももらっちょる。それよかまた暇があったら訪ねて来ぃ、大体は海の方におるがこの辺りの者に行うてくれれば出てくるでな。」


「使う機会がないことを祈りますよ。」


「はっはっは、それはそうじゃ。それと数打ちじゃ、曲がったり錆びたりしておっても知らんぞ。それに世話の仕方もよう知らん。勝手にやってくれ。はっは。」


「はい、ありがとうございます!また来ますね。」


「うむ、そろそろ良いか。では我々は先を行く。息災でな。帰りに暇があればまた寄ろう。それとしばらく南タライバンには血被くな。何が起こるか分からん。」


「分かった。では福もチハルさんも息災でな。困ったことがあれば訪ねてくるといい。助けられるかは知らんが。はっはっは」


「はい!では、失礼します。」


 チハルはぺこりと頭を下げて礼を述べた。サチの顔には赤みがさして上機嫌のようだ。


 その後サクシードとチハルは隊に戻り、再び北に向かって移動を始めた。チハルが大切そうに抱えて持ってきた日本刀に護衛官やショーピンらが怪訝な顔をしたが、安物の刀だと分かるととたんに興味をなくした。


 チハルは日本刀を手に入れた。


 この日から休憩のたびにチハルは護衛官らに剣術を教わり、その替わりに柔道の技を彼らに教えることとなった。メルイーウ軍は基本的に片手用の両刃直剣を使っており、両手持ちの剣である日本とを扱いにくく感じたようで、チハルはつき技を中心に学ぶこととなった。


 そして練習を始めて数日、チハルは激しい上腕部の筋肉痛でしばらく手を動かすことができなくなったのである。

五十一話もすぐに投稿しています。

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