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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第四十九話

週末だから寝過ごしたっていいじゃない!

 

 第一章 第四十九話


 チハル一行はルーカンに一泊して保存食や飲み水を補給し、翌日の早朝再び北へ向けて出発した。


「さて、今日は誰と一緒だっけ?」


「私です。」


「お、ジット!見て見て!コレ!サクシードさんにもらったんだ。」


 チハルは本日同行する侍女の一人に手に入れたギターを見せた。


「それは……、琵琶ですか?」


「違う違う、ギターっていうんだ。後で弾いてみて、たぶんジットならすぐ覚えると思うよ。」


「面白そうですね。退屈しないで済みそうです。」


 ジットは王都の出身で、侍女たちの中では一番年上である。侍女たちの中では最も高貴な家柄の出身で、少し釣り目の対外的にはあまり笑うことのないクールビューティー。メルイーウ王家とは別の古い王朝の血を引いているらしい。本人は市井にも王宮にも旧王朝の血を引いている人間はいくらでもいると言い切り、他の侍女たちからも特別扱いは特にされていない。幼少より楽器の英才教育を受けて育ったらしく、王宮に楽師として勤めていたところ、政変で父親が失脚して一家が離散。その美貌に目を付けられて通門者の侍女としての役割を与えられた。歌もうまい。ちなみに本名はジッタイェー・シューツァイという苗字付きの名前を持っているのだが、チハルだけでなく他の侍女たちも正確に発音しにくいらしく、チハルがジットと呼んでいるのを他の侍女もまねていつの間にかジットで呼び名が定着した。本人も特に名字にはこだわりがないらしい。家では暇なときは王宮から下賜された琵琶や筝のような楽器をつま弾いていた。


 ジットは自分の置かれた境遇や役割をきちんと理解しており、当初はチハルに対してもどこか機械的に対応してただけであったが、チハルが彼女の心の問題を感じ取って逆にかいがいしく世話を焼いた結果、見事なツンデレ属性を獲得した。笑った事を自分で自分で自覚すると少し照れる特徴があり、チハルはいつか彼女にビジネススーツを着せて眼鏡をかけさせるのが夢である。


 全員の準備が整った後、少し遅れてサクシードが合流して一行は再び北へ向けて出発した。


「さ、ジットこれ、調音は適当にいじっていい。それでなんかこう、女性の心をつかむいい曲ない?歌の。」


「ちょっとお借りしますね。……、ほう、ふむふむ、チハルさま、これ、私の知ってる音が出ませんね。」


 ジットはギターの各部を触りながらあっという間にチューニングを終え、テンポよくいくつかの弦をはじいて音を出した。


「あー、音階が違うのかな。適当でいいよ。教えてくれたら俺がコード付けるから。この楽器に合うように変えるよ。」


「こうど?未来の歌を歌えばよいではありませんか?」


「俺が弾くのならね。」


「?」


「ほら、サクシードさん、あのワニ族の女に惚れてるでしょ。……、これを触らせて歌を覚えさせればあの女も振り向くんじゃないかなと。」


「チハルさま人が良すぎですよ。」


「そうか?いいおっさんが楽器練習するのは大変なんだぞ。どれだけ下手でも、頑張った結果に女は心動かされるもんだ。」


 ジットがクスリと笑い、チューニングを終えたギターを構えた。


「久しぶりにジットの歌が聴きたい。」


「はいはい、ではこういうのはいかがでしょう?」


「~♪

 草は青く 木々の新芽が黄金に輝く

 桃の実は香り 李は白い花をつける

 そんな春風も 私の心を動かすことはない

 春の日差しも 私の心を悩ませるだけ

 」


「おーいいね。"草青く~桃の実は~♪。」


「都で流行っていた歌です。」


「詩がいいね。もうちょっと長いといいけど。」


「その……、一緒に歌ってはいただけませんか?」


「お、いいよ。≪デュエット≫だね。歌詞教えて。ちょっと待ってね。」


 チハルは紙と鉛筆を用意してジットの歌った歌詞をメモし、二人で歌の練習を始めた。


 その後一時間ほど練習し、チハルの機転で男女のハーモニーまで入れられた


 途中なぜか少し顔を赤くしていたジットを不思議に思い、チハルは本人にどうしたのか聞いてみたが、ジットは「秘密です」と嬉しそうに言ってそれ以上教えてはくれないので、王都出身の者にこっそり聞いて見た。


 どうやら王都では男女が二人で歌を歌うのは恋心をお互いに伝えあうという意味があるそうで、ワンフレーズで恋文の一通をやり取りするくらいの気恥ずかしさがあるらしい。ちなみにジットが男性と一緒に歌を歌ったのは、チハルが最初である。それを知ったチハルもなんだか妙に恥ずかしくなってしまった。


 少し寝不足のチハルは荷車に横になったが、ジットはその後もいくつかの歌を歌っていた。チハルの家にあったジットの楽器類は笛を除いて今回の旅には持ってきておらず、ジットは得意とする弦楽器を触れるとあって嬉しそうだ。


 その後もジットは演奏を続け、昼過ぎになってようやくジットはギターを開放した。


「どう?満足した??」


「ええ、良い楽器ですね。西洋のものだとか?」


「そう、西洋人を追い出したときに奪い取ったらしい。そういやジットは王都にいたんだよね?西洋人見たことある?」


「ええ、ありますよ。変な帽子をかぶってました。王都には結構いましたよ。髪が赤くて、体が大きくて、あと臭い。」


「はっはっは、商人か何かかな。」


「チハルさまは見たことがありますか?」


「あるよ、大学の研究室にもいたな。というか、旅行に行ったこともあるぞ。ヨーロッパ。」


「へぇ、どうでしたか?」


「綺麗なところだよ。まぁ、この時代はそうでもないだろうけど。こっち、みんなと一緒にここにいる方が楽しいかな。」


「帰りたいとは思いませんか?」


「帰るよりこっちの方が楽しいなぁ。ジットの歌も聞けるし。」


「も、もう、チハルさまったら……。」


「ほら、疲れたろ?横になる?」


「……ハイ。」


 ジットはチハルに促されるままチハルの腕枕で横になり、しばらくすると寝息を立て始めた。


 しばらく寝顔を見ていたチハルもコトコトと軽い音を立てる車輪の音に耳を澄ましているうちに眠りに落ちた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 それから更に数日後……。


「よし、全体止まれ。」


 サクシードの号令で隊は歩みを止めた。


「ここから海賊どもの支配地域に入る。まぁ心配はいらん、あらかじめ話は通しておるし、俺も顔見知りだ。だが、末端まで話が通じておるかは分からんからな、周りで妙な動きがあったらすぐに知らせろ。それとここではタカ族は斥候には出さんが軽い荷車を数台先行させる。まぁ手土産だな。そいつらが帰ってきたら動くぞ。なぁに集落を二つ三つ越えるだけだ、明日には抜ける。」


 チハルたちは手土産を乗せた荷車が帰ってくるまで、その場で数時間待機した。


 サクシードは何も心配いらないとは言うが、海賊と会ったこともない大陸からの移住者、特に女性陣は戦々恐々としていた。


 チハルはサクシードに海賊たちについていくつかの質問をした。


「この辺で普通に暮らしているんですか?」


「そりゃそうだ。はた目には普通の漁師と変わらん。海の上での荒事が好きというだけだ。おとなしく魚だけ取っておっても普通に生活はできるのだがな。操船技術に長けておるからな、武装して他の船を襲う方が割がいいと気づいてからは好き勝手やっておる。」


「頭目とかはいないんですか?」


「おるぞ、会うと驚くだろうな?はっはっは。」


「?」


「おう、帰ってきたようだ。」


 道の先から空の荷車を引いた先行隊が戻って来た。


 サクシードは彼らに走り寄って様子を聞いた。それを遠目で見ていたチハルにはサクシードが額に手を当てて顔を振っているのが見えた。チハルはその光景に何らかのトラブルを感じ取った。


 サクシードが小走りに帰ってきてチハルに状況を告げた。


「すまんすまん、どうやら奴らの耳にチハル殿のうわさが入ったらしい。」


「まさか?」


「さっき言っておった海賊らの頭目が、お前に一目会いたいんだと。なに、一緒に茶を飲むだけだ。変なことにはならん。」


「変なことにはならんて、本当ですか。」


「うむ、ならん、なんせ海賊どもの頭目はイャワト人、しかも若い女だ。」


「ん?」

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