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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第四十五話

 

 第一章 第四十五話


 その後数度、チハルはタクトやクダレムらに戦闘を避けるための方法や彼らが生き残る方法などについて話し合った。敵の飲み水にコレラ菌を混入させる方法や、対岸の港に火を放つなど、およそ通常のチハルでは考え付いても口には出さないような方策もいちおう提案して見たが、その次、さらに次の追跡軍を更に増強させるだけだろうということで却下された。しかもチハルの提案した作戦のほとんどはタクトが考案済み、検証済みのモノだったらしい。


 チハルは彼らの覚悟を尊重し、また己の覚悟も決めた。


「で、一つ相談というか、質問というか、聞きたいことがあるんですけど。」


「はい。なんでしょう?」


「僕を追ってきたりはしませんよね?」


「ああ、その件ですか?言っていませんでしたっけ?チハルさんの記録は改竄して別人が呼び出されたことにしています。もちろん公式な記録です。本当は秘密なのですが、もちろん正しい記録も残してますよ。すぐには明らかにならない方法で、ですけど。島民たちの噂話にはなっているので、詳しく調査すれば分かることではあるのですが、すぐにどうこうということはないでしょう。偽の通門者はこちらで用意していますし、それなりの教育も行っていますので。」


「あ、なるほど。では≪始王之門≫をはじめとする秘宝はどうなるんですか?敵に渡すんですか?」


「……。」


「あれ?どうしました?」


「チハルさん知ってますよ。」


「え?何を?」


「記録を全部複写したでしょう?秘宝を使って。」


「あ、はい。あれ?別に秘密にはしてませんでしたよ。今までの通門者の調査をする目的で≪写真≫を撮っただけです。」


「そのシャシンというのが分かりませんけど。記録は全部チハルさんの手元にあるのだとか?神官長に聞きました。それを使えば記録の復元もできるのだとか?」


「ええ。暇なときにイ神官にやってもらってます。」


「なので、秘宝の記録に関しては敵に返します。ここに置いておいても仕方ないですしね。」


「では、モノ、の方は?」


「それなんですが……。まあ教えてもいいでしょう。内緒ですよ。」


「あ、はい。」


「破壊して敵に返します。先日の襲撃で壊されたことにすればいいでしょう。」


「……、で実物は?」


「軍の記録官と共にこの島で保管します。いつか日の目を見る日が来るかもしれませんね。」


「そこで相談なんですが……。」


「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxx。xxxxxxxxxx。xxxxxxxxxx。xxxxxxxxxxxxxxxxxx。」


「え?」


「それで通門者の記録が必要だったんです。」


「なるほど、そういうことでしたか。」


「まぁ、その場で消えちゃうかもしれないんですけどね。」


「うーん、まぁ、試してみる価値はありますね。記録官には話をしておきましょう。南タライバンに戻ることがあれば訪ねてみてください。」


「分かりました。」


 チハルは最後にタクトと固く握手を交わし、別れの挨拶を済ませた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 北への出発直前、チハルはタライバン島の地図を書き写したものを前にサクシードらと最終的なルートの確認を行っていた。全体で100人近くにもなる大所帯であり、水場や休憩場所の確認、全体の荷車の数、途中にある街やそこで調達できそうな食料など確認してもしすぎることはなかった。距離で言えば300kmほどの道のりであり、チハルはおろかサクシードさえ陸路でこれだけの距離を一度に移動したことはない。チハルはざっくりと一日30kmほどの行程を見積もっていたが、舗装されていない道を人力で車を引きながらの移動である。どのくらいの距離を勧めるのかチハルには見当もつかなかった。


 荷車は総計30台、それとは別にチハルやサクシードたちが乗る天蓋や蚊帳付きの輿のようなものが5台である。荷物のほとんどは野営用のテントや寝具、保存食に着替え、そしてチハルの電池と少しの武器、農具などである。荷車の修理用の工具や部品も少なくないスペースを取っている。荷車は本来二人一組で一台を引くのだが、ウシ族の亜人たちに試させると「え?これくらいでいいんですか?軽いですよ。」と一人で楽々荷物を載せた一台を引いてみせた。


 急遽荷運び用に更にウシ族の若者が10人ほど追加され、その分南タライバンで雇った荷役の者を解雇することとなった。


 それとは別にメルイーウ王都から逃亡を手伝うものが20人ほど、記録官や、チハルの希望でイ神官や三人の護衛官も同行する。せめて長い時間を共にした人だけでも助けたいというチハルのわがままだったが、本人たちが希望するならという条件で軍に申し入れをするとすんなり許可が下りたのだった。


 家では出発の準備をするショーピンと侍女らが隙あらば派手な服や装飾品を荷物に入れようとするので、チハルはそれを諫めるのに大変だった。2-3ヵ月もすれば帰ってくるというのに、彼女たちは


 またチハルは料理人と一緒に干し肉や燻製肉、生野菜の酢漬けなどの保存食を大量に製造し、荷物に積み込んだ。さすがに100人分とはいかないが、チハルの同行者らが2週間ほど飢えずに済む分量を作ったのでかなりのかさになったが、街を襲った亜人たちにそんな高級なものは要らんというサクシードの命令で、チハルたち人の保存食だけを携帯することとなった。サクシードに荷物を減らすよう注意されるチハルの姿を見て、ショーピンや侍女たちが「ざまあみろ」という顔をしていた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 出発当日の朝、チハルたちは港の広場に集まり人員の確認と点呼を取った。サクシード商会の手のものがてきぱきと荷物や荷車のチェックを行っており、段取りの悪い王都の者たちとひと悶着を起こしている。王都出身のものはほとんどフォーシュ語を話せないので、フォーシュ出身の下級兵が駆り出されているようだ。


 薄靄がかってはいるが天気はよく、暑い一日になりそうだ。


「チハルドノ、シバラクオネガイシマス。」


 イ神官が侍女たちに旅の心得を語るチハルの元へ挨拶をしにやって来た。


「?!」


「ドウデス?ニアイマスカ?」


 見慣れたイ神官の顔であったが、その頭は坊主頭、ツルツルに剃り上げられていた。ところどころ蚯蚓腫れのようなものが見える。


「ナガタビニナリソウデスカラ、ミジカクシマシタ。」


 イ神官の顔を見知ったチハルや侍女たちはこれに吹き出してしまった。イ神官も受ける自身があったのだろうか、これ見よがしに頭を強調してくる。


「いやぁ、まさかイ神官がそういうユーモアを持っているとはね。」


「ゆーも?」


「いやいや、ウケるわ。これで髪の長さでどれだけ時間が経ったのかも大体分かるしね。」


「アア、ソレト。ワタシハモウ、シンカンデハアリマセン。ヤメマシタ。」


「え?マジ?」


「"マジ"デス。コレカラハ、タダノ"イ・シュアンシュエン"デス。」


「……ほらね、イ神官、イさんの名前難しいんだよ。」


「イサンデイイデス。」


「じゃあ、これからは俺のこともチハルって呼んでよ。殿とか様とかいらないからさ。」


「ワカリマシタ。チハル。」


「うし。じゃ、そろそろ出発だな。お前ら車に乗れ。俺は今日は……ショーピンの車だ。イさんも後でね。」


「ハイ。」


 ショーピンと侍女はそれぞれ別々の車に乗り込むのだが、皆で話し合ってチハルを日替わりで自分たちの車に乗せることにしたらしい。正妻であるショーピンが1/3ほど、残りを侍女たちが持ち回りで世話をすることに決まったらしいが、さみしければいつでも訪ねてきてもよいという例外もあるそうだ。また道中の各人の疲労具合もみながら臨機応変に変えていく予定でもあるらしい。当初のチハルの懸念もなんのその、ショーピンも侍女たちも上手くやっているようだ。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 いよいよ出発の段になった。サクシードの号令で先頭の荷車が動き出し、残りもそれに続いていく。ウシ族の亜人たちは半数ずつが交代で荷車を引き、タカ族のものは兵士らとともに数刻前に最初の休憩地点まで斥候として送り出している。先行したタカ族は3-4kmごとに目印として立っていてもらっているはずなので、良い里程標になるだろう。


 ワニ族も荷車を引く力が強く、5人に対して3台の荷車を割り当てている。ワニ族の美人族長であるビダイ・シュランは最初自分たちが担当の荷車を引く予定であったのだが、出発直前にサクシードに呼ばれてなぜか彼の荷を数える手伝いをさせられることとなり、そのまま彼の荷車に乗せられたまま出発してしまった。


「おっさん手が早すぎだろ……。」


 チハルはため息をつきながら、思い出深い南タライバンの街を振り返り、その光景を目に焼き付けた。隣にいるショーピンは視界の端に見える仮の王宮をじっと見据えたまま目じりに涙を浮かべていた。チハルはショーピンを抱き寄せ、その小さな顔を胸に抱きかかえると、ショーピンは声を押し殺して泣いた。


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