第一章 第四十四話
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第一章 第四十四話
チハルは港の倉庫の一角に押し込められているウシ族、タカ族、ワニ族の亜人らの収容所を訪ねた。北の街へ同行する亜人を選抜するためである。軍から集落が全滅したの報告によると亜人たちはきちんと一日二回の食事、二日に一回の水浴びをさせており、一部は集落が全滅したショックから立ち直りつつあるそうだ。しかし全体としては完全に無気力で、下っ端の軍人たちがからかったりしても抵抗するそぶりは見せないそうだ。また先日の洪水の後も亜人からは一人の疫病患者も出なかったそうだ。生まれつきコレラには抵抗性があるらしい。
チハルが倉庫に入ると彼らは無気力な目を向けただけであったが、最初にチハルに対面したウシ族の青年サイシャワット・"ウシ"・パスバキがチハルを見つけて側に走り寄り「神さま!」と叫びながら目の前で跪いた。全員がそれに注目すると、サイシャワットは「みな!神様だ!俺が言っていた神様がやって来た!」と亜人の言葉で皆に伝えた。
ウシ族とタカ族、ワニ族はそれぞれ別々の言語を話すが、幾つかの単語は共通で行く、来るなどの簡単な動詞を使った会話ならそれぞれの種族の言葉で話しても通じるらしい。ただし生活に関連した単語、例えば食材や道具の名前などの単語は種族ごとどころか集落ごとにかなり違うらしく、外来の亜人がある集落で生活していくのはかなり難しいのだそうだ。
亜人らが捕虜になってからフォーシュ語を話せる文官が調査したらしく、チハルも事前に報告を受けていた。
「それぞれの部族からフォーシュ語を話せるものは前へ。」
チハルの言葉を翻訳した軍の通訳が亜人たちに声をかけると、ウシ族とタカ族から数人の若者が、ワニ族は捕らえられている全員が前に歩み出てきた。チハルが死体の山から見つけたワニ族の女もいる。チハルが彼女を見つけると、ワニ族の女はにっこりと微笑んで返した。
「うーん、やっぱ美人だわ……。」
チハルは全員の名前を確認し、彼らに自分と共に北へ同行するよう命じた。彼らの働き次第で残った者たちへの"呪い"を解いたり、死んだ者たちを神の力で安息の地へ向かわせるというと、フォーシュ語を話せないものもこぞって同行したがったが、さすがに全員は無理なので、ウシ族から5名、タカ族から5名、ワニ族は捕虜全員、こちらも5名を選んで北へ連れていくことにした。残りの者たちはいったん集落に戻り、北から応援の要請があればそれにこたえるように命じた。
同行するものは以下の十五名である。
ウシ族:サイシャワット・"ウシ"・パスバキ、他三名のフォーシュ語を話せるものと生き残った者の中で最も若い12歳の少年一人。少年は本人のたっての希望と残りの者たちからの推薦。
タカ族:族長の息子で飛行が可能なアヤワン・コトコ・シントー、他フォーシュ語を話せる二名と飛行が可能な二名。飛行が可能なもののうち一人は侍女たちを攫った"美男子"タカ族。
ワニ族:チハルに捕まったワニ族の女ビダイ・シュランは何とワニ族の集落の族長であった。その他市街地に潜伏していたというワニ族の男女四名。
残りの者たちはサクシード商会の協力を受けながら市街地に近い山側に新たに集落をつくらせ、他の部族の亜人と人との仲介をするように命じた。また新たな首を刈るのは禁止、北へ向かうメンバーが自衛のために他の亜人を攻撃する時だけにチハルの許可を得て行うことを約束させ、ここに残る者たちにはそれよりも今あるすでに刈った首を大切に保管して祀るように指示した。
部族間のわだかまりは2-3年に一度決闘の場を設けるのでチハルの立ち合いの下で解消するように命じた。それよりも混血を作ればチハルが祝福して名前を授けてやると言っておいた。
ほとんどが口から出まかせだが、不思議なことに批判的な意見は全くなく、全員が大人しく従ってくれた。チハルは同行する全員に出発の予定日とそれまで英気を養っておくよう伝え、捕虜たちの詰まった倉庫を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その数日後、チハルは自宅でショーピンとの結婚を祝う質素な催しを開いた。それまでに見知ったメルイーウからの者たちと南タライバン島の知人らを全員集め、立食形式で祝った。ほとんどは王都の者たちだったが、治療所を手伝ってくれたヒツジ族の女性らや工房の職員たちも参加した。ショーピンが姫というのは南タライバンの住人達には秘密であるので、いつもより少し質素な服を着せ、酒も飲ませずに大人しくしておいてもらった。タクトなどの軍属の者たちは仕事があるとのことで顔だけ出してすぐに帰った。チハルのカンジエ―、ボリ―ズオ、エムユーバイの三人の護衛官だけが準備から片付けまでずっと手伝ってくれたくらいである。
積もる話もあるだろうと、ショーピンの教育係だったという宰相と神官長とは別途個室で別れ話を済ませてもらうなどもした。部屋から出てきたときは三人とも涙目であった。
数時間の宴会も最後の段になり客もまばらになって来たので、チハルは北へ同行する亜人たちを呼び、酒をふるまった。残っていた客は亜人たちを恐れて怪訝な顔をし、一部は怒りに震えて今にもとびかからんばかりであったが、チハルがすぐに同席の理由を述べたため大人しくなった。チハルはどうせすぐに面会するのだから、一献やってわだかまりを解いておいた方がいいと判断してのことだった。考案したウシ族とワニ族の同行者らは全員チハル考案の≪Tシャツ≫を、タカ族は同じくチハル考案の藍染の≪ジーンズ≫と腰巻を身につけさせており、チハルとショーピンのセンスで髪の毛などの身だしなみも可能な限り整えてある。また最低限の礼儀作法も一日かけて仕込んでいるので、ひとまずは失態をやらかす心配はない。南タライバン島の島民らと比べても清潔感あふれる、さっぱりした現代風のいで立ちであり、自分たちの薄汚れた服装と比べて彼らを表立って非難するようなものはいなかった。
催しの趣旨も人族と同席になることも亜人たちには伝えており、亜人たちには敵対の素振りや、怒りの表情でも見せたら同行は取り消すと言ってあるので彼らは終始にこにことしている。作法に関しては全員ががちがちに緊張しているので動きがぎこちないが、食事だけはチハルが手ずから皿に盛ってやり、目の前でフォークを使って口に入れるやり方を見せてやった。全員(ウシ族の少年ですらも)酒に強いということだったので、チハルは人のいるうちは一杯だけと断って全員に焼酎をふるまってやった。彼らも酒のおかげで緊張がほぐれたのか部族の垣根を超えて何食わぬ顔で談笑していた。チハルは人が去ってから彼らにもう少し飲ませてやるつもりである。
もともと純朴だった彼らが顔に笑みを浮かべているので、いつしか怖いもの見たさの人が彼らを囲むようになり、毛並みを触ったり羽を伸ばしてくれとせがんだり、ウロコはどうなっているのかと尋ねたりしているようで、チハルは全員に快く引き受けて対応するように命令した。特にタカ族は羽に触れられるのを嫌がったが、人にとっては他人に触れる好意が友愛や興味の証だと伝え、しぶしぶ了承してもらった。しかしタカ族は羽を撫でられると目をつぶって震えているので、チハルは早々に羽を触る人だけを下がらせた。
しばらくして最後の客が帰ったので、チハルは残っていた料理を一つのテーブルに集め、こっそりと出発前の壮行会を開催した。
仕事を理由に式への参加を辞退していたサクシードはこの壮行会から参加である。全員分のイスとテーブルが用意され、チハルに同行する者らが一緒になって酒を飲んだ。この壮行会は特にタカ族に攫われたスーとサンらに亜人らに慣れてもらうのが目的でもあったが、自分たちを終始紳士的に扱ってくれたというタカ族のイケメンには特に悪感情は持っていないらしく、スーとサンは彼にだけでなく他の亜人にも酌をしていた。チハルの思い過ごしで合ったらしい。
最後に亜人たち各部族に伝わる歌や踊りを披露してもらい、亜人たちにはそれぞれ簡単な褒美を授けて倉庫へ帰らせた。衣服は同族の者たちに羨ましがられたり笑われても悪いのでチハルの家で着替えて帰るように言ったのだが、全員気に入ってしまったようで、そのまま着て倉庫に戻るようだ。ちなみにTシャツとジーンズは亜人たちの物だけでなく、一応チハルたち人用の予備もサクシードに命じて大量に準備させてある。北への移動時は動きやすいのでこれらを着用する予定だ。
料理の余りは残りの亜人たちに届けさせると伝え、亜人たちを兵らに任せて送り出した後、チハルは月明かりの中庭でサクシードと向き直った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「上手くいかないものですね。やっぱり王都の人たちは救えないようです。」
「いや、おぬしはよくやっておるぞ。考えすぎはよくない。」
「……。」
「北の街ってどういうところですか?」
「何もないぞ。ここと同じように人と亜人が一緒に暮らしてはおるがな。大部分が農民であとは小規模の鍛冶と木工がおるくらいだ。たしか茶も作っておったかな。それくらいだ。不便だろうが、数か月ほど我慢しろ。我々が到着するのに合わせて船でも荷が届く。」
「んー。そういえば、西の国の商館へ荷物って送りました?」
「うむ、送ったぞ。2、3か月後には向こうからの返答や注文が届くはずだ。その時我々はここにはおらんがな。北へも報告させよう。向こうから客人も来るかもしれんが、息子にでも対応は任せておいた。どのみち俺では言葉が通じぬわ。はっは。」
「改めて、ですが、いろいろとありがとうございます。」
「はっはっは、こちらこそ、よ。チハル殿がおらなんだら、王都の奴らと心中しておったかもしれん。」
「まさか。サクシードさんならもっと強かに生き延びたでしょう。」
「はっはっは、かもしれぬな。ところで、チハル……。」
「?なんですか?」
「変なことを言うようだが、よいか?恥ずかしい話ではあるのだが。」
「ん?」
「おぬしが捕らえたというあの亜人、ワニ族の。あの女、もう手は付けたのか?」
「へ?い、いやいやいや、僕は捕らえただけですよ。」
「ふむ、ではわしに譲らぬか?」
「……、そう来ましたか……。」
「頼む!」
「頼まれた!……じゃない!何言ってんですか!?あなた子供もいるでしょう!」
「妻とは別れたのだ。それになにも結婚したいというのではない。その、わしに譲らぬか?」
「顔赤くして……、おっさんが何言ってんですか!ぼ、僕のモノじゃないんで、同行中にでも口説けばいいでしょう。勝手にしてくださいよ。まぁ、協力しろというのなら協力してもいいですけど。」
「本当か?!頼む!あの女、あんないい女はこの南タライバンにもおらんぞ。ぜひ俺に譲ってくれ。亜人だろうがかまうものか!」
「……。飲みましょか。」
「うむ。」
チハルとショーピンの結婚を祝う簡素で小さな式と、出発前の壮行会、そしてサクシードの恋愛相談会はこうして幕を閉じた。




