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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第四十三話

短めです。

 第一章 第四十三話


 洪水が収まってさらに二週間がたった。チハルは水が引いてすぐ亜人たちの元を訪ね、簡単なけがの治療を行ったりした。最初に顔を出したときに数十人に囲まれて涙ながらに街に攻め入ったことを詫びられ、そのときに二つ返事で自分について来れば今まで以上に一族は発展するだろうなどとがらでもないことを口にしてしまった。感動した亜人たちは全員が平伏してチハルに忠誠を誓い今後いかなる命令でも聞くというので、チハルは「二度と人を襲わないこと」と、その替わりに首の形をした陶製の人形に名前を付けて祀り、問題があれば自分に相談することなどを約束させた。亜人たちの中では文字通り現人神となったチハルであったが、彼らの目が尋常ではない光り方をしていたためひとまずその場を立ち去り、軍に管理を任せた。


 戦闘を避けるために模索していた手がタクトたちによって切り捨てられ、八方手を塞がれたチハルはこの二週間何をするでもなく、ただ事実と工房を往復して既存の工作品の改良をしたり、いくつかの試作品を完成までこぎつけたりしていた。島出身の助手らによると嵐の季節は一月ほど過ぎ、その後すぐに潮が凪ぐのだという。追跡軍がやってくるまでのこり3週間を切っている計算になる。


 チハルは島出身の者たちに追跡軍がやってくる予定だが恐ろしくはないか訪ねてみたが、大陸からやって来た王族を捕らえにやってくるだけであることは周知の事実であるらしく、自分たちには関係ないと考えているものが大半のようだった。口にこそ出さなかったが血気盛んな者たちは追跡軍に協力してメルイーウ王家に弓引くものもありそうであった。都市の人口の大半は追跡軍に好意的ではあったが、亜人襲撃から守ってくれたメルイーウ軍を憎からず思う意見もあるようだった。


 そんな折、チハルはサクシードに呼ばれて彼の執務室にいた。


「久しぶりであるな。」


「はい、サクシードさんもお元気そうで。」


「単刀直入に言おう。」


「はい。」


「俺と一緒に北の街へ逃げぬか?」


「いいですよ。」


「む?その顔は知っておったのか?」


「ええ、そろそろ時間もありませんしね。従います。もちろん侍女もショーピンも一緒です。可能なら護衛官も何人かつけてもらいたいです。」


「人選はチハル殿に任せえる。」


「いよいよですか……。」


「うむ。軍の見込みではおそらく戦にはならぬ。」


「タクトさんもそういっていました。町への被害は……、ある程度略奪は行われるでしょうけど、それはどうしますか?」


「それよ……。何か策はないか?」


「思いつきません。いっそ街の住人を全員北に逃がしては?せめてルーカン辺りまで。」


「はっはっは、それは無理だ。」


「……、一つだけ頼みがあるんですが。」


「なんだ?言ってみろ。なるだけ聞いてやるぞ。」


「道中、人気のないところで数日だけ僕をxxxxxxxxxxxxxx。」


「?なぜだ?危険だぞ?」


「ええ、危険は承知です。本当は山の中でも海の上でもいいんですけど、北に向かう途中で良い場所があれば。そうですね50里四方に人がいないような場所はありませんか?」


「むぅ、そうだな。ルーカンよりさらに北、北の町に行く途中にシンディェという集落がある。海賊の根城だな。海沿いの小さな集落だが。そこから北の街へ行く途中なら少し山側に入ればほぼ無人だ。海側に海賊がおるのでな、あの辺りは山の奥深くへ入らねば蕃亜人もおらん。」


「そこでお願いできますか?」


「理由を聞かせてもらおう。」


「XXXでXXXXXXしてもらおうと思っています。」


「なんと!!」


「あくまで仮説ですが、過去の記録を見た限り可能性はあります。前例はありませんけど。」


「むぅ、しかしもし実現してしまえば、その……、消えてしまうのでは?」


「その可能性はあります。しかしそうならない可能性もあります。五分五分です。」


「……、まったくとんでもないことを思いつくものだ。が、まぁ、そういうならやってみるがいい。軍の説得は?」


「僕がやります。」


「はっはっは、では任せた。出発は潮の凪ぐ20日ほど前を予定しておる。今から10日後あたりだな。荷車をやるので、必要なものはそれに乗せておくといい。重いものは先に出発させる。すまんが工房の大きな機械はおいていくぞ。通常業務は続けさせるのでそれに紛れさせておけば奪われたりもせんだろう。」


「北の町までどのくらいかかります?」


「陸路で……、そうだな、15日といったところか。船ならば7日ほど見ておけば良い。どちらで向かっても良いぞ。」


「船の方が楽そうですけど?」


「途中で海賊らの跋扈する海域を通るのでな、交渉が面倒くさい。女はやめた方が良かろう。俺も陸路で行く。」


「では僕も陸路ですね。侍女やショーピンたちは荷車に乗せてもらってもいいですか?」


「おぬしも乗って良いぞ?」


「馬車はないんですよね?まさか人が引く……、あ、もしかして亜人が引きます?」


「ん?そのつもりではないのか?ウシ族を懐柔したと聞いたが?」


「ああ、なるほど。じゃ、そうします。運動がてら僕も少しは歩きますけど。」


「うむ、かなりの強行軍になるが、覚悟しておいてほしい。家には管理の者を住まわせておく。」


「そういえば王家が持ってきた秘宝はどうなりますか?」


「一部は我々と一緒に北へ逃す。残りは船だな。しかし北へ向かうと海賊が出るので、島をぐるりと一周して南回りで北へ向かう。管理の者も同行するらしい。ただ一部は追跡軍に返却というか、奪われる形にして大陸に戻すらしい。これをやらないと略奪の確率が上がるのだそうな。あとは褒美にでもなるのだろう。」


「住民たちは?」


「街に亜人がいるだろう?」


「はい。」


「ひどいことになれば彼らの元いた集落に逃げる算段が付いているそうだ。御覧の通り南タライバンには城壁も何もないのでな。入り込みやすいし、出ても行きやすい。この間のように襲撃があればひとたまりも無いがな。逃げるのも楽なのだ。」


「なるほど。」


「あと10日ほどだが、その間に別れはしっかり済ませておけよ。」


「はい。分かってます。」


「それと、北の街にはメルイーウ語を話すものはおらん。すべてフォーシュ語だ。道中簡単な単語くらいは覚えておくと良い。」


「え?ではショーピンや侍女たち、一人は話せますけど、彼女たちには不便ですね。彼女に教わります。」


「うむ、仕方ないな。それと……、亜人らを全員連れていくのは無理だぞ。」


「まぁ、そうでしょうね。」


「一部には山に戻ってもらうか、ここで暮らしてもらうしかないが、その説得を頼みたい。連れて行くものは……陸路で20人ほどがせいぜいだ。人選は任せる。」


「分かりました。」


「そんなところだな。ああ、あと洪水後の疫病の対処法、礼を言う。おかげで例年より死ぬ者が少なくて済んだ。あのような簡単な方法で命が助かるとはな。住民たちを代表して礼を言う。」


「あ……。」


「どうした?」


「追跡軍撃退する方法を一つ思いついたんですけど。」


「なぬ?」


「ダメ元ですけど、一応軍に教えときますね。」


「だめ?もと?」


「駄目なことを前提にって意味です。あ、もちろん僕たちは逃げますよ。」


「また恐ろしいことを考え付いたのだろうな。」


「ですね。僕も実行はしたくありませんし、たぶんタクトさんに言っても却下されるでしょう。火に油を注ぐ結果になりかねませんし。」


「うむ、では、準備を頼む。工房から持ち出すものがあれば指示しておいてくれ。余り沢山は困るぞ。」


「分かりました。」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 チハルはその後数日をかけて自宅と工房から必要なものを選び、荷車や船に乗せて北の街へ送る作業を行った。


 追跡軍到着まで残り3週間。


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