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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第四十話

 第一章 第四十話


「スー!サン!おかえり!」


「チハルさま―!」


 捕らえられていたスーとサンがチハルの家に戻って来た。服は薄汚れところどころ擦り傷のようなものもあったが、護衛の兵に守られながら自分の足で歩いて帰って来た。チハルと残りの侍女はそれを入り口で迎え、抱擁して無事を喜び合った。全員の目に涙が浮かんでいる。


「スー!サン!こっちだ!まず風呂に入れ!新しい服もある。飯もな。」


 チハルの家にはチハルたっての要望で作り上げた木桶の風呂があった。さすがに毎日湯を沸かすわけにはいかなかったが、3日に一度はチハルを筆頭に侍女たちも利用していた。この家に住む全員のひそかな楽しみとなっており、チハルが時々摘んでくるヨモギやドクダミを使った薬湯も皮膚によいと人気だった。


 チハルは本日の一番風呂をスーとサンに譲り、他の侍女たちに命じて彼女らの体を念入りに洗わせた。その間にチハルはショーピンが連れてきた料理人と幾つかの料理作りに取り掛かった。水に浸けていた小豆ともち米を合わせて炊いた≪赤飯≫、それに合わせる≪ゴマ塩≫、鶏もも肉を使った≪焼き鳥≫、おこげにエビの餡かけをかけた中華料理≪鍋粑蝦仁≫、蒸した魚に柑橘類のソースをかけたものなど、チハルがレシピを覚えている料理でこの時代でもなるべくそのまま再現可能なものを数品作り上げた。


 スーとサンが新しい服に着替えると、無理やり食卓の上座に座らせ、目の前に豪華な料理を並べていく。二人は目に涙を貯めてチハルに感謝を示し、チハルが促して最初の一口を食べさせると、おいしい美味しいと言いながらついにぽろぽろと涙の粒を流し始めた。


「さて、それで二人にはもう一つ驚いてもらいます。」


「はい?なんでしょう?」


「ショーピン!」


「はーい!わらわとチハル殿は結婚することになったのじゃ!」


 食卓の扉を開けて数人の侍女を連れたショーピンが登場した。あれからショーピンはずっと家の中にいたのだが、疲れた侍女たちを迎えるのが先だとチハルがいうので、今まで部屋に隠れていたのだ。それでも帰って来た侍女たちから隠れながら家の中をちょろちょろしていたので、チハルは少し気をもんでいたのであるが。


 ショーピンの登場に二人は料理を口に運ぶ手を止め、目を点にして驚いている。いきなり自国の姫が自分の主人と結婚すると言って登場したのだ、無理もなかろう。


「あー、俺が説明するのも面倒くさいから、ショーピンと他の者に説明は任せた。ほら、全員座れ。一緒に食うぞ!久しぶりにみんな一緒だ!」


 全員がおずおずと席に着き、少しの緊張の後、スーとサンが連れ去られた後の話し、ショーピンがチハルが助けに来てくれた時の話、治療所での活躍、ワニ族の亜人を捕らえた話、死者を埋葬した話、ショーピンがいきなりやってきた話などに花を咲かせた。


 スーとサンによると、一瞬にして空から連れ去られた後、しばらくしてどこかの草地に下されたので腕を振り回して抵抗していたが、二人を攫ったタカ族の"美男子"が時間を尽くして身振り手振りで優しく諭してくれたので、抵抗をあきらめて大人しくお縄についたのだそうだ。擦り傷や服の破れの大半はこの時についたものらしい。その後数度空中散歩をしながら拠点に連れていかれたが、やはり二人とも失神してしまったそうだ。この時サンが顔を真っ赤にしていたので、それ以上のことが起きたらしいことに全員が気づいたが、誰も指摘はしなかった。


 拠点ではちょっかいをかけてくるウシ族からタカ族の戦士が二人を守り、それはもう丁重に扱われたのだそうだ。他にも町から連れ去られた女性が数人いたそうだが、どれも同じような扱いだったらしい。食事は木の実やもち米が主で余り大したものではなかったが、戦士たちよりも豪華なものを供してもらえたらしい。どうやら命の危険がないことも分かったのでひとまず安心していたが、数日後に軍の追撃があり、その時に救助されてからここ前歩いて戻ってくるのが非常につらかったのだそうだ。


 ショーピンが救出された時の話では、ショーピンが食卓から離れて身振り手振りでチハルの活躍を示し、いかに旦那様がかっこよかったか、冷静だったか、機転を利かせたのかを熱く語った。市街を走り抜けてウシ族を切り伏せた段に至っては、食卓の周りを一周して走り回り、結婚を約束したセリフ、置き去りにされた時の不安、数十秒後に再び現れたときのカッコよさ、すべてを独特の言い回しで表現して全員から拍手までされていた。チハルはすこし気まずいのか、侍女に命じて厨房から酒を持ってこさせ全員にふるまった。


 診療所での話になると、最初はその場にいた侍女たち全員が亜人も人も分け隔てなく接するチハルのやさしさを褒めたたえていたが、その後けが人の傷口を縫ったウォーの話に話題が移った。治療を受けた兵士からはアイドルとして祭りあげられているようで、擦り傷くらいでほとんどケガもないのに、ウォーを一目見ようと一時期治療所に行列ができたくらいだったらしい。ヒツジ族の亜人たちもよく働いてくれたらしく、今度みんなでお礼を言いに行くことになった。


 ワニ族の亜人を捕まえた話と使者を埋葬した話はチハルが日本の怪談調に脚色して話したので全員が食事をする手を止めて聞き入った。死体から手が生えてくる部分に至ってはチハルはメルイーウ語にはない日本語独特の擬音表現をたっぷり使いながらジェスチャーも交えて話したため、全員に奇妙な汗をかかせることに成功したのだった。


 この時、ちょうど見張りの交代の時間だというのであいさつに来たカン護衛官にも食事に参加するように言い、酒をふるまってこの数日の活躍を労った。ショーピンの侍女や下男たちも別の場所で食事をしているはずなので、カン護衛官に頼んで酒をふるまってもらった。今はエム護衛官が屋敷の警備を主導しており、明朝からまたカン護衛官に交代するそうだ。ボリー護衛官は数日傷をいやしてから警備の補助にあたるそうだ。


 ショーピンにどうやって王宮を出てきたのか尋ねると、王に普通に挨拶して荷物をまとめて出てきたのだそうだ。しょーぴんによると王はものすごく落ち込んでいるらしく、政治や軍事に口を出す気力もないとのこと。チハルが宰相や神官長に許可は取ったのかと聞くとごにょごにょと口ごもっていたので、どうやらほとんど自分勝手に飛び出してきただけらしい。チハルは明日改めて挨拶に行けとショーピンに命じ、食事を終わりにした。ショーピンが侍女たちを呼び食事の後片付けを命じた。料理はたくさん余っているので、チハルは別の皿に移し替えて見張りの兵士たちにもふるまうように指示した。


 チハルは風呂を浴び、服を着替えて自室に戻った。


 チハルは帰って来たばかりのスーとサンを早々に休ませ、同室の侍女たちにしばらく部屋の明かりは落とさずに寝かせてやる指示した。夜中に彼女らが目を覚まして泣き出したりするようなことがあったら抱きしめて慰めてやれとも、そして"今日は聞き耳を立てすぎないように"とも命じたのだった。


 侍女の一人が「チハルさま、まさかアレを使われるのですか?」と聞いてきたので、チハルは邪悪な顔で「もちろん」とだけ答えた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 チハルが部屋に戻って寝台に横になっていると、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。チハルが「んー」と間延びした鼻音で返事をすると、ゆっくりと扉が開いてショーピンが部屋に入って来た。鼻をくすぐる芳香が部屋に満ち、チハルを振り向かせた。


 薄手の服を着たショーピンがスルスルと音もなくチハルの横になった寝台に近寄り、蚊帳を上げて中に入って来た。チハルは体を起こし、そのまま近づいてきたショーピンを抱き寄せて胸にしまう。


「旦那さまー!かわいい妻がきたのじゃぁー。」


 猫なで声でショーピンが腕の中からチハルを見上げた。まだ幼さの残る年齢のはずだが、瞳の奥に宿る魔力のような妖艶さがあった。


「これからはわらわもあの侍女たちと同じ、いや、より以上に愛してほしいのじゃ。」


 ショーピンの仕草や声はチハルのドンピシャ、好みのど真ん中ストレートであった。チハルの本能は理性の限界を容易に振り切り、寝台にショーピンを押し倒し、全身にキスの雨を降らせた。


 部屋にショーピンの女の声が響く。


 一通りの前戯を終えるとチハルは寝台の下から一つの箱を取り出した。荒い息遣いのショーピンは首だけを動かしてチハルの動きを追っている。


「はぁ、はぁ、なんじゃ?それは。」


 チハルは箱を開け、電線のついた卵型の道具を取り出した。電線の先にあるスイッチを入れると卵の部分がブゥンと音を立てて振動し始めた。チハルが侍女たちを喜ばせるためだけに開発した現代の秘宝≪バイブレーター≫である。


 バイブレーターは小型のモーターの軸に重心をずらしたおもりを付けて高速で回転させ、回転数に従って生まれる振動を快感に利用するものである。もともとは子宮のうっ血がヒステリーやうつ病の原因と考えられていた時代に、手を使わずにうっ血を改善させる目的で開発された"医療器具"が元になっている。


 1880年、イギリスに医師ジョセフ・グランヴィルが医療用電動振動機を発明、特許を取得した後、西洋で流行し、100年ほど後に特に日本で改造、改良され、セックストイとして世界中に広まった。


 チハルはその未来の道具を遠慮なくショーピンに使用した。寝台の上で跳ねるショーピンの体、両腕でチハルの腕や体を押しのけようとするが、チハルはショーピンの上に覆いかぶさって自由を封じ、顔を眺めながら愛の言葉をささやいた。


 隣室では侍女たちがまんじりともせず二人の行いに耳を澄ましていた。時々ワーとかキャーとかいう小さな声がチハルにも聞こえる。


 その後チハルとショーピンの二人はたっぷりと汗をかき、朝まで重なり合ったのだった。

このくらいならR15はいらないと信じたい…。

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