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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第三十六話

 

 第一章 第三十六話


「亜人たちが街に侵攻してきたのは、チハルさん、あなたが原因です。」


「え?」


「亜人たちが共闘しているのも、ここに攻めてきたのも……、あなたが原因です。」


「ど、どういうことでしょう?」


「今日の戦闘でウシ族の戦士を捕虜にしました。それで分かったのですが……。亜人たちには自分たちを作った神という存在がいるらしいのですが、ウシ族、タカ族、ワニ族ではその神が"悪神"とされているそうです。」


「自分たちを作った神……?って、もしかして?」


「ご察しの通り。はっきりと通門者という伝承は残っていないのですが、もともとは人であった自分たちを動物と掛け合わせて亜人にしたとのだとか。他の部族では創造神として崇められていますが、この三部族では悪神とされています。」


「……。」


「それで噂話で今代の通門者がこの島に表れたことを知り、今まで差別されてきた恨みを晴らそうと攻めてきたということらしいです。特に角を持つウシ族、羽を持つタカ族、ウロコを持つワニ族は人間と外観が比較的かけ離れているため、過去かなりの迫害を受けていたのだとか。亜人たちの多くがこの島に住むようになったというのもそういう理由からだそうです。タカ族が人を攫って子を作るのは、動物の血を少しでも薄めるためなのだとか。ひとまず捕虜を尋問してここまで分かりました。」


「通門者が亜人を作った……、ってどのくらい前のことなんですか?」


「正確には分かりません。宝物管理官に確認させましたが、記録に残っている限りそのような通門者は見当たりません。それ以前、となると2000年以上前、文字ができる前ということなら3000年以上も前のことです。」


「そんな時代からあの秘宝があるんですか?!」


「はい。≪始王之門≫は記録に登場するのが始王の時というだけで、それ以前から人類に伝わっているものです。いつ、だれが、どのようにしてあれを作ったのかは、分からないのです。」


「……、俺のせい?」


「もちろん、正確には全くの言いがかりですよ。亜人を作った通門者とチハル殿は関係がありません。たまたまこのタライバン島で呼び出され、それが蕃亜人たちの耳に入ってしまったということです。」


「ほ、他の亜人たちは?このことをどう思っていますか?」


「島南部の蕃亜人はすべてこのことを知っているそうですが、武装蜂起に同意したのはウシ族、タカ族、ワニ族の数部族だけということらしいです。ワニ族は……、もともと数が少ないのもあって、ほぼ全氏族が反乱に参加しているらしいですが、まだ戦闘に姿を現していません。少しだけ目撃情報があるくらいです。何を企んでいるのか知りませんが……。市内の亜人たちは人と交流していることもあり、知っても大した影響はないでしょう。むしろ創造新として信仰の対象になるかもしれません。」


「では……、ウシ族たちの目的は何なんですか?僕の捕獲?殺害?」


「それが……、どうもはっきりしないんです。」


「?」


「太古の神のせいで動物の姿にされた、その憎い神と同じ存在がここにいる、いままでの恨みを晴らすということで攻めて来たそうなのですが、その割にはチハルさんの姿を知らないし、住んでいる場所を優先的に攻めてきたわけでもありません。結局、チハルさんをダシにした略奪、破壊行為が目的なのではないかと考えられます。」


「……。」


「それと王宮とチハルさんの住まいはすでに奪還しました。という市内全体ですね。王宮は金目のものはあらかた持ち出されてしまっていますが、建物は全く無事です。チハルさんの部屋は、こまごましたものが持ち去られてはいますが、大半は無事です。使い方が分からなかったのでしょう。電池や機械もほとんど手が付けられていません。」


「あ、ありがとうございます。あ、では敵の拠点は?」


「ここから10里ほど行った山中だそうです。明日総攻撃をかけます。」


「……、もしかして全滅させます?」


「はい、メルイーウに危害を加えたものを許すわけにはいきません。」


「元々の彼らの集落は?」


「探し出して焼き払います。」


「ちょっと待ってください。ここを攻めたものはまだしも、集落の、おそらく女性や老人は関係ないのでは?あ、いや、おっしゃることも分かります。そうする必要も。しかし……。」


「チハルさん。あなたの侍女が連れ去られているのですよ?民にも少なくない被害が出ています。あなたが治療しているのでしょう?」


「……。」


「サクシードから、あなたが敵の侵攻を止められるかもしれない策を考え出したというのも聞きました。詳しくは後日聞きますが。あなたがメルイーウ王家に与えた恩恵は計り知れない。これからも多くの助言をいただくことになるでしょう。私も期待しています。そして平和な未来に生きたあなたが、戦を避けるため様々に配慮をしていただいているのも知っています。」


「……。」


「しかしこれはもう起きてしまったことです。ここで彼らを攻めなければあなたの身が危うい。集落を残せばそれが新たな火種となります。どうかこの時代の法もご理解いただきたい。」


「いや、分りました。侍女たちの救出、お願いします。」


「それと秘宝ですね。負傷した護衛官の代わりに警備を付けます。少なくともこの戦闘が終了するまでは絶対に一人で出歩かないでください。」


「……、ありがとうございます。治療所に戻ります。ありがとうございました。」


 チハルは同席していた全員の顔をぐるりと見渡し、一礼してテントを後にした。先ほどチハルを呼びに来た軍人が護衛につくらしい。


「治療所まででいいです。あとはカン護衛官にやってもらいますので。」


「いや、二人体制で警備させていただきます。」


「……はい。」


 チハルはやりきれない気持ちを残して治療所へ戻った。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 チハルが治療所に戻ると侍女たちが声をかけてきた。


「チハルさま?顔色がすぐれませんが?」


「ああ、すまない。みんなも大丈夫か?」


「私たちは大丈夫です。けが人も新しく運ばれてくることもなくなったので、今は軽いけがの人を治療しています。」


「ああ、お疲れ。ひと段落したら全員軍の人に治療を引き継がせて、休んでいい。たぶん、明日で戦闘は終わる。家も取り返したらしい。近いうちに帰れるぞ。」


「それは良かったです!」


 チハルは治療所内を見渡した。侍女たちの顔には疲労の色が浮かんでいたが、かいがいしくけが人の治療にあたっていた。もともと治療に携わっていた者や志願してきたヒツジ族の亜人たちもせわしなく動いて各人の役割を果たしていた。カン護衛官まで休まずに治療にあたっていたので、無理やり捕まえて酒を飲ませ、建物の外に放り出して布団をかぶせた。


「んー。なーんか忘れてないか?」


「チハルさま。」


 侍女ラックが恐る恐る近づいてきてチハルに小声で話しかけた。


「お、どうした?」


「その……、外の死体はどうしたらいいですか?その……、私もう怖くて怖くて……。」


「!そう!死体!」


 ラックがびくりとした。


「やべ、あれ処理しなきゃ。まだ腐ってないよな?悪い、ラック軍の人をなるべくたくさん呼べる?それと南タライバンの偉い人も。……あれ?ああ、サクシードさんか。じゃいい、俺が行く。」


「?」


「ケガ人減ってきたら休めよ。ウォーにはもう仕事させないで、休ませろ。」


「は、はい。」


 チハルはいま入って来たばかりの治療所を出て、サクシードの執務室へ向かった。護衛の軍人はやっぱりついてくるらしい。チハルは歩きながら護衛の男にいくつか質問をした。


「名前なんだっけ?」


「申し遅れました。私エムユーバイと申します。」


「また覚えにくいな。エムでいいか?」


「はい、光栄です。」


「それでエム護衛官は今回の戦闘には参加したの?」


「はい、兵舎の位置はご存知ですか?我々は襲撃後兵舎から王宮に向かい、王や貴族らを救出しました。その……、チハルさまは残された姫を救出されたとか。本当に感謝いたします。」


「戦闘にはなったの?」


「いえ、王を救出後すぐにここで編成が始まりましたので、特には。」


「亜人のことはどう思ってる?」


「あ、いや、その、実は……。タライバン島に来てから初めて亜人というものを見たのですが、別に何も思いません。始めは少し怖かったのですが、ここで生活していると普通に見かけますからな。耳の位置が違う位で、もう慣れました。あ、いえ、ウシとタカの奴らはもちろん攻め滅ぼすべきだと思っていますが。」


「軍じゃ亜人に差別したりする人はいないの?」


「一部では毛嫌いしている者もありますが、むしろ亜人の女の方が良いという奴が大半ですな。はっはっは。」


「んー、もしかして亜人作ったのって日本人じゃね?」


「?」


「あ、いや、こっちの話し。」


「そういやメルイーウ軍じゃ、戦死した人はどうしてるの?」


「はい、その場に打ち捨てます。」


「え?あ、いや、味方だよ。敵じゃなくて。」


「はい、その場に置いておきます。」


「え~!!!焼いたり……、はしないまでも、埋葬したりしないの?!」


「しませんよ?そんなこと恐ろしくてやれません。」


「恐ろしい?」


「ええ、戦場で死んだ者は鬼となって甦り、生者を襲うのです。ご存じありませんでしたか?」


「それって……、マジ?」


「ええ、本当ですよ。近づいたものを襲うので、誰も近づきません。」


「もしかして、それで治療所の死体に誰も近づかなかったのか?」


「まだ新しいので大丈夫でしょうが、もうしばらくすると近寄らない方が良いでしょうね。」


「いーや、待てマテ待てマテ。いくら時間軸が違うっつっても、それはない、はず。あったらこんな世の中にはなってない。」


「?」


「それってメルイーウでの話だよな?」


「あ、いえ、私の故郷でもそうでしたよ。王都の南、フーランです。」


「見たことは?」


「何を?」


「実際に死体が動くところだよ。」


「いえ、そんなこと怖くてできませんよ。一番近くにいる者から生気を吸い取って甦るそうなので、戦場の死体には誰も近づきません。」


「……もしかしてその動く死体って病気をまき散らす?」


「おお、やはりご存知ではないですか!」


「やっぱりね……。」


 チハルが歩きながらがっくりと首を落とした。


「それ。迷信。」


「いえいえ、メルイーウの誰に聞いても同じことを言いますぞ。はっはっは、未来の知識と言うのもあまり当てになりませんな。……、あ、いや、失敬。」


「いや、いい。時間が経った死体にはなるべく近づかない方がいいのはまぁ、当たってる。腐るからな。」


「チハルさまはイャワトの出でしたよね?やはり死体は動くのですか?」


「あー、動く動く、人も食うし、走って追いかけてくる。ゾンビっていう名前だな。」


 チハルが某ゲームに出てくるゾンビの真似をし、護衛官を驚かせた。


「ゾンビ……、なんと恐ろしい……。」


 チハルたちがそんなことを話しているうちにサクシードの執務室のある倉庫についた。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「死体か……、どうすべきか。」


「だから、身元を確認したらすぐに火葬、それができないなら石灰をかけて土葬です。農地や河川からは離れた場所に、です。」


「いや、しかしなぁ。死体なぞ恐れて誰も近づかんぞ。」


「死体から流行る病もあるんですって!早くしないとこの天気だとあと半日ほどで腐り始めますよ。僕一人じゃあ無理なので、人手も必要です。」


「うーむ、本当に動かんのか?」


「だーかーら―!迷信ですって。早くしないと本当に疫病になりますよ。」


「ううぅむ。こればかりはなぁ、おそらく例え罪人たちを使ってもやってはくれまい。」


「っぐぅ……。では、油だけでもください。あの一角に油をかけて燃やしますから。一か所に集めて燃やして、そのまま埋めてしまえば効率良いんですが、穴は掘れませんか?火の番をする人とそれだけ出してくださいよ。」


「うむぅ、死体を燃やすなど……、誰がそんな恐ろしいことを……。そんなことに手を貸したら俺まで呪われる。」


 メルイーウ王国では、普通死んだ人は通常棺桶に入れて封をし、そのまま数か月自宅で祭祀を行ってから棺桶ごと埋めるという方法を採っていた。南タライバン島でもほぼ同じで、死後すぐに火葬にする風習はまだない。戦場や行き倒れとなって死んだ者はもっと悲惨で、無念のため死体を動かして人を喰うと考えられていた。今回の亜人の襲撃のように市街地が戦場となると、死体はそのまま路傍に捨て置かれて野生動物の餌となるかそのまま腐ってしまう。死体のある場所からは人が去り、建物も放棄される。もちろんその後疫病が大流行するのだが、死者の無念が病を引き寄せると考えられており、疫病が去るまで為す術はないものと考えられていた。病原菌や感染症という概念がない時代のことである。


 例外は"戦争以外で"疫病が大流行したときである。疫病になるのは先祖への崇拝が足りないためであり、疫病にかかったものを"一家ごと"船に乗せて海上で船に火をつけて燃やしてしまえば、先祖はその一族を許し、疫病が去ると考えれていた。時に生きたまま焼かれるものもいたが、隔離と殺菌が一度に可能なためにある程度の効果はあったのである。


 チハルは今、南タライバンに来て最大の難局に直面していた。


「迷信って……、こんなに強固なのか。どうする。50体……、ほどか、どうする、俺一人で燃やすか。てか、ちまちまそんなことやってたら俺が感染するんじゃね?どうする。せめて大きな穴だけでも掘れれば。あーもう!ダイナマイトでも作っとけばよかった……。」


「すまない、こればかりは誰もやりたがらぬ、亜人もな。街に住んでるものはもう、ここの風習に染まっておるのでな。」


 がっくりとうなだれるチハルにサクシードは憐みの目を向けた。


「山のは?山の亜人は死体に対して恐怖はないのでは?」


「その山の亜人と戦っておるのだぞ?」


「……、ですよね。」


 チハルはこれ以上話しても埒が明かないと考え、そそくさと執務室を後にした。治療所に引き換えしながら、思案を巡らせた。


「山から降りてきて街に住み始めたばかりの亜人なら……、でも周りの目もあるし、その後生活しにくくなるだろうな。俺一人でやるとなると……、一人体重70kgで50体、穴掘って、火をかけて、埋めて……、だめだ、たぶん3-4日かかる。しかももっと増えるだろうし。死体だけ移動させて燃やせば……、ああ、もうひとりでやるしかねぇのか。」


「お悩みのようですな。」


 サクシードとの面会中は部屋の外で待っていた護衛官が、珍しいものでも見るようにチハルに話しかけてきた。


「護衛官、もし俺が死体を燃やして埋めるってなったら、手伝ってもらえるか?」


「!!……、いや、いやいやいや、それはちょっと……、呪われます。私だけならいいですが、我が一族が呪われてしまいます。ご勘弁を。」


「……、で、すよね。」


 迷信の根は深い様だ。


「山の亜人とか手伝ってくれねーかなぁ。」


「はっはっは、それは無理でしょう。明日には総攻撃で皆殺しにしてしまいますゆえ。」


「生き残りを使うとか無理だよね?」


「生き残るとしたら女子供でしょうな。」


「最悪、手が足りればそれでもいい。でも総攻撃、止められないかな。」


「いえ、それは無理でしょう。軍に明らかに敵対行動をとったものたちを許しておく道理はありません。」


「しかも俺が原因って言うし。」


「はっはっは、聞きましたぞ。悪神の系譜とされているそうですな。ウシ族と、それにタカ族とワニ族はそう信じておるとか。」


「まじで、昔の通門者さん、何やってくれてんだよ……。まぁ、ケモ耳を作りたかったって気持ちは分かる。分かるが、数千年後に神様になって、しかも悪神。それで、なんで俺が責められるんだよ。」


「はっはっは。」


「ん?」


「はっはっは。」


「神様?」


「っはっは?どうしました?」


「いや、結局さ、亜人らが俺のこと敵視して攻めてきたのも、まぁ迷信だよな?」


「いやぁ、どうでしょう。迷信といえば迷信でしょうが……。」


「山の亜人らにとって俺は神様の系譜ってこと?」


「はっは、そうなるのかもしれませんな。」


「言うこと聞かせられるんじゃね?」


「いやぁ、さすがに無理でしょう。」


「いや、試してみる価値あるぞ。おい、ちょっと、このまま軍のとこ行くぞ。タクトさんに通してもらう。」


「何をなさるおつもりで?」


「ウシ族の≪捕虜≫がいるんだろう?会わせてもらう。」


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