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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第三十五話

 

 第一章 第三十五話


 チハルは料理人たちに大型の蒸籠を持ってこさせ、その中に軍に用意してもらった衣服を突っ込んだ。15分ほど蒸してから、広げて天日干しにする。ちょうど天気もよく、服は20-30分ほどで乾いた。その間に大量の湯を沸かし、桶に入れて冷ましていく。


 新しい服を蒸して干す作業は侍女たち数人に任せた。作業する者たちの衣服の殺菌が終わったら、その後はけが人に着せる病衣の殺菌である。清潔な衣服はどれだけあっても足りない。


 それに並行して全作業員の体をさましたお湯と石鹸を使って清潔に洗わせた。爪も切りそろえて、溜まっている垢もブラシで掻き出させた。料理人たちの中で髪も伸び放題になっていたものは、本人の同意を取って短くさせ、女たちの神は後ろでひとくくりにした。亜人の看護師らの体毛には蚤が見つかったので、一度海に入って石鹸を使って全身をくまなく洗ってもらい、50度ほどの熱めのお湯を頭からかけて体毛から蚤を追い出した。


 作業する全員が洗浄を終え、清潔な衣服を来たのは昼過ぎになってからである。


 その後チハルは全員に徹底して消毒することの大切さ説いた。清潔な手で土に触るな、壁に触るな、患者に触った手で別の患者に触るな。


 もし触ったらすぐに焼酎で消毒。


 それを徹底的にやるだけで救われる命があることを、何度も何度も説いた。最初は半信半疑だった、特に料理人たちであったが、チハルの必死さに打たれてとにかく従うことにしたようだ。


 その後チハルは実際に治療にあたる道具の準備に入った。針や糸、ハサミなどの道具は煮沸消毒した後にアルコールにつけて消毒、シーツを適当な長さに切って包帯を作り、それも一度煮沸、天日干しにして乾燥させた。


 それに並行して幾人かの手の空いたものに、患者の選別を行わせた。まず倉庫にいる患者のうち全員をチハルが見て回り、生命活動のないものは戸板に乗せて外に出した。この作業は誰もが行うのを嫌がったので、チハルが倉庫街をうろついていたごろつきを一日分の食料で雇って二人で行った。死亡していたものの大部分は胸部を銃で撃たれた者たちであった。表に運び出した死体は倉庫の陰に隠し、カン護衛官に石灰をかけておくように指示した。気休めだが若干の腐敗を防止する効果がある。


 チハルは20体ほどの死体を運び出し終え、倉庫の陰で吐いた。顔面蒼白になりながら、倉庫に戻り、続いて患者を外傷の有る者と無い者にわけた。それぞれ別の区画に仕分けして寝か、侍女たちに命じて傷口のあるモノたちの傷口の清浄をさせた。沸騰させてから冷ましたお湯を使い、幹部とその周辺の砂粒や泥を徹底的に落とすよう指示した。傷口に衣服がかかるようならそれを切り破り、清潔な衣服に変えていく。


 裂傷のある者にはチハルの素人判断で適当な間隔で線を引いた紙を渡しておき、傷口が清潔なのを確認してからウォーに頼んでチハルの指示した間隔で傷を縫い合わせてもらった。ウォーは涙目になりながらも最初の一人の患者に30分ほどかけて数針を縫い、その後、吐いた。


 チハルはそんなウォーを責めず、慰めて休ませた。


 チハルはウォーが休んでいる間自分で患者の外傷を数針縫ってみたが、やはり上手くいかず、後ろから見ていたウォーに「やっぱり私がやります」と言われて、後を任せた。その後ウォーはものすごい勢いで患者の傷を縫っていき、傷を縫う間隔も、体の先端は密に、体幹部に近くなるほど広くて良い、ということをなんとなく身につけたようで、チハルの指示なしで患者の傷の処置ができるようになった。


 外傷の処置に合わせ、チハルは消毒済みの包帯を患者に巻いて行き、治療の終わったものを集めて数日は患部を絶対に動かさないこと、毎日沸騰させた清潔な水で患部を洗うこと、そして包帯を換えて、古いものは蒸してから再利用することを教えた。自分で歩けるものはスペース確保のため治療所の外に出てもらった。


 治療所には南タライバンの市民らも運び込まれており、ラックにフォーシュ語を通訳してもらい傷を負った経緯を訪ねた。傷の深さが深いものはウォーに指示して内部の主要な組織を"適当に"縫合してもらった。ため治療が効率的に行えた。治療を行っているとうわさを聞き付けた市民らが大挙して押し寄せてきたため、チハルは外で作業している料理人らに簡易の≪トリアージ≫の方法を教え、あくまで冷淡に対処するよう指示した。


 トリアージを始めてしばらくすると門外から怒号が聞こえるようになった。チハルは事情を察し、患者の血液を服に塗りつけて全身血まみれの状態で門の前に出ていき、大声で「自分で歩ける奴、大声が出せる奴は門の外にならんどけ!」と叫んだ。中で何が行われているのか察した軽傷の民衆は恐れおののき、しばらく治療所に近づくことはなかった。それでも治療所には続々と重症の患者が運ばれてきたが、その半数以上はチハルの手に余るもので、為すすべもなく死なせてしまうのだった。


 倉庫の外に積みあがっていく死体が最初の倍ほどになった頃、なぜかヒツジ族の亜人の女性らが治療を手伝いたいと志願してきた。


 チハルは彼女らにも体を清潔に洗わせて軽傷の患者の処置を任せた。チハルはウォーに指示して手先の器用なものを集めて、縫い方を教えるように言い、その他の侍女、料理人たちにも支持して無理やり休憩を取らせた。


 酷い外傷のあるけが人をあらかた処置し終えると、チハルはやっとボリー護衛官の側へ行き、骨折の治療を始めた。とはいえ折れた部位の方向を整え、添え木をし、石膏を浸した包帯を巻きつけて固定するだけである。最後にシーツを切り裂いた三角巾でボリー護衛官の首に腕を釣ると、10分ほどで治療が終わった。


「ごめんね。待たせちゃって。」


「い、いえ!こちらで見ていましたが、すさまじいものですな。チハルさまは商人であると聞いていましたが、まさか医術まで修めていらっしゃるとは……。」


「いや、あれで合ってるかどうかわからないよ。こういったらなんだけど、このあとたぶん、感染症でもっと死ぬ。今できたのはその確率を減らすことくらいだよ。あ、まだそれ、≪石膏≫固まってないから動かしたらダメ。」


「セッコーというのですか?この白いものは。もう動かせなくなってきました。」


「なんか薬に使うらしいんだけど、なんだっけ、こっちじゃシバサ石?だっけ?薬になるらしいけど、ちょっと処理すればそうやって固まる。サクシードさんに彫刻用にもらっておいたやつ。」


「あ、ああ、シバサですか?なるほど、あ、すこし熱くなってきましたが……、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫大丈夫、固まるときにちょっと発熱する。上手骨が繋がればいいんだけど。二月ほどそのまま動かさないで。」


「はい、分りました。」


「それ、固まったら悪いけど、いろいろ手伝ってもらっていい?」


「ハイ!もちろんです!」


 その後チハルは数人の骨折らしき患者の処置を同様に行い、一息ついた。そのまま倉庫の片隅で眠りこけてしまい、気づいたのは夕刻になってからである。誰もチハルを気遣い起こしにはこなかった。


 ぼんやりと目を開けると、治療所は騒然としていた。朝からウシ族らを追跡するために出発した軍の負傷者が運び込まれてきていたのだ。しかし治療にあたる人員も増えている。チハルは目を丸くした。


「何?え?なんで人が増えてんの?」


「ち、チハルさま!先ほどから軍の方がお待ちです。」


 侍女の一人がチハルが目を覚ましたのに気づき、側にやって来た


「ん?」


「おお、チハル殿、目覚められたか?すまぬが厄介なことになった。こちらでの治療は我々が引き継ぐので、すぐに広場の天幕まで来てほしい。」


 ずんぐりとした軍服の男がやってきてチハルに声をかけた。


「ん?なんで?どうした?」


「ここでは……、ひとまず天幕まで同行願います。」


「急ぐ?」


「いえ、しかしなるべくなら今すぐに。」


「分かった。ちょっと待って。」


 チハルは侍女たちを通じて作業している者たちに交代で休むよう指示し、サクシードに頼んで十分な食料を提供してもらえるよう伝言を頼んだ。侍女たちは軍の者たちにそれぞれの仕事を引き継がせ、早々に退出して休むよう指示したが、全員が「このままここで救助を続けます」と堅持したので、絶対にケガだけはしないように言いつけてその場を去った。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 チハルは案内の者に続いて広場脇の軍のテントに入った。すぐに軍参謀タクトが声をかけてきた。


「チハルさん、ちょっと面倒なことが。」


「あ、はい、なんでしょう?」


「ウシ族、タカ族、ワニ族らが共闘している理由が分かりました。今回市街を襲った理由も。」


「え?おお!どうでした?」


「非常に申し上げにくいのですが……。」


「?」


「チハルさん、あなたが原因です。」


「俺?」

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