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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第三十三話

 第一章 第三十三話


 チハルたちは軍議が行われているテント内へタクトに呼び戻された。


「なんですか?」


「報告です。侍女たちが見つかりました。現在軍の方で保護しています。」


「お!良かった!どこかに隠れてたんですか?」


「ええ、市内の屋内に逃げ隠れていたそうです。それでその、申し上げにくいのですが……。」


「ん?」


「見つけて保護したのはチハルさんの侍女4名と負傷した護衛官1名だけです。」


「?!」


「護衛官の報告によると空からいきなりタカ族が現れ、護衛官と侍女たち数人を連れ去ろうとしたそうです。護衛官は秘宝を守ろうと空中で反撃して落下、足を骨折しています。それで……、侍女2人が連れ去られ、更に秘宝を奪われました。護衛官は動けなくなったため近くの民家に残った侍女たちと籠城していたのを斥候が発見して連れ帰りました。現在治療中です。保護した侍女たちにはケガはありません。」


「分かりました。それでウシ族はその……、人の首を刎ねてました。タカ族にもそういう風習はありますか?」


「わかりません。が、ないとは言えません。」


「タカ族の集落の場所はわかっていますか?」


「はい。ですがここからかなり離れています。一日で行ける距離ではありません。おそらくウシ族と共に近くに潜伏していると考えられます。その場所は不明です。」


「捜索は……、明日になってからですよね?」


「そうです。残念ながら今すぐは動けません。」


「分かってます。……いえ、わかってます。」


「保護した侍女たちはひとまず王たちが逃げている倉庫へ。ケガをした護衛官は軍医の治療を受けています。チハルさんも倉庫へ向かってください。」


「はい。……あ、医者?ってことは病院があるんですか?」


「病院?というより治療所ですね。」


「では民の治療はだれが?」


「南タライバンの医師でしょう?」


「ん?」


「?」


「あ、いや、分りました。倉庫に行って侍女たちに会ってから僕はサクシードさんのとこに行きます。では、ご武運を。」


「はい。」


 チハルと護衛官はテントを離れて王たちが逃げてているという倉庫へ向かった。広場からそれほど離れていない空き倉庫をまるまる使っているらしく、周囲には煌々と松明の明かりが焚かれ、建物を囲むように警備の兵が配置されていた。幾人かの兵はチハルや護衛官と顔見知りで、逃げてきた侍女たちに会いたいと伝えるとすぐに彼女たちを呼んでくれた。門が開いて出てきた4名の侍女たちにはなぜかショーピンが付き添っている。


「チハルさま!スーちゃんとサンちゃんが連れていかれてしまいました!」


「私たちもう怖くて!言いつけを守れませんでした。申し訳ありません。」


「護衛の方もケガをされて!ご無事ですか?」


「チハルさま!よくぞ御無事で!」


 スーとサンは侍女の名前である。スーは大陸北部の出身で色白で目の青い侍女である。チハルよりも背が高く、無口だが編み物を趣味とする頭の良い娘であった。サンは王都出身の文官の娘であり、チハルにメルイーウ語を教えてくれていた。髪を少女のように短く切りそろえており、笑う時にはえくぼができる。連れ去られたのが二人だと聞いて、チハルは大いに当惑した。


「大丈夫だ。明日早くから捜索が行われるらしい。無事を祈ろう。」


「チハルはどうするのじゃ?」


「戦闘になったら俺にできることは少ない。というより戦場で俺ができることはない。サクシードさんのところに行くが、お前ら、ついてきてくれるか?あ、ショーピン。お前はここに居ろ。」


「む?わらわも行くぞ。」


「バカ、お前は"まだ"姫だ。ここで大人しくしてろ。」


「いやじゃ!チハルと行くのじゃ!」


「なりませぬ、姫、どうかご理解を。今は平時ではないのです。」


 カン護衛官がショーピンを諫めた。ショーピンはふてくされた顔をしたが、どうやらチハルの言うことを聞いてくれるようだ。


「すまん、たぶんお前にしかできないことがある。その時まで休んでろ。助けが欲しい時は遠慮なく呼ぶから。」


「む、わ、わかったのじゃ!で、では、だん…、チハル。ご無事で。」


「おう。行ってくる。」


 チハルは侍女たちを連れて倉庫を離れ、


「チハルさま、聞きましたよ。姫をお助けになったとか。それで、ご結婚の申し出をされたのですよね?」


「あ、ああ。姫に聞いたか?」


「ええ、それで私たちも変わらずかわいがってもらえと念を押されまして。さすが姫さま、懐の広いお方でいらっしゃいます。」


「あ、いや、まぁ、そう……だな。」


 チハルはショーピンと添い遂げた後は侍女らに暇を出そうかなどとも考えていたのだが、機先を制された形になってしまった。


「わーったわーった、もしそうなっても全員一緒だ。スーとサンもちゃんと助けるぞ!」


 チハルは覚悟を決め、サクシードの下へ戻った。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 チハルたちが倉庫に到着すると、すぐに執務室に通された。


「チハル殿、侍女たちが見つかったそうだな!」


「え?早いですね。さすが。ただ二人が連れ去れられてしまいました。」


「うむ、それも聞いておる。心中察するぞ。タカ族が現れたとか。厄介だ。」


「厄介?とは?」


「あ奴ら空を飛ぶのは知っておるか?長時間は無理であるが、成人すると2町(200メートル)ほど、しかも人一人くらいなら足でつかんで飛べるのだ。飛べぬものもおるがな。奴ら樹の上に集落をつくって暮らしておる。しかし基本的に人は襲わぬ者ぞ、なぜ攫って行ったのか皆目見当もつかぬ。」


「ええ、あと秘宝、イアイパッドも奪われました。まぁ、僕以外には使えないので壊されなければ問題ないでしょう。」


「今回の侵攻、いろいろと不明な点が多すぎる。何らかの理由あってのことだとは思うが……。ウシ族にタカ族、それにワニ族もいると聞いた。部族間で連合を取っておるとしたらメルイーウ軍だけでは少々荷が重いぞ。」


「どういうことでしょうか?」


「まず数、正確には分からんが、南タライバン周辺のウシ族だけで数百、それにタカ族とワニ族が合わさっているのなら千は超えるだろう。タカ族は飛べるし、ワニ族とウシ族は力が強い。そ奴らが山に籠ってしまうと、おそらく正規軍では追いきれん。地理も不明だしな。集落の一つや二つなら交易路もあるし、入っては行ける。そのくらいはつぶせるだろうが、更に山の奥に入られると手出しができなくなる。」


「その……、山の亜人って基本的に部族間で敵対してますよね?なんで共闘してるんでしょう?」


「それよ。そこが全く分からんのだ。あいつらは基本的にお互いに首を刈りあうような仲よ。手を組むなど考えられん。商会の亜人たちにも聞いてみたが、やはりありえないと言っていた。そこが分からん。」


「うーん。人を攫ったというのは?よくあることですか?」


「それは時々ある。大概は子供だが……。」


「攫われた人たちはどうなるんです?」


「……たしか……、言いにくいことだが。」


「いえ、構いません。」


「何らかの儀式に使われた後、殺されて喰われる、らしい。」


「!」


「しかしすぐにではない。部族ごとに決められた日があって、それが重視されるらしい。」


「その辺りに詳しい亜人の職員はいますか?」


「居る、が、メルイーウ語は話せん。フォーシュ語でしか会話ができんぞ。」


「あー、んー。では、結構です。」


「あ、チハルさま!私、フォーシュ出身です。」


 同室していた侍女の一人が小さく手を挙げた。逃げ延びた四人のうちの一人で、南国風の浅黒い肌を持ち、運動神経抜群の船乗りの娘ラックである。


「え?ラックちゃん、まじ?」


「はい、小さいころ王都に行ってから、ほとんど使ってないので、だいぶ忘れてますけど。」


「サクシードさん、その亜人の職員少し借りても?」


「おお、良いぞ。オイ、ヤックジャンを呼べ。」


 サクシードは部下に命じて亜人の職員を呼んだ。サクシードの説明によるともともとは山で暮らしていたそうだが、南タライバンに長年住んでいる親戚を頼って南タライバンに降りてきのだたそうで、山の亜人の習慣や風習に詳しいらしい。現在は港で荷卸しの仕事をしているらしい。しばらくするとイヌ族の亜人の青年が現れた。程よく筋肉のついたイケメンで、頭頂部の耳と尻尾がなければ人間とほとんど区別がつかない。


「あ、サクシードさん、どっか空いてる机有ります?」


「では、二階を使うといい。」


「じゃ、移動します。リュック、頼む。他のみんなは……、あ、そうだ、護衛官と一緒に工房に行って何か食べ物と飲み物持ってきてくれない?冷蔵庫に入ってるし、分かる?カンさん、付き添い頼む。」


「分かりました。」


 チハルは呼び出されたヤックジャンと呼ばれる亜人の男と、フォーシュ語を話せるという侍女ラックと共にサクシードの執務室の二階へ向かった。がらんとした室内には中央に机が置かれ、壁際の棚には工具や文具が、部屋の隅には仮眠用なのか簡易なベッドがおかれている。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 チハルはラックの通訳を挟んでヤックジャンからタカ族とウシ族について聞いていた。大体においては先ほどサクシードに聞いたものと同じだったが、一部サクシードの記憶違いか異なる部分もあった。


「それじゃ、タカ族は人は食わない?」


「はい、攫うのは子供を作るためです。彼らの間では人との子はたとえ飛べなくても部族の上位に置かれます。」


「飛べないと木の上で生活できないんじゃない?」


「てことは、すぐに殺されることはないか。むしろ丁重に扱われるかな。女だし。」


「おそらくは。」


「じゃ、サクシードさんの覚え違いか。では人を喰うのは、ワニ族だけ?」


「はい、彼らは食料として他民族を刈ります。ですが、通常は祭祀の時に飼っている豚を食べるくらいですね。日常では野菜も食べます。」


「で、ウシ族は?」


「彼らは基本的に木の実や栽培した作物しか食べません。肉を食べるのはやはり祭祀の時くらいです。」


「うーん、しかも基本的に彼らは仲が悪い。」



「はい、基本的に他部族とは交わりません。山で狩りをしているときなどに出会うと……、まず戦闘になります。首の取り合いですね。」


「それで部族間で戦争になったりしないの?」


「首を刈るのはその時だけで終わりですね。刈られた方が悪くて、復讐したりはしません。その場で終わりです。」


「んー。よく理解できんけど、結局その首ってどうするの?」


「神様になります。」


「へ?」


「取った首は神様として部族で祀ります。これはどの部族も同じですね。他民族の首は神様として大切にします。毎月供物をささげて、儀式を行います。」


「お、うーむ、変なの。まあ、宗教だしな。」


「では、なぜ彼らが共闘している?」


「分かりません。他部族の風習については詳しくはありませんが、普通では考えられないことです。」


「なんだろう、じゃあ、そこがキーポイントか。あ、そうそう、ウシ族の若者が首刈ってたんだけどさ、あれは何?神様が足りなくなったとか?」


「ああ、それはおそらく成人の儀式でしょう。」


「ああ、なるほど。二人……、やっちまった。ま、しゃあねーか。緊急事態だし。あ、三人か。きれいに決まったわー背負い投げ。サクシードさんに数珠でも作ってもらうか。あ、ごめん、こっちの話。」


「?」


「そういや、亜人って手は使えるんだよね?ラック、二人はどうやって攫われた?足で掴まれたって言ってたけど?」


「あ、はい。こう、肩を両足でグイッと掴まれて、そのまま飛び去って行きました。」


「うーん、そうとう力が強いってことだな。羽は?手に生えてんの?」


「はい、タカ族は背中からこう、脇、指まで、羽があります。他の亜人より手が長いのです。それでこう、羽ばたいてしばらく飛べるものもいます。全員ではないですね。半数ほどです。」


 ヤックジャンが身振り手振りを交えて説明した。


「んー。それじゃ普通の移動は歩きってこと?」


「そうですね。飛ぶのは相当疲れると聞いたことがあります。」


「じゃ、どっかに隠れてて奇襲に使ったってことか。あ、他にどのくらいの人が攫われたんだろ。分かる?」


「いや、そこまでは。」


「あ、じゃ、近くの集落の場所は分かる?」


「いえ、それも。というより、近くにタカ族もワニ族もウシ族も集落はありません。イヌ族とヒツジ族の集落はありますが、彼らはほとんど人を襲いません。」


「"ほとんど"ってのが怖いな。」


「周辺の部族は人とも交易がありますので。襲うことはありませんが、別の地域の者ならイヌ族でもヒツジ族でも人を襲うこともあると思います。」


「ここに住んでる亜人同士は仲は悪くないんだよね?」


「はい、その……、私も最初は敵視していましたが、一緒に仕事をしていると慣れました。今ではヒツジ族の友人もいます。」


「てことは子供の頃そういう風に教育されるってことか?自分の部族以外は敵、みたいな。」


「そうですね。」


「じゃ、それを超えるものがあれば、やっぱり共闘してもおかしくないわけか。」


「しかしよほどのことがなければ、ありえません。」


「んー、ま、今んとここんなもんか。えーリュックベック?だっけ?リュックバック?」


「?」


「君の名前。」


「あ、ああ、ヤックジャンです。」


「ごめん!ヤックジャン君。ありがとう。」


 チハルたちが階下へ降りると、ちょうど侍女たちが工房から食料を持って帰って来た。


「サクシードさん、新作です。ヤックジャン君も、飲んでから帰りな。」


「何だ?」


「≪ソーダ≫です。ま、飲んでみたほうが早い。」


 チハルは勝手知ったるサクシードの執務室の棚からいくつかグラスを取り、瓶に入ったソーダを注いだ。ただの炭酸水ではなく果汁と砂糖で味をつけてある。チハルが工房に出入りする度に作り置きしていたもので、時折持ち帰って侍女たちにもふるまっていたものだ。


「ほう、なんだこれは初めて飲む味だ。害はないのか?」


「ないです、安心してください。ほら。」


 チハルは冷えたソーダをぐいと飲みほし、再度自分のグラスに注いだ。ヤックジャンは目を丸くしてその味に驚いている。チハルは労いに侍女たちが持ってきた燻製肉一塊をヤックジャンに渡して退室させた。


「んー、疲れた。サクシードさん、タカ族は人を喰わないらしいですよ。」


「ん?お、おお、そうだったか?すまんな、勘違いだったか、心配させた。」


「ええ、それで、今日はもうやれることがないんで、侍女たちと工房で休みます。明日は軍に動きがあるでしょうから、僕はそっちに行きますね。」


「うむ。そっちの者は護衛であったな?一人で大丈夫か?」


「はい。さすがにこの辺は大丈夫でしょう。では、何かあったら工房まで。」


「分かった。」


 その後チハルは工房に戻り、職人たちの仮眠室から清潔な布団とシーツを引っ張り出し、工房奥の長椅子や床に寝転んだ。目を閉じると恐怖がよみがえるという侍女たちをなだめるのに苦労したが、焼酎を割ったソーダ水を飲ませると彼女たちはすぐに眠りについた。チハルは侍女たち全員の寝顔を確認してから、横になった。


 カン護衛官は入り口で見張りをすると言ってきかなかったので、軽食をとらせた後、鍵をもたせて門の前に立たせてある。日が昇ったら起こしに来てもらう手はずだ。ケガをしたというもう一人の護衛にも会いに行かなければならない。


「スー、サン、生きてろよ……。」


 チハルは横になるとすぐに眠りに落ちた。その日…、見たのはチハルがウシ族に八つ裂きにされるという悪夢であった。

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