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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第三十二話

ちょっと短めです。

 

 第一章 第三十二話


 チハルたちは倉庫街の一角にある工房へ向かった。港の倉庫街は薄暗く、人気もないが要所要所に兵が立っており、治安は保たれている。チハルは工房の入り口に近づき、門を軽く押した。


「あれ?鍵がかかってる。」


「どうしました?」


「いや、侍女たちが来てるなら開いてると思うんだけど。一応中確認するから、ここで見張ってて。」


「っは!」


 チハルは懐から鍵を取り出し、門の南京錠を外して工房に入った。


「誰かいるか?チハルだ!誰かいたら音を出せ。」


 薄暗い工房内はがらんとして何の返答もない。


「やっぱサクシードさんのとこか。いちおう奥も確認しよう。」


 チハルは奥の部屋へ向かい、カギを開けて地下室の扉を踏みつけて音を立てた。


「チハルだ!誰かいるか?」


 やはり返答はない。


「やっぱ無人か。」


 その後チハルは工房内の棚からいくつか役に立ちそうな道具を取り出して懐に入れ、護衛官の待つ入り口に戻った。


「どうでしたか?」


「やっぱサクシードさんのとこだ。ここは誰もいない。あ、それと護衛官、いまさらだけど名前教えて。」


「っは、光栄です。カンジエーと申します。」


「お、ちょっと覚えにくいな。カンでいい?」


「はい、好きにお呼び下さい。」


「じゃ、カンさん、サクシードさんのとこに行こう。」


「分かりました。」


 チハルは倉庫街の一角にあるサクシードの執務室へ向かった。サクシードは港の倉庫を一部改装した執務室に常駐しており、睡眠もそこでとっている。元々の本部である現在の仮王宮の不便だった点をさりげなく改善して作り直したのだと、チハルは執務室を訪ねたときに聞かされたことがあった。


 執務室のある倉庫の入り口に近づくと、入り口からは煌々と明かりが漏れ、中で人が忙しく動き回っているのが見えた。入り口には門衛が立っており、出入りする者に目を光らせている。


「こんにちは!サクシードさんいますか?チハルが来たって伝えてください。」


 チハルが門衛にそう告げると、門衛が倉庫中の者にそれを伝えるより早く、チハルを見知った商会のものがチハルたちに気づき執務室に案内してくれた。


「おお!チハル殿、無事であったか。」


「ええ、おかげさまで。」


「まさか亜人どもが攻めてくるとはな。しかも今回は規模が大きい。王都の兵がおらねば制圧に難儀するところだ。」


「あー、えーっと、それで僕の侍女たちがここに逃げてきてませんか?サクシードさんも会ったことがあると思うんですが。それと護衛の者が一人。」


「ん?来ておらぬぞ。倉庫の中におらぬか?」


「会ってませんか?サクシードさんを頼るように伝えてあったんですが。」


「あー、ここに来ておるなら倉庫の方に匿っておらぬか?職員たちも多数逃げてきておるのでな。おるならそちらだろう。案内させる。確かめてくるとよかろう。」


「分かりました。では!」


「うむ、気を付けるのだぞ。」


 チハルと護衛官は執務室を出て職員の案内で職員たちが逃げてきているという倉庫の一角へ向かった。護衛官と手分けして倉庫内の人を確認してみたが、侍女たちはそこでも見つからなかった。


「見つかりませんね。」


「まさか、まだ着いてないってことはないよな?」


「ええ、我々よりかなり早く出ましたから。さすがに着いていると思います。護衛もいますし、道に迷うということもないでしょう。」


「戦闘に巻き込まれたか?」


「いえ、戦闘地域からはだいぶ離れてましたが。」


「だよな?うーん……。よし、一度広場に戻ろう。こういう時は誰に報告すればいいんだ?」


「え、あ、その……、軍属なら直属の上官です。が、侍女たちはチハルさまの所有なので、チハルさまになります。」


「え?あ、俺か?ああ、そう?じゃ、俺の上官ってだれだ?」


「え、いや、それは……。王?でしょうか。」


「あ、え?王様?あー、いや、そりゃ報告していいのかな?」


「すみません、私には判断いたしかねます。」


「とりあえず広場に戻ろう。」


 チハルたちは倉庫街を戻り、軍の編成が進む先ほどの広場に戻った。チハルがショーピンたちとここで分かれて数十分といったところだったが軍の編成は明らかに先ほどよりも進んでおり、伝令の声があちこちで響き渡っている。先ほどよりもかがり火の数が増え、明かるさも増していた。チハルが映画やテレビの時代劇で見た合戦前の雰囲気そのままだった。


 チハルたちは近くの兵に軍参謀タクトの居場所を聞き、軍議が行われているという広場脇のテントに向かった。


 テントの入り口に立っていた二人の門衛が槍を交差してチハルたちを足止めしたが、王宮の門番として働いていた者たちらしくチハルの顔を覚えており、タクトに用事があることを伝えるとすぐに中に通してもらえた。


 テントに入るとメルイーウ軍の高官らが集合しており、一斉にチハルの顔を見た。


「おお、チハル殿!ご無事であったか。姫さまを助けて戦闘を行ったということだが、ご無事で何より。」


 南方軍統括のミンチがチハルに声をかけた。


「ええ、いえいえ、まぁ、その、成り行きですよ。」


「いや、姫様を助けていただいたこと、まことに感謝する。報告によると不思議な技も使ったそうだな。落ち着いたら聞かせてほしい。」


「あ、まぁ、ソウデスね。それより、僕の侍女たちが、あと護衛の者が一人、行方不明ですが、誰か見かけていませんか?」


「それについてなのですが。」


 テントの奥で南タライバン市街の地図を眺めていたタクトが返答した。


「ウシ族以外の亜人がウシ族に協力している可能性があります。」


「ん?どういうことですか?」


「はっきりした目撃情報ではないですが、タカ族、それとワニ族が人を攫って行ったという報告があります。どちらも山に住む蕃亜人ですが、どうやらウシ族と共闘しているようです。」


「タカ族?って、あの、タカ?」


 チハルが鳥の真似をして確認した。


「ええ、そのタカです。成人は短距離でしたらかなり重いものを持って飛行ができるそうです。それが人や物を空から攫って行ったという報告があります。」


「侍女は6人、護衛を入れると7人ですよ?まさかそれが攫われたっていうんですか?」


「いえ、まだ未確認情報です。今斥候を放っているので、すぐに市内の様子はすぐに明らかになると思います。」


「わ、っかりました。何か手伝えることは?」


「今のところありません。」


「……。うし、すみません。時間を取らせました。もし見つかったら教えてください。広場の近くにいます。」


「分かりました。」


「それでは、みなさんも。ご無事で。」


 チハルはテントを出る前に振り返り、深く一礼して退出した。


「うむ。カンジエもチハル殿を死ぬ気で守れよ。」


「っは、分りました!」


 カン護衛官と顔見知りなのかミンチがチハルたちの去り際に声をかけた。チハルたちがテントを出て門衛の脇を過ぎるとほぼ同時にテントに斥候の一人が飛び込んで行った。早口で何かを報告しているのがチハルの背中で聞こえた。チハルは足を止めて中の音にぼんやりと耳を傾けてみたが、何を言っているのかは聞き取れない。斥候の報告が終わるとテントの中がざわめき、タクトの大声が入り口を出てすぐの場所にいたチハルに向かって響いた。


「チハルさん、今すぐ戻って!報告があります!」


実はこの辺りを書いていたときに2万字ほど書き溜めたデータが飛んでしまい、心が折れそうになりましたw。

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