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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第三十一話

 第一章 第三十一話


 チハルたちは路地を、時に建物の中を通りながら慎重に港に向かって進んでいた。ある民家の脇を抜けるときに重さといい長さといい手ごろな棒があったので、チハルと護衛官以外のものに装備させている。時折棒が何かにぶつかって音が出てしまうが、そのくらいは攻撃力のアップと引き換えである。


 建物のドアをけ破る音や発砲音なおからなるべく遠ざかるように港への道をこそこそと進んでいく。


 チハルたちはそのまま路地を進み、行程の半分ほどを進んだ。そろそろメルイーウ軍の兵士による反撃があってもおかしくないが、今は敵の勢力圏を抜けるのが先だ。


 チハルが固めた拳を顔の横に出し"停止"の合図を出した。一度振り返って全員の顔を見ながら唇に手を当てる。全員を壁際に待機させ、指さして後方の護衛官を呼びジェスチャーで耳を澄ませるよう指示した。


 チハルたちは大通りから数本離れた路地を進んでいたが、大通りの物音ははっきりと聞こえる。大通りからは亜人らのものと思われる声が聞こえてくる。チハルたちが足を止めて耳を澄ませたのは前方の建物の中から人の話し声が聞こえたからだ。


「xxxxx。」


「……yyyyyyyy。」


「zzzzzzzz!」


 チハルは護衛官に耳を澄ませて会話らしきものを聞いてもらったが、どうやらメルイーウ語ではないタライバン島固有の言語であるらしい。彼にも聞き取れないようだ。タライバン島の住民ならフォーシュ語、亜人なら亜人語を話しているはずだが、小声であることもありチハルたちには区別がつかない。


 チハルは建物を無視してこのまま進もうと判断し、全員に向き直ってハンドシグナルを送ろうとしたその時、建物内でガチャンという何かが割れる音と砂袋を床に落としたようなドスンという低い音、そしてその直後に女性のキャー―――という悲鳴が聞こえた。


 全員が何事かと建物の方を振り返ると、女性の悲鳴が途中で断ち切られるように途絶え、その後またドスンという低い音が響いた。その数秒後。


「「「ウラーーーーーー!!!」」」


 複数の男性の声で雄たけびのようなものが建物から聞こえた。チハルの全身に鳥肌が立った。侍女が恐怖で失禁したが、そんなことを気にしている状況ではない。ハンドサインで全員に"急いで移動"の指示を出し、チハルたちは踵を返して今来た道を少し戻った。


 大通りからは相変わらず銃声と悲鳴が聞こえている。ここにきてチハルは改めて自分が戦場のど真ん中にいることを実感した。


 先頭のチハルが角を曲がり"悲鳴の途絶えた"建物から視線を切った瞬間、ドカンと建物のドアがけ破られて中から三人の亜人、ウシ族の男たちが現れた。


 現れた三人はまだ若く、痩せこけてはいたが、180cmを超える身長があり、タライバン島にいる平均的な男性の二倍ほどの体格がある。頭部には立派な二本の角が生えている。出てきた三人は片手に鉈のような大型のナイフを持ち、その内二人は片手に人の首を持っていた。中で先ほどまで悲鳴を上げていた二人の人の首だ。


 先頭のチハルは角を曲がり切っていたが、後続の誰かが三人の視界に入ったのだろう。亜人たちが声を上げ、チハルたちに向かってきた。


「ッヒィ!」


 侍女が悲鳴を上げ、チハルの背中にぶつかった。亜人たちとチハルたちの距離は20歩ほど、すぐに追いつかれてしまい距離だ。チハルは小さく、鋭い声で「走れ!」と全員に伝えた。チハルが全力で走ればここから港まで5分とかからない。そうすると全員の足並みがそろわないため、どうすればいいかチハルが選択を迷っているうちに、護衛官がずいと角から出て亜人らに向き直った。チハルたちには視線でこの場から逃げるよう促し、剣を抜いて構えた。


 亜人たちが向かってくる足を止め、護衛官と対峙した。亜人たち三人は一言二言会話し、まだ首を持っていない一人を前、首を持った二人がその少し後ろという陣形になり、全員が剣を抜いた。すぐに仲間を呼ばないのは亜人が見かけた人数がチハルたちの後続だけ2-3人だけであり、それも逃げ遅れた一般市民だと思っているからだ。自分たちだけで対処できると考えているのだろうが、歩み出た護衛官が剣を持っていること、手練れであることが分かればすぐに仲間を呼ばれるはずだ。


 三対一。


 きちんと剣の訓練を積んでいる護衛官にとっても難しい状況である。よく見れば先頭の亜人はまだ若い少年で、足もかすかに震えているの。しかし、その眼はやる気満々である。


 亜人らの死角になるよう建物の角に隠れたチハルはその場から足を踏み出せないでいた。数歩先には剣を構えた護衛官、建物の陰に隠れるようにしてすぐそばにショーピン、侍女、料理長と料理人。


 チハルは意を決した。


「ショーピン、戻ったら結婚するぞ!」


「は?」


 チハルはショーピンを抱き寄せて耳元でそうささやき、数秒口づけして、そのまま全速力で走りだした。あっけにとられるショーピンたちを尻目に足音だけを残したチハルは、角を曲がり全員の視界から姿を姿を消した。


「?」


「……?」


「???」


「お?」


 ショーピンとその他が一瞬呆気にとられた後、お互いに顔を見合わせた。


「ま、まさか……?」


「い、え?」


「……。」


「どうする?」


「「逃げた?」」


 置いてけぼりにされた四人が状況を理解することができないでいる間に戦闘が始まった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「vvvvvvvv。」


 後続の亜人の片方が護衛官に向けて何か言葉を発した。


 角を指さし、その指を立てて、それを強調する。その動きの間も何かを話しかけていたが、護衛官には何を言っているのか分からない。


 更に先頭の亜人を指さし、自分の持っている首を見せて再び戦闘の亜人を指さした。護衛官に何かを伝えようとしているようだ。


 何を言おうとしているのか護衛官にはさっぱりである。


 隣の亜人が先ほどまで護衛官に話しかけていた亜人に何か言った。護衛官に話しかけていた亜人は肩をすくめ、先頭の亜人に何かを伝え、先頭の亜人が一歩前に出た。やる気だ。


 護衛官が切っ先を軽く動かして先頭の亜人を牽制した。ピクリと先頭の亜人が戸惑った瞬間に攻撃を加えようとしたが、その時後ろの二人が護衛官ににじり寄った。護衛官は動けない。


 そのまま数秒、膠着状況に陥るかと思われたその時、シュルシュルという一瞬の風きり音がした直後に護衛官の後方の壁で、カランという軽い音がした。小石が転がって地面に落ちる。


 全員がその音に注意を向けた直後、亜人たちの後方から何者かの足音がした。剣を片手に全速力で亜人に近づいてきたそれは、その勢いのまま後方の亜人、その片方の背中からバットをフルスイングするような動きで横薙ぎに切りかかった。バシンという鈍い音と、ぐぅという亜人の声がした。


 残り二人の亜人がそちらに振り返った。


 何者かは剣を振りかぶり、後方のもう片方の亜人の首筋から袈裟切りに剣を振り抜いた。バキンという骨が砕ける音が聞こえた。何者かが手に持っていた剣は亜人の胸元まで食い込んだ。柄を力強く握りしめていたためか、途中で剣が骨に食われて止まり、何者かの手から剣が離れた。


 その隙を逃さず護衛官が先頭の亜人との間合いを詰め、顔の中央と喉を突いて仕留めた。


「っ……、ふぁ、はぁー。」


 現れた男は大きく息を吐いた。先ほど全力疾走でショーピンたちの目の前から姿を消したチハルである。


「ご、護衛官、ナイス!止め、よろしく。」


「チ、チハルさま!」


 亜人たちの後方から現れたチハルの顔を見て護衛官が驚いた。


「よし、逃げよう。」


 状況を確認するため角からショーピンが首を出したのと同時に、チハルが角を曲がって現れた。


「え?ん?」


 ショーピンは数十秒前にチハルが消えた方向と、今チハルが現れた方向を互いに見た。いちおう、状況は理解できたようだ。


 チハルはショーピンたちをこの場に置き去りにし、建物をぐるりと回って亜人たちの後ろに回り込み奇襲を仕掛けたのだ。最初に投げた石は、亜人の頭部を狙ったもので、あわよくばそれで一名でも気絶させられればと狙ったものである。15メートルほど後方から石を投げた直後に全力疾走し、後方二人の亜人らを仕留めたのだ。


 チハルが反対方向から現れたことに全員が驚いたが、チハルは口に指をあてて声を出さないよう示し、手早く全員を集めて再び移動を開始した。


 そのまま500メートルほど進むと潮の香りがし始めた。少し先からは聞きなれたメルイーウ語の怒声も聞き取れる。どうやら敵の勢力圏内は無事抜けたようだ。


 チハルたちは念のため大通りを避けて海沿いまで移動し、海岸線沿いに港に入った。念のためショーピンの顔にはチハルの上着を巻き身元が分からないようにしてある。


「抜けたようですね。」


 護衛官が安堵の声を上げた。


「よし、ひとまずは……、安心かな。これからどうしよう?王宮の人たちと合流する?か、サクシードさんを探す?」


「軍と合流するのが良いと思います。」


「そうだな。ひとまず姫たちを預けてから、俺はサクシードさんを探すよ。俺の侍女たちも探さないと。無事だといいけど。」


 港は市内から逃げてきた人たちでもみくちゃだった。市内に住んでいた亜人と人が言い争っているのも聞こえる。


 チハルと護衛官はメルイーウ軍の兵士を探し出し、合流場所という港にある公園に向かった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「チハル殿!無事でしたか!」


 チハルの顔を見つけた軍参謀タクトが遠くから声をかけてきた。


「タクトさん!」


「?護衛官?料理長?どういう状況なのだ?」


「っは!実は……。」


 護衛官がチハルたちの状況を簡潔に説明し、タクトが目を丸くして驚いた。


「……、で、では、その……。」


 タクトがチハルたちの連れの一人を見た。顔に巻いていた布を取ると……。


「ひ、姫!よくぞ御無事で!」


「チハルに助けてもらったわい!ああ、あと、わらわたち結婚することになったぞ。」


「はぃ、い?」


 ショーピンとタクトがチハルの顔を見た。


「あ、そういうことです。それと、僕の侍女たち知りませんか?」


「……。」


「あの?」


「いやいやいやいや、チハル殿?」


「僕の侍女たちは?」


「い、いや、見ておらぬが……。」


「ではサクシードさんは?」


「う、うむ、彼ならば商会の倉庫に。武器を手配しているはずだ。」


「じゃ、僕はそこに行きます。えっと、護衛官、ごめん、もうちょっと付き合って。」


「はい、分りました。」


「じゃ、姫は任せました!また後で来ます。」


「うむ、チハル、また後で会おうぞ!」


「ちゃんと説明しろよ。」


「わかったのじゃ!気を付けてな。だ、だん、な様。」


「ん?あ、ああ、わーった。」


 チハルは護衛官を連れてサクシードのいるという倉庫街に向かった。


 チハルたちが立ち去った後に残されたショーピンと侍女、料理長と料理人、そしてタクト。


「姫……、それと料理長……。何があったのだ?」


「そ、その……。」


「姫様に料理を教えてくれと頼まれまして、厨房におったのです。その……、厨房は王宮の奥にあり、逃げるのが遅れました。」


「姫様?な、何ゆえ料理など!?」


「そ、その……、そう、異国の料理を食べてみたくての。」


「姫さま、嘘はいけませぬ。チハルさまにふるまうためにお料理を学びたいということでしたでしょう。」


 ショーピンより少し年上の侍女がタクトに告げた。


「?!」


「な、いや、そうじゃ!おぬし服を着替えねばならぬな。料理長、説明は任せた!行くぞ。お主の腰布の替えじゃ!こい!」


 侍女が顔を赤らめて内またでショーピンを追った。


 タクトが料理長の顔を見た。気まずそうにする料理長に側に立っていた料理人が近寄って耳打ちした。


「あの、おいらが代わりに説明しましょうか?」


「頼めるか?私はもう疲れた。」


「わ、かりました。その……、全部言っちゃってもいいですよね?」


「よい。この際全部、見たこと聞いたこと起こったこと全部言ってしまえ。」


 その後料理人からことの一部始終、あらましを聞いたタクトは柄にもなく一瞬取り乱した。しかしすぐに冷静になり、料理人と料理長に炊き出しの倉庫へ向かわせた。


「さて、今はそれより反撃ですね。斥候の訓練を受けているものを集めよ!」


ウシ族亜人たちが護衛官に話しかけた内容


「あのー、すんません、強そうな人。こいつだけ首刈ってないんで、あそこの陰に隠れてる人、一人だけ出してもらっていいっすか?いるでしょ?弱そうな人。いない?もうあと一つだけ首取ったら僕たち帰るんで。」


……。


「ほら、やっぱ伝わってねーよ。もうやるしかねーって。三人で倒して最後にこいつに止めささせりゃいいだろ。ほら、やるぞ。」


「しゃーねぇな。タラガ(前方の亜人の名前)、ほら、行け。練習通りやりゃ一発だって。」


「うっし、やってやるぞ!」


シュルシュル……、コツン!


「ん?」


こんな感じです。ウシ族の亜人の首狩りは成人式のような意味があるようです。

なぜ町を襲ったのか、人の首を刈るのかについては数話後に明らかになります。

お楽しみに。

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