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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第二十六話

 

 第一章 第二十六話


「チハル。」


「よし。決めたぞ。」


「俺の講義聞いたよな?」


「うん?もちろんじゃ?」


「講義の最後はな、結局人によって様々な"正しいこと"があるし、それでもいいってことを教えるつもりなんだ。」


「ほう?」


「俺の元いた世界の正義は、この世界にはたぶんない。でも、俺は俺が正しいと思うことをしようと思う。」


「で、ではどうする?」


 状況についていこうと必死に頭を回すショーピンが少しどもりながら聞いた。


「戦闘を止める。」


「は?それは無理じゃろう?後二か月ほどで大軍が攻めてくるのじゃぞ?まずどうしようもないわい。策はあるのか?」


「ない。今から考える。」


「ほれ見ろ、無理じゃ。」


「じゃあ、死ぬか?」


「!?」


「じゃあさっき言った通り死ねよ。大軍が来たら王族のお前はたぶん……、死ぬぞ。たぶんな。」


「い、嫌じゃ!」


 ショーピンの目に涙が浮かんだ。


「だろ?じゃあ、生きようぜ。できたら俺と楽しくゲームでもしながら。」


「げぇむ?」


「さっきみたいな遊びだ。イアイパッドにはそれが数百入ってる。」


「む。」


「誰だって死ぬのは嫌だ。殺されるのはもっと嫌だ。俺は殺すのも嫌だし、そういう状況に慣れてしまうのも嫌だ。だからそうならない方法を探す。探したうえでダメなら逃げる。逃げて生きる。俺にとっての正しいことってのはそういうことなんだと思う。」


「んー。」


「チハル。」


 ショーピンが立ち上がってチハルの前に向かい合った。


「礼を言う。」


「逆だ、俺の方こそ礼を言う。」


「チハル、そなたの国の言葉で礼を言う時はなんという?」


「"アリガトウ"だ。」


「アリガトウ。良い響きじゃ。」


「だな。あ、そのままそこに立ってろ。」


 チハルはイアイパッドを手にし、カメラアプリを立ち上げた。チハルはいくつかパネルを操作すると背面のカメラをショーピンに向け、シャッターボタンを押した。カシャ!という軽い音が響き、ショーピンが固まる。


「な?何をしたのじゃ?!」


「写真だよ。そのうちカメラでも作るか。っと、もう一枚。」


 チハルは再びパネルを操作し、今度は前面のレンズモードにする。


「な!なんじゃコレハ!わらわが映っておる!鏡か?鏡になるのか?」


「ハズレ―。」


 チハルはショーピンの横に立ち、空いた手を肩に回した。ぐいとショーピンの体を引き寄せ、その頬に口づけをしたその瞬間。


「カシャ!」


 再び軽快なシャッター音が響き、何が起こったのかわからないショーピンが頬を撫でている。


「おし、撮影終了。」


「なー!今何をした!?わらわの顔、頬に!?く、口づけをしたな?!いや、違う、それではない、いや、それもじゃが、今の音は?鏡の絵が止まっておる?!なんなのじゃ?!何かの術か?未来の技なのか?なんで止まっておる?」


「≪カメラ≫って言ってな、ま、記念だな。後でスケッチしてやるよ。」


「分からぬのじゃー!説明せよ。」


「あ、原理は俺にも分からん。とにかく!」


 チハルは最後の部分に力を込めた。


「俺が守ってやる!方法は……、分からん。だけど安心しろ。絶対に守る!」


「チハル……。」


 ショーピンが赤ら顔の上目遣いでチハルを見た。完全に女の顔である。


「よし、今日は帰れ。」


「へ?」


「今からその方法を探す、忙しいから帰れ。」


「は?」


「いや、居てもいいが、もう遅いし、護衛も待ってるだろう?帰れ。」


「ぐ、わかった。帰ってやるのじゃ。せ、せいぜい良い方法を探すがよい。」


「おう、安心しろ!絶対に見つけてやる!」


「ま、また来てもよいか?」


「ん?いつでもいいぞ。ただし暗くなる前に帰れよ。そうじゃなきゃ、泊まってけ。その時は着替え持って来いよ。」


「で、では、またな。」


「おう。気を付けて帰れよ!」


「また来る!」


 ショーピンが扉を出ると、チハルは侍女たちを呼び戻した。部屋に戻ってから侍女たちはニヤニヤしながらチハルの顔を見た。つたないメルイーウ語で状況を説明したが、侍女たちのニヤニヤは止まらない。チハルはすっかり忘れていたが、もともと侍女たちの部屋はイ神官やその他のものがチハルの監視用に作ったものである。チハルの部屋の音が丸聞こえだったのだ。


「チハルさま―。私も守ってくださいます?」


「姫ばかりずるーい、私も守ってほしいですことよー!」


「き、聞こえていたのか?!」


「守ってー!」


「……。」


 恥ずかしさのあまりうつむいたチハルを、侍女たちが囲んではやし立てた。


「ええい!分かった、元からそのつもりだ。お前たちも、守る!」


「「「キャー!チハルさま―!」」」


 侍女たちがチハルに全方向から抱き着いた。チハルはそれぞれを抱き寄せながらもう一度決意の言葉を口にした。


「そうさ、守ってやるさ。」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 その日、チハルは遅くまで信長の衝動のシミュレーションを回していた。人質を使えないように設定をロックし、その中で5年以上生き残れる外交や内政の方法を探すためだ。しかし何度やっても二年から三年ほどで国が滅亡してしまう。


 どの兵力、金、兵糧、練度など要素が戦況に最も影響を与えているのかを検証するために、自国の兵力を倍にして練度を最大にしたり、城の規模を最大にしたりもしてみたが、やはり圧倒的な兵力差を埋めるには足りなかった。


「んー、やっぱゲームじゃ、ありとあらゆる方法ってのも無理があるよなぁ。」


 チハルは数日前に聞いた軍参謀タクトの言葉を思い出していた。


『あらゆる可能性を考えるのが戦術の基本だ。常識の外に手があることも少なくない。』


「常識っつっても。俺の常識はそもそもこの世界と全く違うしなぁ。常識常識、俺にとってはこのイアイパッドは常識だけど、この世界にはそれがない。俺にあって、この世界にないもの。俺になくて、この世界にあるもの。俺にもこの世界にもないもの。イアイパッドにもないもの。」


 チハルは机の中央にあるイアイパッドを眺めた。画面では信長の衝動のシミュレーションが目まぐるしく回っている。チハルは画面をタッチしてシミュレーションを一時停止した。画面にはチハルがエディットしたマップが表示されている。画面右下、南東の角にチハルたちがいるタライバン島の一部が表示されており、そこから海峡を挟んで対角線上、左上から画面を覆うように表示されているのが大陸にある新王朝である。


 領土の差を見ても圧倒的な戦力差があることが分かる。もし海峡がなかったなら、すぐにでも大軍勢を送り込まれて王家は滅亡していたことだろう。


「常識で考えたら、絶対に勝ち目ねぇよなぁ。その方法を探すっつってもなあ。」


 チハルは机の手前側に置いてあった消しゴム代わりのパンを指ではじいた。それがころころと転がって机中央にあるイアイパッドの右側で止まった。


 チハルが椅子に座ったままそれを眺める。


「んー?」


 チハルはパン屑を取ろうとして伸ばした手を中空で固めた。


「あ……。」


 チハルが立ち上がって机の上を俯瞰した。中央にイアイパッド、その右側にパン屑。


「常識の外……、イアイパッドの外。これだ!」


 チハルはイアイパッドのシミュレーションを完全に止め、ヴィキペディアを開いた。


「サクシードさんの出身がヒラドだったか……。なら……、これもあるはず。自分の国を忘れるなんてどうかしてたぜ!」


 チハルは手早く検索ボックスにある単語を入力した。


≪琉球 中世≫



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