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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第二十五話

今回は短めです。

 第一章 第二十五話


「な!何を言っておる?!」


「だから死ね。どうした?何でも言うことを聞くと言ったよな?」


「チハル、おぬし本気か?怒るぞ?」


「死ねない?」


「当たり前であろう!わらわを愚弄するか!?」


「じゃ、いい。死ななくていい。むしろ死ぬな。」


「へ?」


「その替わり……。俺の、いや、まぁ、待て、いまはいい。」


「ん?なんじゃ?男らしくないのう。」


「いや、じゃ、こうする。お前が勝った時に俺にしてほしかったことを言え。これが命令だ。」


「なんじゃと?」


「いや、早く言えよ。お前が勝ったら何を言うつもりだった?」


「い、いや、それは言わぬ。」


「む、これもダメなのか?」


「チハルの言うことなら何でも聞く、でもこれはダメじゃ。」


「?おまえ、照れてんのか?」


 ショーピンの顔が酒のせい以上に赤くなっていた。たぶんチハルの予想と似たようなことを考えているのだろう。若いころのチハルならそれを揶揄って遊んだのだろうが、いい年して一国の王女を相手にそれをやるほどもう子供でもない。


「じゃ、それもいい。言わなくてもいい。なんとなくわかるし。」


「ど、どういうことじゃ?」


「なんだ?言ってもいいのか?じゃ、言うぞ?その代り別の願いを聞いてもらうぞ。」


「いや、言うな!言うなよ!言わずともよい。」


 ショーピンの焦りようがかわいい。美しい表情をころころと変え、見るものを飽きさせない。


「んー、よし、もう一度同じ遊びをしよう。」


「ぬ?」


「こんどは好きな方を選ばせてやる。規則は同じだ。」


「ぬう。」


「小さい杯の方は大きい杯が一杯飲むのも待たなくてもいい。」


「むぅ、よし、やってやろう。そうじゃな、今度も小さい杯じゃ。」


「よし、じゃあ酒を入れるぞ。俺がこっち、大きい杯だな。本当にそれでいいな?」


「良い。わらわが始めと言ったら開始じゃ。今度は勝つ。」


「どうぞどうぞ。」


「では、始め!」


 ショーピンは一気にグラスを持ち上げそのまま飲み干した。まさに電光石火、有無を言わさぬ先手必勝である。チハルは最初の杯に手を伸ばすでもなく、ショーピンの顔をにやにやしながら見ていた。


「飲んだぞ?わらわの勝ちじゃ!あっけなかったのう、さぁ、言うことを聞くのじゃ。」


「おう、いいぞ。それで、何を言うつもりだ?」


 チハルのニヤニヤが止まらない。


「ぬ!?む?お?おおぉ……!」


 ショーピンはチハルの意図を理解したらしい。ここで先ほど勝ったときに言うはずだった答えを改めて言ってしまえば、先ほどのチハルの願いに答えてしまうことになる。


「死ね!チハル!今すぐ死ぬのじゃ!死んでしまえ!」


 顔を真っ赤にしながらショーピンがそう告げた。


「ダメだな。……っつーのも面白くないんで、いいぞ。死んでやる。」


 チハルは机に歩み寄り、引き出しから折り畳まれた紙を取り出した。それを開くと中には少量の白い粉が入っている。チハルはそれをショーピンに見せ、ためらいもなくそれを口に入れた。そしてテーブルに近寄り自分の杯の酒を少量飲んで喉の奥に流し込んだ。


「まて、チハル。それはなんじゃ?」


「死ねっつったろ?毒だ。」


「まて、やめろ、本物ではあるまいな?」


「いや、本物だ。もうすぐ効いてくるはず、……、ん、っく!」


 チハルは心臓のあたりを抑え、よろよろと足を絡ませながら寝台に座り込んだ。ショーピンが立ち上がり、不安げな顔でチハルを見る。


「バカな!本当にやるやつがあるか!おい、冗談じゃろ?チハル!」


 寝台にあおむけに倒れたチハルはかはっと肺の中の息を吐き切り、ピクリとしたあとに動かなくなった。ショーピンが駆け寄りチハルの体を揺するが、何の反応もない。ショーピンに薬の知識はないがチハルが通門者なのは周知の事実だ。こうして少量で瞬時に命を奪う薬があり、それを持っていても何もおかしくはない。


「やめよ!チハル!死ぬな!よせ!」


 ショーピンが涙を浮かべながらチハルの胸を叩いた。チハルは肺を叩かれた勢いで口から息を洩らすだけで、何の反応もない。≪救急救命法≫の知識のないこの時代、とっさに患者の呼吸や心音を確認することができないのも無理のない話である。


 その時チハルの両腕が持ち上がり、ショーピンの体を抱きしめた。


「はい、生き返りましたー。」


「?!」


 チハルの腕の中のショーピンが驚いたまま体を固まらせて動かない。


「チハル?」


「おう、生きてるぞ。安心しろ。」


 チハルは両腕に力を込め、ショーピンの反撃の気勢を奪った。そのまま体を密着させたままショーピンの頭を撫でてやる。このままではショーピンはどうにも動くことができない。


「嘘か?」


「教えない。」


「泣くか怒るかしていいぞ。」


「せ、せぬわ!」


 チハルはショーピンを抱きしめていた手を放し、寝台の縁に座って両手をショーピンの肩に乗せた。


「よし、決めた。俺がお前を守ってやる。」


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