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現代日本人が綴るタライバン島史  作者: 黄蘿蔔
第一章
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第一章 第二十話

はじめて感想いただきました!


嬉しいものですね!

 

 第一章 第二十話


 チハルはイ神官を側に呼んだ。細かいルールの説明はチハルのメルイーウ語では不可能だ。


「ナンデスカ?」


「今から姫とちょっとした遊びをやるんだけどさ。通訳と審判頼みたいのと、もう三人くらい人を集めてくれない?できたらあんまり酔っぱらってない人で。」


 レセプションの会場には当初より半数ほど数を減らした講義参加者らが残っていた。宰相や神官長など高位のものは翌日の業務もあるのだろう。会場を後にしたのか、すでに姿がない。残りのは顔を赤くした酔っ払いと、割と素面で談笑をしている人たちが半分半分といったところである。


 イ神官が会場に残っていたものを三人連れてきた。姫とチハルと一緒にゲームをすると聞いても物おじしなかった者たちである。


 その間にチハルは円形のテーブルを椅子を囲み、中が殻の陶器のグラスを七つとグラスに入るような数種類の小物を用意した。


 イ神官が連れてきたものは、一等書記ショーキ、千人隊長バイ、そして同じく神官だというリーである。


「皆さん、コワクという怪物を知っていますか?」


 チハルがイ神官の通訳で説明を始めた。全員が頷いたのを確認し、ゲームの説明を始めた。


 1.目の前のグラスの中に小物が入っており、開始時にそれを見る。自分の役割はイ神官に報告する。一度グラスを見てからは役割以外でグラスを開くことはできない。

 2.小物によって役割が決まり、ゲームの間その役割に従う。役割は、三人の村人、一人の狩人、一人の占い師、そして二体のコワクである。

 3.村人は何もできない。狩人は誰か一人のグラスの中を覗き見ることができる。占い師は自分ともう一つのグラスの中身を交換することができる。コワクは自分がコワクであると言うことはできない。

 4.全員が役割を確認したら、耳をふさいで目を瞑り、イ神官の指示で狩人、占い師の順に行動する。

 5.狩人と占い師の行動が終われば、全員が目を開けてコワク探しが始まる。

 6.一定時間経過後、投票によってコワクを殺す。コワクを無事殺せれば、コワク以外の人々の勝ち。村人を殺せればコワクの勝ち。数ゲームを行い最も点数の高い人の勝利。コワクが居ないと全員が判断すれば、それぞれ右か左の人に投票し、全員が一票ずつ得票して全員に得点。


「皆さん分かりました?えーっと、最初は僕が指導するので、イ神官も見ていてやり方を覚えてください。他の人はまずは気軽にやってみましょう。」


「じゃあ、皆さんまず目をつぶってください。」


 チハルはテーブルの上のグラスに仕込んでおいた小物を隠した。


「ではみなさん、好きなグラスを選んで自分の近くに置いてください。そして自分だけに見えるように中身を確認してください。白い石は村人です。青い石が狩人、赤が占い師です。黒い石がコワクですよ。」


 全員が石を確認したようだ。チハルはグラスを伏せさせ、一人ずつの役割を確認した。


「ではみなさん、目をつぶって耳をふさいでください。あ、後ろで見てる人はズルをしていないか見張っていてくださいね。」


 チハルはショーキ書記官の肩を叩いて目を開けさせた。口に指をあて音を立てないよう指示し、ジェスチャーで好きなグラスの中身を見るように促した。ショーキは恐る恐るショーピン姫のグラスの中身が黒い石であることを確認した。ショーキは一瞬ドキリとしたが、すぐに平静を装いチハルの指示に従って目と耳を塞いだ。テーブルの周りにはいつの間にか人だかりができており、それぞれがこそこそとゲームのルールについて確認している。


 続いてチハルはリー神官の肩をたたき、同じようにジェスチャーでグラスの中身を交換するように指示した。リー神官は自分のものとショーピン姫のグラスの中身を交換し、石の色が黒であったことに驚き、しかし再び平静を装って目を閉じた。


 チハルは全員の肩を叩いて回り、目を開けるように指示した。


「さぁ、コワク探しの始まりです。」


 最初のゲームでどのようにしたらいいのかわからない四人は、お互い顔を見合わせて黙りこくっている。


「では僕から訊きましょう。村人は誰ですか?」


 千人隊長のベイが手を挙げた。


「私だ。」


「では狩人さんは?誰の中身を見ました?」


 ショーキが手を挙げた。


「わ、私です。えっと、失礼ながら姫の中身を見まして、姫がコワクです。間違いありません。」


「え、ち、違う!わらわは、村人じゃ!断じてコワクではない。」


「さっき手を挙げませんでしたね?」


「わ、忘れておったのじゃ!違う、違うぞ。わらわはコワクではない。」


 見るからに怪しいショーピン姫の態度に、その場の全員が苦笑した。おてんば姫がこうして困惑しているのを見るのは良い見世物になるらしい。


「では、占い師は?」


 場の誰も手を挙げなかった。


「あれ?おかしいですね?リーさん?では、あなたはなんです?」


 場の全員がリー神官を見た。


「こいつじゃ!こいつがコワクじゃろう!そうじゃ。」


 リー神官が明らかに動揺している。


「いや、コワクは二体いることもある。姫と神官がコワクだ。」


 ベイ隊長が発言した。


 明らかに困惑した様子のリー神官が初めて口を開いた。


「わ、私は、コワクではない、う、占い師であった。」


「では、誰と交換したのだ?」


「え、あ、それはバイ隊長だ。」


「む?私か?」


「そう、バイ隊長と交換した。だから今中身は村人になっている。」


「なんで最初に手を挙げなかったんだ?」


「そ、それは……、占い師か村人か迷って……。」


「占い師が誰か聞いた時も手を挙げなかったな。」


「それは、だから、迷っておったし。」


「オヌシ、もしかしてわらわと交換したか?」


 ピンときたのかショーピン姫がリー神官に詰め寄った。


「違う、バイ隊長だ、です。」


「皆のもの、こいつじゃ!わらわは最初コワクだったのじゃ!しかし交換して今はこやつがコワクになっておる。」


「違う、違います!」


「こいつじゃ、皆のもの、こやつに票を入れるのじゃ!」


「ハイハイ、そこまでそこまで。皆さんほかに発言がなければここまでにしましょう。では、コワクだと思う人を指さしてください。四人なんで表が割れるかもしれませんが、そのときはふたりとも死にますよ。村人が一人でも死ねばコワクの勝ちです。」


 チハルが投票を促すと、ショーキはリーに、リーはショーピン姫に、バイはリーに、そしてショーピンもリーに投票した。


「三票でリーさんがコワクの疑いです。では、目の前のグラスを空けてください。」


 リーが観念したようにグラスを空けるとそこにはやはり黒い石があった。


「ほれみよ!わらわたちの勝利じゃ!」


 ショーピン姫はたいそうな喜びようである。


「全員、大体感じはつかめましたか?では僕も加わります。イ神官お願いします。5回ほど遊んで、得点を合計すればよいでしょう。では行きますよ。本気の心理戦、やってみましょう。」


「ワカリマシタ。」


 最初のゲームでは、チハルが占い師を引き、村人であったリー神官と札を交換。狩人を引き、チハルが占い師であったことを確認していたバイの証言によりチハルの発言の信憑性が高まり、終始行動のおかしかったショーピンコワクをつるし上げて正解。村人全員に1ポイント。ちなみにリーもコワクであった。コワクが二人いる場合、お互いに協力し合う必要があることを全員が知った。


 チハル、ショーピン、ショーキ、バイ、リー = 1、0、1、1、0


 二ゲーム目。チハルがコワク。狩人で有ったと偽り、他人のグラスではなくテーブル中央の余ったグラスの片方を見たと証言。中身の一枚が村人であったことを伝える。バイもコワク、村人と偽る。ショーピンが本物の狩人で、ショーキが村人であったことを伝える。リーも村人。場に村人が四人いるという不思議に、ショーピンとショーキとリーがチハルを指定。チハル痛恨の敗北。


 チハル、ショーピン、ショーキ、バイ、リー = 1、1、2、1、1


 三ゲーム目、全員こなれてきたのか嘘のつき方に自身がみなぎって見分けにくくなる。コワクはバイ隊長。狩人であったリーによりバイがコワクであると明かされるが、バイは自分が占い師であり、ショーピン姫と交換して村人になっていると発言。交換前は実際に村人であったショーピンの擁護もあり、バイの発言を信じるものが続出。逆にバイがコワクであると指摘したリーが疑われる羽目に、あまりに必死で涙目に自分の発言こそ真実であると宣言するリーに折れる形で、本人以外の全員がバイに投票。バイは本当にコワクであったが、敗北しながらもゲーム中まるで動揺を見せなかったその胆力に全員が驚かされる。


 チハル、ショーピン、ショーキ、バイ、リー = 2、1、2、1、1


 四ゲーム目、チハルとショーピンがコワク。二人は阿吽の呼吸で残りの三人を手玉に取り、終始村人であると嘘をつきとおし、二人で本当の村人であるリーに投票。チハルとショーピンを信じたバイもリーに投票を誘導され、リーを殺害。チハルとショーピンの勝利。

 チハル、ショーピン、ショーキ、バイ、リー = 3、2、2、1、1


 最終五ゲーム、チハル狩人、ショーピンとリーがコワク、残り二人は村人。チハルはリーのグラスをのぞき見し、コワクであると確信、しかしさらに占い師であると偽り、リーと自身の札を入れ替えたと宣言した。ショーピンは自身は狩人であり、チハルこそがコワクであったと発言、リーは自身の札がコワクであり、チハルに交換されたため今はチハルがコワクであると発言。そこでチハルは本来狩人でリーの札を見ただけだることを明かしたが、なぜそこまでする必要があるかを残り二人に突っ込まれ、遊びを面白くするためと答えたがこれがきっかけとなり自滅。チハル敗北でショーピン、ショーキと得点が並んだ。


 チハル、ショーピン、ショーキ、バイ、リー = 3、3、3、2、2


「わらわとチハル、もう一人が同点じゃな。いかがする?」


「三人が同得点か。なら役職を減らして……。延長戦だ。」


 チハルは村人二枚を場から除き、村人、狩人、占い師がそれぞれ一枚、コワク二枚で延長戦を提案した。


「どうせならなんか賭けぬか?」


「む?賭け事はしない主義だが、そうだな……、負けたら勝ったものの言うことを聞くというのはどうだ?」


「む?ひとりが勝っても、二人が勝っても負けたやつが言うことを聞くのか?わらわはそれでよいが、おぬしはどうじゃ?」


「私は構いません。」


「では、そういうことで始めましょう。」


 衆人環視が注目する中、延長戦が始まった。ショーキがコワクを引き、チハルが狩人、ショーピンが村人であった。チハルがショーピンが村人であったことを発言すると、ショーキが自身は占い師で、ショーピンと札を変えたと宣言した。この場にはコワクが居ないことになる。ショーピンがコワクは素直に発言しろと迫るが誰も手を挙げない。結局円環投票で場を流すことにし、投票が終わったところでショーキが奇声を上げてグラスを空けた。中には黒い石、コワクの証拠である。


「ぬ!貴様がコワクであったか!」


「やられたぁ!しまった、三人プレイは勝手が違ったかぁ。まぁ仕方ない。」


「お、おれの勝ちだ!」


 ショーキは同僚らに肩を叩かれ祝福を受けていた。


「さ、何かしてほしいものはあります?」


「そうじゃ、なんでもよいぞ、言うてみよ。」


「そ、それでは、チハル殿。こ、今代の通門者であるチハル殿に、チハル殿の国の言葉で、ここに何か書いてほしい。」


 ショーキは講義で使ったメモと鉛筆を懐から取り出し、チハルに一筆何か書いてほしいと懇願した。芸能人ならサインでも書けばよいだろうが、チハルにはそんな習慣はない。チハルはすこし考えた後、さらさらと紙に鉛筆を走らせた。


≪僕の前に道はない、僕の後に道はできる≫


 なぜかこの時チハルの頭にふと思い浮かんだ一文である。意味を説明するとショーキは非常に喜び、その紙を大切に折りたたんで懐にしまった。問題はここからである。一書記官であるショーキがショーピン姫に何を要求するのか?


 室内の全員が唾をのむのも忘れてショーキの発言に注目した。ショーキは立ち上がり、料理を乗せていたあったテーブルに近づき、置いてあった"星に針"をぐいと一気飲みした。度胸付けなのだろう。


「で、では、姫、その、姫の髪を、一本ください。」


「む?そんなもので良いのか?」


 ショーピンはおもむろに自分の頭髪を選り分け、一本をぷちりと摘み取った。毛先が少しだけ跳ねた美しい黒髪である。ショーキは恭しくそれを受け取り、再び懐から取り出した紙で丁寧に包み、再び懐にしまった。


「そこは陰毛とかじゃねーの?」


 イ神官の通訳を受けて内容を理解したチハルは、最大限に気を使ったショーキの発言に少しがっかりした。身分の差もあり、姫と遊戯に興じる機会というのがまずないのだろう。そこで得た姫の体の一部は彼にとって生涯の宝となるのかもしれない。


「じゃ、今日はこの辺でお開きにしますか。」


 時計のないタライバン島では、日が暮れてしまえば時間は自分の感覚だけが頼りである。レセプションを初めて3時間もたっていないはずだが、もうずっとこの部屋でこうしているような気もしている。


 部屋の片づけは王宮の職員らが行うため、チハルたちはそのまま自宅へ戻るだけである。チハルが皆に挨拶を済ませ、イ神官と共に部屋を出ようとするチハルをショーピンが呼び止めた。


「チハル、今日は楽しかったぞ。また……、次の講義も聴いてよいか?またこういう集まりをやるのだろう?そしたら皆でまた遊戯に興じたいのう。ほれ、なんじゃ、その、とにかく今日は楽しかったぞ。」


「お、おう。じゃあな。暇なときは連絡しろ。他の遊びも教えてやるよ。カードとかな。」


「かーど?」


「ま、そりゃもうちょい先だな。まぁ、おてんばもほどほどにな。今日は早く寝ろよ。」


「うむ、では今後ともよしなにの。」


「うん?そりゃまぁ、な。じゃあな。」


 チハルは部屋を出て家路についた。途中イ神官に脇を肘で小突かれながら「チハル殿、これはワンチャンあるかもですね」などという意味の、軽口を言われた。どうやらイ神官も気持ちよく酔っているらしい。チハルは王宮の正門でイ神官と別れ、護衛を連れて家に戻った。


 幸い月夜で夜道はうっすらと明るく、護衛もついているので仮王宮を出てからも家までは安全そのものである。チハルは自室に戻ると、濡らしたタオルで体をふき、服を着替えてベッドに横になった。お酒が入っているのもありすぐに眠りに落ちた。



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