●隠し子
彼はひと回り以上うえの妻帯者でした。
●隠し子
占いをしていると、
今まで、誰にも話せなかった事を、
私に打ち明けてくる方がいらっしゃいます。
それは可愛らしい、小柄な女性でした。
まだ30歳手前と思われる彼女は、
シングルマザーでした。
彼女は地元の高校を卒業すると、
声優になろうと思い、
東京の専門学校で勉強を始めたといいます。
夜のアルバイトをしながら、
1人暮らしで頑張っていた頃、
ある1人の有名な小説家と出会います。
彼はひと回り以上うえの妻帯者でした。
学校の学費や、家賃が困った時、
援助してくれたといいます。
しかし、彼は紳士的で、
だからといって、体を求めてくる事は無かったといいます。
純粋に応援してくれてたんだと思います。
しかし、
ある時、
彼が珍しく、とても落ち込んでいる時があったのです。
その時初めて、
彼女の方から、彼にキスしたといいます。
いけない恋と知りながら、
いつしか彼の事を、心から好きになっていたのです。
それから彼女は学校を辞め、
夜のアルバイトをしながら、料理学校に通うようなりました。
結婚とかは望みません。
ただ、彼が落ち込んでいる時、
何か美味しい料理で、元気づけてあげたいと思ったからでした。
苦しい時に助けてもらった、
その少しでもお返しができたら・・・
そんなある日、
悲劇が起きます。
不幸にも、彼女は、
ある男性客から暴行を受けたのです。
「死にたい。」
そう彼に言うと、
彼は黙って、初めて私を抱いてくれたのです。
私はずっと泣いていました。
彼は私が立ち直るまで、
毎日、励ましに来てくれたといいます。
ディズニーランドにも2度連れてってくれました。
しかし、
ふたりの別れは、突然やってきたのです。
ある日、彼女は、
自分が妊娠しているに気づいたのです。
悩んだあげく、
誰にも相談せずに、産む決断をしました。
彼にも迷惑をかけず、
「ひとりで育てよう。」
その時、私は、つい聞いてしまいました。
「もしかしたら、彼の子かもしれないのですよね。
なぜ、彼に認知してもらわなかったのですか?」
すると、彼女は、
「怖かったんです。」と言った。
「DNA鑑定して頂ければ、
きっと彼の子と判断できて、認知してもらえるかもしれません。
でも・・・・・
でも、
もし、DNA鑑定して
彼の子じゃないという結果がでたらと思うと、
怖くて、怖くて・・・・
もしそうなったら、
私、生きていく自信がなかった。
この子を笑顔で育てていく自信がないんです。
それよりも、
この子を、彼の子だと信じて育てていきたい。
そう思ったんです。」
こうして、彼女は、
産まれた息子さんの存在を、彼には知らせず、
ひとりで育てる決意をして、
黙って、彼の前から姿を消したのでした。
実家に戻った彼女は、
両親から「この子の親は誰なの?」と聞かれても、
絶対に彼の事は、言わなかったそうです。
そんな彼女にとって、
一番つらいのは、
少し大きくなった息子に、
「パパは?」と聞かれる事だったといいます。
彼女は淋しくなると、
本屋に行って、
彼が書いた本を手に取ったといいます。
しかし、
別れてから、
5年の月日が過ぎた時でした。
この親子の身の上に、
ある不思議な出来事が・・・・・・
それはいつもの様に、息子の朝食を作っている時でした。
息子が、眠い目を擦りながら、
起きてきて、言ったのです。
「ママぁ、
夢にね、
お父さんが、会いに来てくれたんだよぉ。」
彼女はビックリしました。
息子には彼の事を教えた事は無かったのですから。
恐る恐る、息子に聞いてみました。
「ど、どんなお父さんだったの?」
すると、息子は、
「優しかったよ。」と言い、
なんとなく彼と似たような特徴を言ったではありませんか!!
彼女は、まさか? と思い、
すぐに寝室に飛んでいくと、
引き出しの奥の方から、
ディズニーランドで撮った唯一の彼の写真を取り出し、
息子に見せました。
「そのお父さん、この人だった?」
すると、
「そうだよ。このおじさん!!」
その言葉を聞くと、
じわっと、涙が出てきました。
抑えようとしても、次から次に涙が出てきました。
泣きながら、
息子を強く抱きしめました。
しかし、
彼女が本当に驚いたのは、
2日後でした。
テレビで彼の死を知ったのです。
今から思えば、
彼が一度だけ、
珍しくとても落ち込んだ時があったのですが、
多分、それは彼が医者から、
重い病気を告知されたからだったのです。
亡くなる前日に、
彼が息子の夢の中に・・・・・
住んでいる場所も知らない彼が・・・
彼女は私に聞いてきました。
「こんな事って、本当にあるんでしょうか?」
彼女は、過去の事ではなく、
また、未来の事でもなく、
たったそれだけの事を聞きたくて、私の所へ来たのでした。
いや、
それこそが
彼女にとっての過去と未来、その全てなのでしょう。
私は、
「彼の魂が、
本当に貴方の息子さんに会いに来たんだと思いますよ。」
と答えました。
「ホントに?」
「人は死ぬ時、ウソはつきません。
本当に会いたいと思った人で、
特に、死に目に会えないと思われる人に、
亡くなる直前に、
魂が体から離れて、
その人に会いに行く時があるんですよ。」
「ホントに?」
「魂と魂が呼び合ったのです。
息子さんは、彼の子供ですよ。」
「よかったぁ」
彼女は少し泣き声で、
「これからは、息子に、
おまえのお父さんは立派な作家だったのよ。って、
言ってあげられます。
よかったぁ。
ホントによかったぁ。」
彼女は涙を拭きながら帰っていった。
きっと、今まで何度も何度も、
もしかしたら、
という不安が頭をよぎっては消していたに違いない。
彼女は帰る前に、
こんな話をした。
「パパは何て言っての?」って息子に聞いたそうです。
すると、
息子は嬉しそうに、
「パパはね、
いつもボクの事を見守っているからねって、
男の子はね、
ママを助けなければいけないよって。
ママを大切にするんだよ。
ママを頼んだよ。」
「パパぁ!!」
END