破壊者ヤマさん 狂戦士
「ちょっとそこの君。少しいいかな。おいこら逃げるな!」
ファイター大好き、ゲームでは攻撃力に全振りが基本の偏ったゲーマー山崎。ただいま全力で逃亡中。
「そっちに逃げた!回り込め!」
「応援要請します!」
はぁはぁと荒い息をつき、お巡りさんの追跡を警戒する男の背中にはホームセンターで買った斧が背負われていた。剥き身で。
市街地を警察に追われて全力疾走する。憧れるシチュエーションではあるがやりたくない物の一つだ。
一戸建て住宅の門の陰、電柱の後ろ、ビルの隙間。どこか隠れるとこは無いかと必死で探しながら逃げる。開いていたエレベーターに飛び乗り、途中で降りて螺旋階段を駆けおりる。そして途中で飛び降りる。やった!これテレビで見たアクションだな!そう考えて益々テンションは上がっていく。
肩に掛けたスポーツバックの中にはAK47の電動ガンも入っている。職質を受けたらアウトである。いや、それならまず斧を隠せと思わなくもない
「くっ!まずは一体……か」
おいまてヤメロ。お前はこの法治国家日本で何をする気なのか。作者ながら彼(と彼のモデルになった人物)のことが心配になってしまう。
冒険者になったことが嬉しくなってなにかが振り切れてしまったまま武器屋にいって装備を整えてしまったのが彼、朝から五月蠅かったからという理由で目ざまし時計を縦に叩き潰して右手から出血した男…ヤマさんである。パワーこそ力と信仰し、有り余る筋力と情熱の行き場に迷い、とうとう冒険者という浪漫に出会ってしまった男。
このような、現実とファンタジーのギリギリのラインを二三歩踏み越えた奴も冒険者ギルドにはたまにいる。
KATANAを身につけて店を訪れたりすると、ギルドマスターに説教されるはめになるのだが、ヤマさんは少し手遅れだった模様だ。カタナもヤバいがコスプレ感が漂う為かろうじてネタで済みそうなのに対して、斧は不審者力が限界突破しすぎている。渋谷でなくても職務質問タイムになるのは当然だった。
ビルの隙間を走り抜け、雑居ビルのコンクリートの階段を駆け上り、屋上から隣のビルに飛び移り、代々木公園まで走りつづけて公園の茂みに潜り込みようやく追っ手を撒いた。嘘みたいだが本当に警察を撒いてしまった。
そしてバジリスクのように茂みに潜む彼の目に、一枚のカードが転がっているのが映る。おなじみの薬草カード。ただ、かれは既にD級なのでこれを回収する意味はないが……
「ん? これって渋谷だけじゃなかったのか。いや、駅は代々木だけど渋谷区か。あー、冒険者としての渋谷ってどこまでなんだ?」
初めてD級になり、薬草群生地調査のクエストを受けるときに、配置しても良い場所の説明は受けた。だが、一言で渋谷といっても、行政区画なのか駅名なのかなど、細かい説明はなかった。
「今まで、こういう疑問持った人居なかったのかな? とりあえずギルドできいてみるか」
少し冷静になったヤマさんは柄をズボンの片側に入れた状態で斧をシャツの背中にしまうと、歩きにくそうにギルドに向かった。
もちろん、このあと無茶苦茶叱られた。
半分位事実