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D級冒険者アツシ 学生 隠密系スキルを磨く

薬草配置。この任務は少し特殊だ。要は冒険者の入り口であるE級クエストてある「薬草採取」の為に薬草カードを配置する裏方なわけだが、配置したことをギルドに証明する方法が無い。

 そのため、ギルドから手渡された薬草カードが、別の冒険者の手で回収されて初めて達成となり、評価ポイントになる。


 調査した群生地という名目の、配置場所を記した地図を提出すると銀貨はその場で貰えるが、カードが回収されるまでは次のクエストは受けられない。


 そういう仕組みなので、一週間たってその場に残っていたカードは自分で回収して返却処理をするという残念な処理が発生する。建前としては、群生していたが付近に危険な魔物が生息しているため初心者には危険だからという理由をつけている。

 無くなったがギルドに持ち込まれていないカードは捨てられている可能性も高いけど、新たな冒険者の誕生かもしれないと、各受付は期待に胸を膨らませて待つことになる。


 結構、面倒くさいやり取りをしているのだ。


「これ、配置しないでそのままE級冒険者とかに渡しちゃってもわからないんじゃないですか?」


 やろうってわけじゃ無いですけど、と前置きしてからアツシは当然の疑問をマスターに訊ねる。


「一応ね、お店の休憩時間とかに地図の場所を見に行ったりはしてるよ」

「マスター自らって、かなり効率悪くないですか?」

「もともと効率なんて考えてないよ、楽しくてやってんだから。S級の澤久君とかもたまに群生地確認してるよ。手書きの地図見て街中で宝探しとか最高でしょ」


 S級冒険者、やっぱりいるんだ。

 その日は他の冒険者が来ることもなく、マスターに上級のクエストについて根ほり葉ほり聞いたりはぐらかされたりを楽しんで帰った。



 マスターの話によると、カードには模様に隠れて番号が印字してあるらしい。D級の誰が設置したものをE級の誰が拾ったのかがギルド側には筒抜けなのだ。そして同じ人が、同じ人の配置したカードばかりを集めてくる場合、配置場所を少し変えるようにと指導が入る。これがたまにカードの場所が変わる理由だ。


 配置する側だって、一週間たって集めに行くのは面倒なのでなるべく誰かに見つけて欲しい。でも簡単に見つかりすぎても悔しい。そんな二律背反な想いがある。だからまずは見つけやすい所に置き、その周囲には分かり難く隠して配置する。そして誰かが拾って、それを手がかりに冒険者ギルドの窓口までたどり着いてくれることを祈ってソワソワ見つめるのだ。……電柱の影から。


 薬草カードを監視する必要など無いのだが、気になって仕方がないのでついつい見に来てしまう。アツシは自分がE級の頃に集めていた薬草スポットを思い出す。公園のベンチ、遊具の影。あの辺は探せばもっとあったのだろう。街路樹の枝に挟んであったのは、一本おきにあったがアレは雑な配置だ。ロマンがなかった。路地裏の樽の中は良いセンスだが、あの樽は配置した奴が自腹で購入したのだろうか。


「あ、きたっ!」


 エリを立てたトレンチコートを纏い、穴をあけた新聞紙で顔を隠しながら監視。怪しさの塊のような姿だが、監視といえばこんな格好というロマンがあるようだ、

 そんな不審者には気付かず、黒いランドセルを背負った小学生が、公園の隅に砂で描いた宝箱の絵を見つけたようだ。砂をそっと手でかき分けると、薬草カードが出てくる。

 よしよし、怪しいところにアイテムがあるのはいいけど、宝箱からも手に入るべきだよなと一人呟く。


 もう何日も暇なときはこうして隠れて、薬草を見張っているが、思ったより拾う人は多い。

 公園のベンチの上などに置いておくと「あった!」という顔で一直線に向かってくる人が何人かいる。昼間は小学生が5人。昼頃にキョロキョロ探すおっさんが2人。夜には男女を問わず学生や社会人。配達途中に慣れた動きで手早く確認していく人もいる。そんな人たちの人数や活動時間帯をメモする。効率よく拾わせる為に。


 誰かがカードを拾ったら、即その場に補充する。それがアツシの考えたD級攻略法だった。

大抵の冒険者はニヤニヤと嬉しそうな顔をしてカードを拾っていくのだが、その中に切羽詰まった表情で必死にカードを探す子供がいることが気になった。少し小太りの少年を心の中でチャンクとコードネームを付けて、彼の来る早朝と放課後には確実に補充するように見回りをする事にした。

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