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ベテラン冒険者トシオ 悲しき敗残兵

冒険者ランクE級

「おやじさん、俺さぁ。今年入った新人に『オチさん』って呼ばれたよ」

「昔から居る新人なんてあまり見ないけどな。うん、そうじゃないって? お前さんそんな苗字じゃないんだろ。うんうん、どうしてそう呼ばれたんだい」


 最近足繁くトシオが通うおでん屋の店主は、暖簾を潜るなり奇妙な事を言い出したトシオの前に、コップ一杯の日本酒と特製の『馬鹿揚げ』を置く。これは細く刻んだ根菜類を白身魚のつみれに和えて揚げたモノで、具だくさんの薩摩揚げのようなものだ。熱々のこれを口に入れ、その火傷を冷ます様に冷酒をチュッと口にすするのを好むトシオは、店に来るとまずこれを頼むのだ。

 まだトシオが店に通い始めて一月も経ってはいないのだが、古くからの知り合いのような気がしていた。お互いに口には出さないがきっとどこかで会っていたのだろう。店主はコンビーフの缶詰めを開けてマヨネーズを混ぜながら話の続きを促した。


「新人がそう呼んだ瞬間に周りの空気が凍ったのがわかってさ。『ああ、影でそう呼ばれてんだな』って察したよ」

「オチ……ああ、なるほどな。そりゃしかたねぇよ。俺達もいいトシだもの」


 店主の言葉は同情ではない。彼のタオルに包まれた頭はとても額が広い。トシオはチラリと一目だけ視線を送る。


「同病アイアンマンハーレムというやつか」

「そういうわかりにくいおやじギャグはウケてるわけじゃないからな。笑うふりしてくれてるウチに止めとけよ?」


 落ち武者さん。それが長い時を経て省略され、オチさんというあだ名になった。その経緯を知らない新人が本名と間違えた。そんなどこにでもある悲劇だった。


「俺、凍った空気の中で新人に『何か用でゴザルか』って返しちゃってさ? そしたら向かいの同僚がイチゴオレ噴いて、俺の弁当が全損」

「悲しいな。ハゲ弄られて、必死で気にしてない風で凍った空気リカバリーしたのに。踏んだり蹴ったりか。チクワブ一個サービスしてやっから元気だせ」

「あと今日集めた薬草カードに『劣化した薬草』ってのが一枚あって、普通の薬草は四枚しかないのも 悲しくて、つらたん」

「そっちはオマケ出来ねぇ。質が悪いのは評価さがるんだ。あんたも知っての通り、劣化草は二枚で薬草一枚分だ。それに買い取りはするけど評価ポイントには成らんよ。薬草4と劣化1なら今日の納品は無しだな」


 商売は緩いがゲームにはシビア。そんな店主の態度にはほれぼれする。


「しかしさぁ。この冒険者活動。これ日本中とかでやってるのかい。もしかして世界中?」

「いや、渋谷界隈だけのはずだよ。そもそも薬草がこの辺にしか生えてないだろ」


 トシの職場は渋谷界隈では無い。窓口の場所を教えて貰って、わざわざ電車で来ているのだ。その事を伝えると店主は眉間にしわを寄せる。


「それ、違反ってわけじゃねぇけど、ちょっと問題かもしれんな」

「え、俺なにかやらかした?」

「いや、あんたは平気だよ。カードを配置した奴がグレーゾーンというか上手くやったと言うか」

「あ、やっぱり誰かが配置してるのね、これ」


 ひそかにPOPしてるのではと思っていたトシだが、まだスレスレでゲームと現実の区別は付いている。付いている。


「そりゃそうさ。薬草ならともかく、薬草カードは生えてこないだろ」

「生えてこないとか言うなよ!」

「悪かったよ」


 ハゲ同士の敏感過ぎる傷口をついえぐったわけだが、お互い慣れたモノだ。心温まる諍いのやり取りがはずむ。なにせ同病なのだ。


「まぁ、あんたの周囲でどういう陰謀が進行しているのかは、そのうち判る日がくるだろう。渋谷以外で薬草カードが確認された件は本部に伝えとくよ」

「なんか大事になってるっぽくいうの止めてよ」

「かっこいいだろ?」


 渋谷にしか生えない謎の薬草。少なくともハゲに効くと言う効能は無い様だ。

作者にハゲを馬鹿にする、蔑ろにする意図はありません。

いずれ行く路です。まだ平気ですが遺伝的には同病なのです…

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