C級冒険者アツシ 学生 新人の相談に乗る
天気の良い、冒険者日和の午後。
今日も冒険者アツシは公園に張り込む。
最近不審者がいるという事でベンチが撤去されてしまったので、縁石に座って本を読むふりをしながら日課の薬草カード配置を行う。
最近よく見かける、小太りの小学生が茂みの中に突入して薬草カードを探している。
(今日はそこじゃないぞ、もうちょっと奥だ!)
いつも、自分が置いたカードを拾ってくれていた子だ。今日も頑張って見つけて欲しい。
割りばしに挟んで花壇に指してある薬草は見つけていたが、木の枝の上に張り付けた薬草はなかなか見つけられないようだ。
この間は、ダンボールに色紙を貼って「?」マークのブロックを作って木の枝にぶら下げたのだが、あからさまに怪しいにも関わらず通りがかりの人が下からパンチしてくれて面白かった。だが、中から出てきた薬草カードには見向きもされなかった。次は子供の視線に合わせてまた低い位置に配置しようかな。
ようやく木の上の薬草カードを見つけて元気よく走って立ち去る少年を見送り、ゆっくり立ち上がる。今日はこれくらいにしておこう。
D級冒険者のアツシは満ち足りた気持ちで公園を去ると、行きつけの小さな喫茶店に向かった。
今日は薬師の人と交換した吸血鬼病治療薬を納品するのだ。
「おめでとう。このクエストの達成でアツシ君はC級にランクアップだね」
「え、ホントですか? 結構な量の薬草を配置したのにランクアップできないからD級までしか無いのかと思ってましたよ」
「同じクエストばっかりじゃ昇格条件満たさないんだよ。今回吸血鬼クエストクリアしただろ?」
「それでですか」
当初は「外れ薬草」だと思われていた、納品対象にカウントされない薬草カード。
それらの中に、模様部分を立体視で見ると別の文字が浮かび上がってくるものがあったのだ。
それこそが、吸血鬼化の特効薬と言うストーリーだった。
闇の眷属からはんぺんを守って輸送した報酬としておでん屋のオヤジから教えて貰った鑑定スキルがこの立体視なのだが、このスキルによって求めていた特効薬の材料が手持ちの外れ薬草の中にあった事が判明した時は喜びのあまり深夜にギルドまで駆け込んでしまった。
少し酸味のあるコーヒーを飲みながら店長とのんびり会話を楽しむ。最近、このコーヒーが気に入ってきた。いつ来ても他の客が居なくて潰れないのか心配になる店だけど、こういう遊びができる位なのだから、きっと趣味の店なのだろう。味が普通のコーヒーとちょっと違うのも納得できる。
「そういえば、前聞きましたけど、カードには印が付いていて回収されたかどうかはわかるんですよね? 俺のカードって店に戻ってきてるんですか?」
「戻ってきてるよ。ほぼ全部。なくなったり捨てられちゃう物も多いんだけどね、君のはほぼ回収されてる。紛失率が高い場合は隠す場所変えてって言うから安心していいよ。いや、もう薬草クエストはやらないか」
「いや、昇格のポイントにならなくてもたまにやりますよ。銀貨稼ぎたいですから」
「あんまり初心者のクエスト荒らすなよぉ?」
うへへと笑いあう。中堅冒険者による初心者のシマ荒らし。その行為への注意。こういう冒険者っぽいお約束な会話が現実にできるとなると、嬉しくなってしまうのだ。
「じゃあ、小学生の冒険者ってのもいるんですねぇ。お酒の出ない店って、俺ここしか知らないけど合わないですね。他にも喫茶店あるんですか? これくらいのちょっと太った子が良く拾ってました」
「……ほかの店は内緒だけど、小学生の冒険者は太った子はいないね。知り合いかい?」
「薬草カード配置した後、こっそり見てたんですよ」
「暇人にもほどがあるだろ。いや、気持ちはわかるけど」
じゃあ、あの子が拾ったカードは誰が持ち込んだんだろう。そういえばあの子は必至な顔で薬草を探していたけれど、集めたカードをどうしているのだろう。
ちょっと見に行ってみることにした。昇格してC級冒険者になったので、D級のクエストには制限がかかる。つまり、俺が毎日置いていた薬草は「あの場所には生えなくなる」という事だ。あの子は他の群生地を見つけられるだろうか。
次の日。C級冒険となったアツシは公園に張り込み、少年を待つ。
今日は薬草カードを置いていないので、いつもの通行人たちはキョロキョロとしながらも足を止めることなく通り過ぎる。しばらく待つと茂みの中や花壇などを入念にチェックしながら歩く小学生が現れた。コードネーム『チャンク』昔から好きだった映画に出てくる小太りの少年の名前を勝手につけた少年だ。
「ねぇ、君が探しているのはコレ?」
アツシはポケットから薬草カードを一枚取り出し、薬草カードが見つからずに肩を落としているチャンク少年に声をかけた。
「あ、いや、あの」
「警戒しなくていいよ。ここに薬草カード置いてたの俺だし。集めるとこんな銀貨と交換してもらえるんだけど知ってる?」
この子が集めてはいるけれど、まだ冒険者登録をしていないのなら教えてあげよう。そんなつもりで声をかけたのだが、少年は怯えたような声で思ってもいない回答が返してきた。
「じゃあ、あなたは『れんきんじゅつし』の仲間なんですか?




