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15/20

勇者トロ 小学生

 ランドセルをカタカタ鳴らして階段を駆け下り、渋谷駅の改札を抜ける。

 僕は安藤登呂、学校の後は塾と水泳と算盤に忙しくてゲームする暇もない小学五年生。


 去年までは公文とピアノも習っていたけれど、さすがに多すぎてお父さんが減らしてくれた。連絡用のスマホには色々制限が掛かっていたのだけれど、弄っていたら解除できたのでバレないように無課金のゲームでいろいろ遊んでる。家でゲームしているとすぐ母さんに怒られるから、習い事があった方が行き返りにゲームできるんだよね。


 降りる駅ではなかったのだけど、今日はなんとなく塾の帰りに通る乗り換え駅の渋谷で降りてみた。

 位置情報を使うゲームの為に何度か降りた事はあるけれど、今日は特に用は無いし、意味も無い。だけど、定期券で途中下車できるし、渋谷で降りると大人!って気がするからなんとなく降りてみたんだ。

 なんかしらないけどテレビとかを見ると、やたらと渋谷に遊びに行くイメージがあるんだよね。公園にザリガニもセミも居ないのに渋谷で何して遊んでんだろ、大人は。

 街路樹の脇に生えている綿毛のタンポポを引っこ抜いて吹こうとしたら、奇妙な物を見つけた。


『ジェネシス草』と書かれたカード。


 カードはトレーディングカードのサイズだけど、ラミネート加工されている。表には変な魔方陣とurlが掛かれていてゲームのタイトルは書いていない。裏面に草のイラストと名前が書かれている変なカードだ。


 他の街路樹を見てみると、金属蓋の隙間に『薬草』が一枚。

 樹を支えている木製の柱の陰にも『薬草』が一枚。


 これ、落とし物じゃなくて、わざと置いているのかな。落とし物っぽくはないけれど。落ちていたカードを誰かが見やすい所に置いてくれたというのとも違いそうだ。


 他の場所にも落ちていないかと、しばらく探してみる。

 樹とか蓋とかに薬草でしょ。これって昔のRPGとかでアイテムが拾える怪しい場所だよ。多分、手が届かないところとか、自動販売機の下とか、そういう所にはないと思うんだ。

 そう考えてキョロキョロしていると、コートの襟をたてた男の人が信号機の柱の周りをクルリと回る不審な動きをしたのが目に入った。その人の姿が見えなくなるまで待ってから、柱についている謎の箱を見てみると、柱と箱の隙間に薬草カードが挟まっていた。

 たぶん、信号の機械なんだろうけど、あの箱って開けたらどうなってるんだろ。まさか中にカード居れたりはしてないよね。

 いや、それはどうでもいいんだ。やっぱりこのカードはワザとバラ撒かれている。撒いているのはあの男の人だけなのかな。それとも他にもいるのか。


 ネットで薬草とジェネシス草、カードとかで検索してみたけれど、知らないゲームの検索結果しか出てこなかった。



 次の日。学校でカード見せて知っている人が居ないか探してみた。

 すると、隣のクラスのミタ君が知っていた。知っているどころか、欲しがられた。ミルタンが欲しがるのは給食のお替りだけじゃなかったのか。体型が牛みたいだからミルタンクから取ってミルタンって呼んでいたら先生にあだ名禁止とかわけわからない事を言われたので、大人のいるところでは名字で呼んでいるけれど、なんだかそっちの方が慣れなくて変な感じだ。


 それでミルタンが言うには、カードと同じマークの付いた屋台に持って行くと銀色のコインと取り換えてくれるらしい。その屋台の人がやっている宝探しゲームらしい。


「俺んち区の境目あたりなんだけど、渋谷区側にしか落ちてないんだ」

「ふーん、何かルールがあるのかもね」

「アンドゥー、交換してくれる屋台の場所教えてあげるから、こっちの薬草二枚譲ってくれないかな」

「そんなにコイン欲しいの?」


 そう聞くと、ミルタンは泣きそうな顔になった。


「……近所のお兄さんに、毎日カード拾ってこいって言われてるんだ」


 それってカツアゲってやつじゃないの? 直接お金を取られてなくても、これは悪い事だ。

 最近、ミルタンが元気ない理由がわかった。


「なぁ、それ誰かに」

「なにやってんの男子~! 学校にカード持ってきちゃっていーけないんだ☆」


 真面目な話をしようとしたのを、後ろから突き飛ばすように邪魔をしたのは目下ツカサ。変な苗字なので名前で呼んで欲しいと日々言っている暴力女。サッカーで男子チームを完封した通称キャプテンツカサ。

 男子相手でも平気で喧嘩するし、悪い事してると容赦なく先生に告げ口するコイツならミルタンを助ける方法を考えてくれるかも。


「なぁ、ミルタンが近所のお兄さんにカードたかられてるんだって。それがこのカードで、集めるとコインと換えてもらえるらしい」


 この時は悪い上級生のカツアゲかと思っていた。けれど、この事件は僕たち三人を『期待のルーキー』と呼ぶ変な人の集団知り合い、共に奇妙な戦いをする羽目になるきっかけだったのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勇者にタンクと紅一点 これは、期待の新人だ
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