駆け出し冒険者アツシ 職業は学生
冒険者ランクE級 ⇒ D級
「お姉さん、採取クエストの薬草採ってきたよ。査定ヨロシク!」
山手線の緑の電車が走る線路沿いの小さなクリーニング屋。その小さな窓口を覆うビニール製の屋根には、いまだに色あせた「たばこ屋」の文字が残る。
俺は奥からめんどくさそうに出てきたタバコ屋のおばちゃんに薬草カードを五枚手渡す。替わりに渡されるのは一枚の銀貨だ。その辺のゲーセンのコインに見えなくもない。しかしこのコインを十枚集めると、金貨に両替して貰えるのだ。この金貨は50円玉程の大きさなのに妙に重く、造りがしっかりしているというか、凝っている。裏に刻まれた肖像画が少しすり減っていたり小さな凹みがあったりと、使用感があってかなりリアルなのがグッとくる。俺は二枚持っているがもっと集めたい。
「あんたも毎日頑張るね」
「まぁ暇な学生ですから」
冒険者ギルドの美人受付嬢を自称するこのおばちゃん。横幅が細く見える歪んだ鏡を使えばエルフっぽいと言えなくもない。
「学生なら勉強しなさいよ」
「出席はしてますよ」
「出席だけじゃなくてね。あ、あんた今回のでギルドランク上がったね。おめでとうD級だよ」
いつもの説教を聞き流そうとしたら、聞き流せない一言が。
「え、ランクとか聞いてないですよ」
「だってあんたら、何もいわずにカード差し出してくるだけだからねえ。仕事じゃなかったら説教してるよ」
してるしゃないか、散々。という言葉は飲み込む。
「D級になると何か変わるの?」
「正式なカードが発行されて、冒険者の店が使えるようになるよ。見習い冒険者を卒業ってところかね」
「なんすかそれ!」
「駅前の喫茶店のペンデュラム。あそこで薬草以外の仕事も受けられるらしいよ。
ホントは酒場にしたかったらしいけど、年齢若い子も入れるようにしたんだってさ」
薬草以外の仕事。とうとうゴブリン退治か? 夢が膨らむ。いやいや、その前に確認する事がある。
「この冒険者ごっこって、お姉さんがやってるんじゃ無いんですか?」
「あたしはただの美人受付嬢。ギルドマスターは別の人だよ」
「うおお! ギルドマスター! 凄く冒険者っぽいッス」
「だろ? でもマスター細身だから、顔に傷のある強面っていう条件で店員募集してるらしいよ」
急募、ギルドマスター。経験者優遇、委細面談とかそんな募集みたことないわ。あ、美人受付嬢ってとこは当然スルー。機嫌損ねると薬草の質が悪かったとかいちゃもん付けられるから。
「でも喫茶店だと小中学生とか入りにくいんじゃないすかね。前に薬草カード拾ってる時にランドセルの子と取り合いになりましたよ」
「子供には譲ってやりなよ」
いや、先輩冒険者との衝突ってんですかね、そういうイベントだと思って欲しいなと。ふへへ」
「ふひひひ」
うひひ。気持ち悪く笑いあう。このおばちゃんも、良い年してこういうノリが好きなのだ。本屋でラノベ買うところを見かけたこともある。
冒険者カードと一緒に渡された地図を頼りにたどり着いた喫茶店ではD級の依頼が受けられた。
依頼の内容は【薬草群生地調査】という名目で、状態の様々な薬草カードを渋谷のあちこちに撒いてくる仕事だ。いままで俺が拾っていた薬草カードも、D級の人が配置していたカードなのだろう。D級が配置してE級が集める。
これ、主催者はなにやりたいんだ?
そして少し怖いのだが。薬草カード集めて冒険者ごっこならなんの危険もなかった。でもC級とかになっても薬草って事はないとおもう。そして現代の渋谷にはゴブリンはいない。ヤマンバもあまり見かけない。
何か退治してこいなんていうクエストが発行されたら、とうすれば良いのだろう。これ、安全な遊び、だよね?
相変わらず遅筆ですがよろしくお願いします。
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