奈々と華
俯いた私に華は、笑顔から真剣な表情になり、
「なんで?どうかしたの?」
と心配そうに聞いてきた。
私は涙が流れるのを堪えながら華をみる。
今から二週間ほど前。
結婚して二年ほど経つ友達と飲みに行った時の話を大志は私にした。
「悠之介がさ、そろそろ離婚考えてるらしいんだよ。奥さんと話しても、子供がいるから色々ややこしくて大変なんだと。」
やれやれといった表情の大志は続けて言う。
「なんか結婚って憧れもあったけど、現実はこんなもんだよな。俺にはまだまだ無理だな。ましてや自分の子供なんて…。前に奈々も言ってたけど、俺達は結婚とか子供とか、そんなこと考えられないよな。」
大志は私をみて同意を求めた。
確かに私は、仕事が順調になり始めた、二年ほど前、大志に結婚はする気ない。と言ったことがある。
「そうだね。」
私は合わせるように言ってみたものの、
本当は結婚する気がないなんて二年前の話で、今は結婚も子供も考えていた。
そんな思いも知らない大志は、自分の家へと帰って行った。
妊娠が分かったのはその後で、
誰かに話すのは華が一番最初だということも、
大志の思いも全て華に話した。
華は
「奈々は産みたい?」と心配そうに聞いた。
私は素直に頷いた。
すると華は優しい笑顔で
「なら大丈夫。ちゃんと倉本くんに話な。」
私は華の“大丈夫”という言葉を聞いて
さっきまで堪えていた涙が溢れてしまった。
きっと私は反対されても大志に断られたとしても産むことは分かったいた。
ただ不安で不安で、誰かに“大丈夫”って言って欲しかったんだ。
「華、ありがとう。」