二人の涙
「自然流産しちゃったんだ。」
奈々が言った。
私は考えもしていなかった言葉に
なにも返す言葉が、みつからなかった。
そんな私に奈々は続けた
「早期流産で、手術もしなくていいらしいんだ。痛みとかも今はもう全然なくて、もう妊娠する前の体に戻った。今まで通りだよ。」
少し笑みを浮かべた奈々は無理して強がってる様にみえた。
「そっか…」
私はただ頷いて話を聞くことしかできなかった。
「だから、大志には話さなくてもいいかなって思ってる。」
「え、でも奈々にそんなことがあったんだから、倉本くんにも話すべきだと思うよ。」
「いや、いいの。子供ができたって言った時の反応と流産したって言った時の反応見たくないんだ。」
「でも、それじゃ奈々が苦しいでしょ」
「そんなことないよ。もう忘れることにする。」
「そんなの、少しの間でもお腹の中にいた赤ちゃんが可哀想だよ。」
私はつい強く言った。
「それは…そうだけど。でも妊娠したって言った時、大志が嫌な顔するんじゃないかって、流産したって言ったら安心した顔するんじゃないかって思って。そんなとこ見たくないよ。」
奈々は泣きながら言った。
そんな奈々を見て思わず私も泣いていた。
どうして人はこんな悩みを持ちながら生きなくちゃいけないんだろう。
この二週間で奈々はどれだけ悩んで泣いたのだろう。
どれだけ不安で寝れない日々を過ごしたのだろう。
それは私が分かってあげることは
できないけれど、
痛いほど分かる気がした。
奈々。辛かったよね。
一人で不安だったよね。
何もできなくてごめんね。
その日、奈々と一緒に私の家に帰った。
帰り道ずっと小さく震えながら泣く奈々を支えながら歩いていった。
家についてからも、私たちは会話をすることなく眠りについた。
奈々は泣きつかれたのか、赤く腫れた目のままぐっすり眠っていた。
私の知らない感情で泣いて苦しんでる人がいる。
外ではいつの間にか雨が降り出していた。
この雨はこの街のどこかで、私のまったく知らない人の涙かもしれない。




