竜騎士になれなかった少年の話
地の文と童話口調で少々読みにくいかもしれません。
――あるところに竜になつかれない少年がおりました。
――少年の住む村では、竜がたくさんいました。
――村のほとんどの人は【竜きし】になるのがふつうでした。
――でも、少年は【竜きし】にはなれないのです。
――だって、少年を乗せてくれる竜がいなければ【竜きし】にはなれないでしょう?
――だから彼は村で一人ぼっちなのでした。
――村の幼馴染みにからかわれることも普通のことでした。
「やーい、ノロマ!」
「竜にも乗れないなんてダッセー」
三人組の少年たちが一人の少年を取り囲んでいる。取り囲まれた少年は今にも泣き出しそうな表情をしているが、辛うじてその寸前で踏み留まっている様子だ。
誰にでも出来ることが出来ないというのは、大きなハンディキャップであり、社会経験もなければ差別禁止の意識もない幼少の砌とあっては、少年が格好の標的となってしまうのは至極当然の道理であった。
決して力が弱いわけでも、打たれ弱い訳でもない。ただ数の力が、少年を取り囲む世界全てが、まるで少年を否定しているかのようで、少年はその二本の足での立ち方ですら見失っていた。
――少年のパパやママですら、少年を好きではありませんでした。
「また怪我したのかい?この子は本当にいつもこうで……」
少年を見つめる視線は決して己が子に向けられる視線ではない。むしろそれは疎ましいものを見つめるような視線で、蔑視と言い替えてもさほど違和感はない。
「ごめんなさい……」
少年はズボンを固く握る。それはなにかを堪えているようにも見え、何かに縋っているかのようでもあった。
けれど少年はそれを口にはせず、ひたすらに耐えていた。それは決して年相応とは言えず、不相応な態度であった。
「お父さんも何か言ってやんなさいよ。いつまで経ってもこうなんだから」
「俺は忙しいんだよ。子育てはお前に一任するって言っただろ?」
「また始まった。いつもいつも忙しい忙しいって、この間だって……」
自らの子供を前に喧嘩を始める夫婦。その視界には既に少年の存在は微塵もなく、互いの姿しか目に写っていない。すでにそれは家庭の一つの風物詩とも言えた。少年はそれを自身のせいと把握していたためにそれに一切の口を挟むことなく、諦観にも似た視線でただただそれを見ていることしか出来なかった。
少年は一人だった。
――ある時、小さな変化が訪れました。
草木が生い茂り、かつそれは視界に入れても決して不快ではない程度に切り整えられ、逆にその青々しさは頭上に広がる蒼天と相俟って視界を楽しませる効果を生み出していた。
そんな晴れ渡った天気の屋外で、二人の男女が睦み合っていた。
女性の腹部は大きく膨れ、なにがしかの存在を予期させる。男性はその腹部を優しく、愛情を注ぐように丁寧に、何度も何度も撫で続けていた。それに呼応するように女性は目を細め、男性に向かって微笑みかけていた。
二人は顔を寄せあい、囁くように睦言を繰り返している。
少年はそれを遠巻きに眺めていた。
既に少年に注がれる愛情などは一切ない。すべての愛情は全てお腹の中の妹だか弟に注がれていた。
少年が視界に入りさえすれば、彼の両親は親の仇を見るかのような視線で少年を睨み付けるだけだ。少年も既にそれを承知している。それ故になるべく視界に入らないように、その存在を知覚させないように、息を殺すようにして生きてきた。黒子のように、影のように。
一切の家事を担い、家政婦の如く、それでいて認識されない存在。それが少年だった。
――少年に弟が出来たのです。
少年の弟は少年と似ても似付かなかった。
少年の目は黒髪に金の眼。髪はストレートに一切の癖はない。父親は少年と同様の髪にブラウンの瞳。母親は少しばかり茶がかったストレートの長い髪を携え、金の双眸を兼ね備えていた。
少年の弟は金のくしゃくしゃの癖っ毛を跳ねっ返らせ、愛らしいその瞳は透き通るような碧眼をしていた。
けれども少年の両親はその事に一切触れようともせず、夢中になったようにその子供を可愛がり始めた。まるで何かから視界を反らすように。夢中になったふりをして。
――時間は少したち、少年も弟も大きくなりました。
――けれど、少年は少し寂しくなくなりました。
――少年の弟だけは、少年に優しかったのです。
「にいさまはさびしくないのですか?」
辿々しい言葉で小さな言葉を紡いでいる。決してその中には悪意は潜んでなどいない。純粋な気持ちなのだ。純粋だからこそ、質が悪いのだが。
「ああ、ケインが居てくれるから寂しくないよ」
少年はそっと溜め息を零しながら小さな弟の癖っ毛を撫で付けるようにあやす。心地良さそうにそれを享受している。
親の愛情を一身に受けてきた弟。恐らく片方の血しか繋がらない弟。――竜に嫌われていない弟。
嫉妬しない訳がない。憎まない訳がない。呪わない訳がない。
それでも、無邪気にすがってくるその姿を打ち払えるほど少年は子供でもなかった。何よりも愛情を示してくれるその存在が愛おしかった。
――ある日、少年は一人の少女に恋をしました。
――少女はかれんで、とってもキュートでした。
――他の村の娘と違い、その子は少年に優しくしてくれたのです。
少年は恋をした。
一人の同い年の少女にその心を射止められていた。
可憐で、優しく、穏やかで、平等で――
何度も少女と話をした。何度も笑いあって、何度も遊んだ。
少年は少女の事が大好きだった。
優しく受け止めてくれるその瞳が、微笑みが、大好きだった。
ずっと側で笑っていてほしい。隣で見ていて欲しい。そうした思いが募り募って。
ある日花束を携えて少女と会いに行った。
少女はいたく花束を喜んでいた。そこで少年は自身の気持ちを言葉にした。
少女は泣き出していた。『そんなつもりはなかった』と、何度も何度も口にしていた。
その場を駆け出す少女を、少年は止める術を知らなかった。
翌日、少年は少女を探していた。他の村人からからかわれながらも、バカにされながらも、恥辱と屈辱を堪えながらも村を探し歩いた。そしてついに見つけた。
別の少年に寄り添うようにして頬を赤らめていた少女を。
少年は全てを悟った。
――けれど、少女は竜にも乗れない少年のことは好きではなかったのです。
少年の話し相手は専ら弟しかいなかった。少年をまともに扱ってくれるものは弟だけだった。
愛しいものは弟だけだった。
――少年が弟に接することは許されていませんでした。
「村から出ていきなさい」
告げられたのは少年の全てを否定する言葉。告げたのは少年の実の父親。
少年がその弟に悪影響を与えることを懸念した両親の決断だった。
他にも少年を拒絶する理由はあった。竜騎士にもなれない少年は村にとっては異質なものであり、敬遠されるものでしかなかった。育てていたところで金にもならないとなれば、いよいよもってして、少年を養う理由など尽き果てていた。それでも今までは情や我が子ということもあって共に暮らしていたが、跡継ぎが産まれたことでついにそれも消えた。
もはやそれは家族ですらなくなっていた。
「首都に出稼ぎに行きなさい。仕送りはしないししなくていい。連絡も寄越さないで欲しい」
父親の口から零れたのはそんな本音の言葉だった。
「はい、分かりました」
少年の口からは否の言葉は出ない。ただ父親の言葉に頷くだけ。決して感情は表情に出さない。それだけが少年の唯一の抵抗だった。
その態度に気付くこともなく、父親は確かに安堵していた。
――少年は町に奉公しにいくことになりました。
――とても辛いことでしたが、これも仕方ないと少年は思いました。
――『僕は竜きしになれないんだから、しょうがない』
――少年は家事が得意だったので、奉公することには全く問題ありませんでした。
――問題があるとすれば、時々とても寂しくなってしまうことでしょうか。
雇用先は決して優遇とは言えなかった。使用人なぞ使い捨てであるかのように扱われ、馬車馬のように働かされ、追い打ちをかけるように痛めつけられた。それでも少年は逃げ出さず、黙々と粛々と奉公を続けた。数多くの仲間が入っては辞めていく中、少年だけが仕事を続けていた。
感情を殺したように勤め続け、労働に見合わない薄給ではありながらもその中から大半を家族へと仕送り続けていた。
いつしか少年は青年へとなり、奉公先でも長となっていました。村では学ぶことも満足には出来はしなかったが、ここは首都であったためその機関や書物にも恵まれ、勉強も十分に行うことが可能であった。青年はその勤勉さで文字を習得し、計算を獲得し、法に精通した。
誰も彼を馬鹿にはしなくなったし、貶しもしなくなった。むしろ憧れや尊敬の眼差しを受けるようになっていた。
彼の優秀さによって、彼は主の側付きへとなっていた。給料は大幅に上がり、昔のように小汚い格好をしなくなった。けれど彼の給与の大半は家族へと仕送られていた。彼は贅沢を好む質でもなかったため、苦痛ではなかった。
彼は富も、名誉も、憧憬も手に入れていた。
けれどそんなものはどうでも良かった。それは彼が望んで欲したものではなかった。
ただの一度も、家族からの連絡はなかった。
――少年が青年になったある日、一人の女性と出会いました。
「好きです!お付き合いしていただけませんか!?」
唐突に吐き出される言葉に青年は眉を潜めた。この手の言葉は幾度も受けたことがあれど、こうして必死で、悲壮感にも満ちた愛の言葉は耳にしたことがなかった。
見れば女性は花を売る姿をしていた。その姿は決して美しいとは言えず、賎しいものを思い起こさせる。
けれど青年にとってはそんなものはどうでもいいものでしかなかった。
しがみつくような、すがるような視線。庇護欲をそそるような、そんな眼差し。敵意に怯えて、咽び泣きそうな表情。
気が付けば、青年は頷いていた。
――彼と彼女は恋に落ちました。
青年は花を買った。
何かを叩き付けるように彼女を愛し、壊し、治す。何度も、何度も。
彼は彼女を愛していた。
彼は彼女を愛していなかった。
壊れそうなその表情は涙にまみれ、時には歓喜に満ち溢れていた。時折見せる恐怖に歪む表情は青年が作ったものであれば、癒すのもまた青年だった。
やがて二人の間に、子供を授かった。
青年にはなんの感慨もなかった。
――二人の間に子供が出来ました。
――とても愛らしい、男の子でした。
生まれて僅かなその小さな手を、青年は握りしめた。
隣では妻となった女性が微笑んでいた。
青年は微笑まなかった。
――そんなある日、戦争が起こったのです。
――それは大国と大国の争う、大きな戦でした。
首都に勤めている青年が出兵を促されるのは当然のことであった。それに逆らうつもりもなかった青年は黙々と荷を纏め、準備に取りかかっていた。
その後ろ姿を見つめ、彼の妻はさめざめと涙を零していた。嘆きすがり付いたところでどうもなりはしない。知っていたからこそ彼女は何も出来なかった。
そんな彼女に朗報が飛び込んできた。
彼の主が彼の出兵を取り消させたのだ。
優秀な人材を手放したくなく、一国に対しても大きな力を持つものだからこそ、出来た行為だった。
彼は疎開させられることになった。体のいい、左遷でもあった。戦いに参加出来る肉体でありながらその義務を果たさない彼を見かねた有権者が、彼を辺境へと追いやろうとした結果だった。それを全て庇えるほど、彼の主も有力でも無能でもなかった。
それを力尽くで拒絶してしまえば、反感を買うのは必至。妥協案としてそれを呑まずにはいられなかった。
彼は竜の村へと帰ることになった。
かつて追い出され、唾棄するような経験をしたあの村に。
彼は妻を置いて来た。竜の村と言えば少なからずとも一戦力として筆頭にある部類となる。その村ともなれば人間の出入りに敏感になるのは当然のことであろう。付け加えて言えば、真っ先に狙われる可能性も否定できない。その位置さえ割れていれば、の話だが。
青年自身はあの村の出身だと言う事は口にはしていない。どこぞの金持ちがそれは無駄な大金を積み上げてどうしてか彼の出身地を知ったのだろう。それゆえに彼を村に返すと同時にその背中を尾行することで村の在り処を割り出そうともしていることもわかっていた。
――青年は竜の村にひなんすることになりました。
――とてもひどいことに、彼の妻や小さな子をつれていくことはできません。
――それが村のおきてだったのです。
彼は山を越え、谷を越え、川を遡上し、ありとあらゆる人間を置き去りにした。それでも追尾する影を時には屠りもした。
初めてのその行為は、鉄の匂いがした。
彼は村にたどり着いた。ひどく懐かしい光景。
久方ぶりに眺めたその光景は想像していた以上に矮小で、それが全てであった頃の無知といえばなんと言うことであろうか。
「ん?負け犬じゃん?」
青年よりは高いが、それでも低く耳朶を打つ声がする。その言葉は悪意に満ち、彼を苛まそうという意気にこそ染まっていた。
それは懐かしい感覚だった。そうだ、この村にこそ悪意が満ちていたのだ。露骨なまでに直接的な感情。今の生活にはそれが全くと言って良い程にない。青年は思わず目を細めた。
彼が振り返れば、全身を鎧に固め、今にも戦場に飛び込まんとする格好をして真っ直ぐに彼を射抜く碧の瞳。
「……カイン、か?」
「俺の名前を呼ぶんじゃねえよ、汚れる」
彼を慕っていた筈の弟は、もはやその面影もなく、ただただ悪意を撒き散らす存在へと堕ちていた。
腐敗、腐敗、腐敗。
青年は吐き気を催した。それでもその一切を表に出すことはなく、彼の弟を余すところなく眺める。
わかっていたこと、わかっていたことなのだ。
筋肉がバランスよく付いたであろう体にはそれを守るように鎧をつけている。全身を覆うそれは安心感を与える一方で、重量という名の拘束を強いる。けれども彼の弟はそれを一切気にすることもなく、まるで布であるかのように動き回る。
「戦争に行くのか?」
「犬は逃げてきたのか?」
質問に返される質問。それは見て取れるほどの悪意に満ちていた。
無言を肯定と取ったのか、彼の顔は厭味を浮かべたような表情に変わり哄笑を謳う。
「ははっ、そりゃいい!面白い話を聞けたな!」
そう言って踵を返す弟の背中を、彼は止める術を持たなかった。
少しだけ、その悪意が恐ろしかった。
――村人達は、全員戦争に向かうことになりました。
――なにせ、竜に乗れるのですから。
――世界最強の生き物、竜を操れるのは最強の証なのです。
「すぐに村を出て行け」
そう言い切るのは青年と同じく黒目黒髪をした存在だ。その黒々としていた筈の髪には僅かに灰色がかった影がちらほらと見え始めていた。懐かしい存在。自らを生み出した筈の存在。
父親。
「私たちはこれから戦場に向かう。出ていかないと言うのならここで切り捨てる」
青年は言葉を失った。あまりにも無情。あまりにも非道。
呆然と立ち尽くしている青年を父親が思い切り押しやる。それは明確な拒絶だった。
「あ、あの、父様。僕の仕送りは……」
『ありがたかったよ、ありがとう』――そんな言葉を聞きたくて。
一度でもいい。認めて欲しくて。
「そんなものは知らん」
竜に跨り村人たちが次々に飛び立っていく。地に這い蹲るように残るのは青年だけ。
「さっさと失せろ」
最後通牒であるかのように言い切った父親の目はひどく冷めていた。
それが最後に青年の心を折った。
青年を見やる視線を背に、無言でその場を立ち去る。
青年は背後でせせら笑う空気が飛び去っていくのを感じ取っていた。
――竜きしが参加した戦争は、あっという間に決着がつきました。
――もちろん、竜は最強なのです。
青年はかつての実家に隠れ住んでいた。
理由としては定かではない。期待だったのかもしれない。殺意だったのかもしれない。どうしようもなく、そうするしかなかったのだ。青年の僅かに見せる感情が、そうさせていた。
家族が帰ってきたらまずはどうするのだろうか。
歓迎のハグでもしてやるのか?凶器を持って襲いかかるのか?なにもせずにその場を立ち去るのか?
青年は考えていた。どうしたいのか、どうするのか。
青年はその感情をようやく理解した。それは憎しみだ。それは期待だ。それは庇護欲だ。それは独占欲だ。
それは愛だ。それは殺意だ。
彼は妻と子を思い出していた。
そこにはなんの感情もなかった。彼はその事実に驚愕した。驚愕しつつも、納得もしていた。
戦争が終わったのなら、話をしよう。
それが彼の妻と子に対する贖罪をしよう。固く、そう誓った。
彼はその家に暮らし続けていた。
ずっと、息を潜めるように。
その屋内で渦巻く感情に蓋をするように。
――けれど、国は竜きし達をばっしようとしました。
――竜きしの力を恐れた国王が、彼らを消そうとしたのです。
――竜きしが最強であっても、国の法律はもっと強かったのです。
長い長い時が過ぎた。
ただ一人で待つその時間は、ひどく心安らぐものだった。
混沌とした感情は未だに燻るものの、いつしかやがて、それは純粋に逢瀬の時を期待するものへと変化していた。
『会いたい、逢いたい』
ほんの僅かではあるが戦地での悲報を耳にするたび、その気持ちは日増しに募っていく。
それは焦燥感のように、青年の身を焦がしていくのであった。
――法律で竜きしをばっしようとしていたところを、青年が止めました。
――奉公先で学んだ知識で、戦い続けました。
そんなある日、青年の耳にある知らせが届いた。
国が大敗を、喫したと。
そんなバカな、そんな感情が青年を追い詰める。
竜は最強の種族。その竜騎士を擁した一国がそれを持ち得ない国に敗北をするなど。考えてすらいなかった。可能性すら考慮する事をやめていた。
しかし現に村には誰一人として帰還していない。村では青年ただ一人が寂しく待ち続けているだけ。
――戦争と違って、長い長い戦いでした。
――けれど青年はそれを決して諦めることはありませんでした。
青年は待ち続けた。
一年も、二年も過ぎただろう。三年目からは数えることをやめた。
だれか一人でも戻ってくることをひたすらに期待して。
望んで。
冀って。
悪意でもいい。昔のように、その姿を取り戻して欲しい。青年は自らの感情を外にそう思った。まるでなにかにすがりつくように。呪いすらしたその環境を、願った。
――そしてついに、青年は国に勝利したのです。
――青年が竜の村を守ったのです。
青年は時折現れる人間を片していった。別段何を守るわけでもない。
目的の妨げとなりうるその存在を逃すわけには行かなかったのだ。
ただそれだけだ。そこに感情の有無などありはしない。
待つだけ。待つだけだ。そのために出来ることならなんでもしよう。
青年は筆を執る。
綴る。
綴る。
綴る。
意味があるかなど知り得はしない。けれど何もしないわけにはいかない。
――ついに、青年と家族は仲直りすることができました。
――青年は妻や子を家族に紹介しました。
――もちろん大歓迎です。
――青年は今までに見せたこともない笑顔でいることが出来ました。
「竜の村の生き残りだな」
そう言って多人数の部隊を率いる男が青年の前に立った。
その顔には数多くの傷が刻まれ、彼が歴戦の勇士であることを如実に物語っていた。
ああ、ついにきたか、と青年は思った。
「来い。お前が最後の一人だ」
青年は筆を置いた。今までに綴っていた本を閉じる。これは青年の生きてきた全てが綴られている。全てというのは間違いだろうか。青年の望んだ全て、と言ってしまうのが最もだろう。
そんな青年を差し置いて男は言葉を続ける。
「竜の村の人間は全て処刑された。最後は盛大に飾ってやろう、楽しみにしていろ」
男は歪んだ顔でそう言いのけた。
青年はそれを受け入れた。半分は既に予想していたことだった。他人から呆気なく語られる事実であったからこそ、今までは受け入れることの出来なかった青年の胸にストンと落ちてきたのかもしれない。
吐き捨てられる様に無様に打ち捨てられた村の竜騎士たち。その事実は青年の心をひどく安堵させていた。
『嗚呼、ようやく同じ場所に堕ちてきてくれた』
青年は兵士たちに連れられる。ようやく最後の時を。幕が下り、キャストは退く。舞台には誰一人として残らない。
――竜きしはその力強さで。
――青年はその知識で。
――いつまでも国を守り、そして幸せに暮らしましたとさ。
竜頭蛇尾で申し訳がございません。
もっと余裕を持って投稿すべきところだったかと実に反省している次第です……orz
追記
これ提出してない臭いです……\(^o^)/