第3話 運命の招集
その朝、王都からの伝令が屋敷にやって来た。
「――黒き塔に魔族の動きあり。王国騎士団は招集を受けよ」
書簡に刻まれた印は、王直属部隊《黎明の紋章》。
それは、カイルがかつて所属していた部隊――
そして今も、彼の名を呼び戻す唯一の存在だった。
「行くのですか」
リアが静かに尋ねた。
彼女の手には、まだ朝露を含んだ花が握られている。
「……行かねばならない。あれが俺の役目だ」
「戦うために、生きるのですか?」
「……そうだな。そうするしか、知らなかった」
カイルが鎧を纏う音が、やけに重く響く。
彼は振り返り、リアの肩に手を置いた。
「すぐ戻る。ここにいろ」
リアは小さく頷いたが、その瞳には何か別の感情が宿っていた。
それは恐れでも悲しみでもない――“覚悟”に似た何か。
その日の夜、屋敷の窓辺でリアは独り、空を見上げていた。
白い月が浮かぶ中、彼女の指先から淡い光が漏れ出していた。
それはまるで、魔力のように揺らめき、花の上に小さな粒となって落ちる。
「どうして……思い出せないの……」
声は震えていた。
頭の奥が焼けるように痛み、何かの記憶が断片的に浮かぶ。
“炎”“翼”“黒い影”“泣いている誰か”――
そして、
“主様”と呼ぶ声。
その瞬間、花が光を放った。
一瞬だけ、彼女の背に透けるような紋章が浮かび上がる。
まるで封印のように、彼女の身体に刻まれている。
「リア!」
扉を開けてカイルが飛び込んできた。
彼はその光景を見て、目を見開く。
「それは……魔の印……?」
リアは何も答えず、ただ涙を零した。
「わかりません……でも、怖いんです。誰かを傷つけてしまいそうで」
カイルは静かに彼女の肩を抱いた。
「大丈夫だ。お前が何者でも、俺はお前を守る」
「……約束、ですか?」
「ああ。約束だ」
その夜、風が二人の間を吹き抜けた。
屋敷の庭では、白い花がひとつ――
静かに、夜明けを待っていた。




