第1話 奴隷市の少女
王都ローヴェルの外れ。
焼け落ちた戦地の匂いがまだ残る市場に、今日も奴隷の列が並んでいた。
鉄の首輪と、重く垂れた鎖。
誰もが目を伏せ、名前ではなく“値”で呼ばれていた。
カイル・レイヴァンは、無言でその列を見つめていた。
彼の鎧は傷だらけで、剣の柄には血の染みがこびりついている。
数日前まで戦場にいたせいか、周囲の喧噪がやけに遠く聞こえた。
「おや、騎士様。今日はどんな子をお探しで?」
奴隷商人が擦れた笑みを浮かべる。
「剣の腕が立つ者か、それとも夜の相手か?」
カイルは答えず、列の端に目を向けた。
そこに、ひとりの少女がいた。
髪は灰にまみれ、顔立ちは痩せ細っている。
だが――その瞳だけが、異様に澄んでいた。
まるで、絶望の底からまだ“何か”を見ているような。
「……その子だ」
「は? あんなの、もう喋れやしませんよ。何日も飯を――」
「いい、連れて行く」
商人は肩をすくめ、銀貨を数え始めた。
カイルは黙って袋を投げ、少女の鎖を外させた。
鎖が外れる音に、少女の肩が小さく震える。
その瞳が、一瞬だけカイルを見た。
その視線は、恐怖でも敵意でもない。
――どこか、懐かしさのようなものを宿していた。
「……立てるか?」
カイルが手を差し出す。
少女はためらいながらも、その手を取った。
その瞬間、風が吹き抜けた。
焦げた匂いの中に、微かに花の香りが混じる。
彼はまだ知らなかった。
この出会いが、やがて世界の終焉へと繋がることを。
そして、彼女が――
自分の運命そのものになることを。




