あの光の向こうに、君がいた
夜の図書館は、静まり返った湖のように、言葉の波をたたえていた。
中学二年生の悠真は、誰もいないその場所で、一冊の本に手を伸ばした。
表紙には、見覚えのない文字で、こう書かれていた。
「光の彼方に、願いを託して」
ページを開いた瞬間、彼の頭の中に、風が吹き抜けた。
いや、風というよりも——記憶。
草原に立ち尽くす少年。
空に手を伸ばしながら、ぽつりと呟いていた。
「どうか、来世の僕が……人を信じて、生きられますように」
悠真は、本を抱きしめたまま、その場にしゃがみこんだ。
涙が、勝手にこぼれていた。理由はわからなかった。
でも、胸の奥が、何かを思い出して叫んでいた。
その日から、彼は少しずつ、自分の今の暮らしを見つめ直し始めた。
仲間とふざけあえる時間。
悩みながらも手を差し伸べてくれた先生の言葉。
理由もなく隣にいてくれた友達の笑顔。
「……僕、信じてる。人を」
ある朝、いつもの通学路を歩きながら、悠真はふと足を止めた。
自分の影が、朝日に照らされて長く伸びていた。
その影の先に、かすかに微笑むもう一人の自分が見えた気がした。
「ありがとう」
その声は、過去の自分が今の自分に向けて放った、確かな想いだった。
悠真はゆっくりと笑った。
自分は今、前世の願いの中に、生きている。