愛の実る時
これで最終回になります。読んでいただきありがとうございます。
第三王子ギル殿下と公爵令嬢メリー・アン・シングルトンの婚約は大々的に新聞各社から報道された。
元々メリーと婚約が整っていたのに隣国の姫からの横恋慕が入ったとか、無理やり婚約したのに護衛と不貞を働いたというゴシップがどこからともなく流れた。
国民はギル達の味方となり世論として王家に届いた。
国王はギルの手腕に恐れを抱いた。決して敵に回すべき相手ではないと認識を新たにした。
ギルは決して噂を流してはいなかった。噂好きの国民の話に尾ひれがついたのだろう。
多分隣国は歯ぎしりをして悔しがっていることだろう。隣国のスパイが入りこんでいるのは想定内だ。
◇◇◇◇◇
三年経ちギルはようやくメリーと結婚する事になった。この日のために花嫁衣装は最高級な物を用意した。幻と呼ばれている繊細かつ霞のように軽いレースを準備させたのだ。色はもちろん白だ。
美しいメリーによく似合うからである。ダイヤモンドの指輪とイヤリングを用意してある。ティアラもダイヤを使ったものにした。ベールを取った時のメリーを想像するだけで顔がにやける。
ギルも今日は王族の正装だ。白い詰め襟の軍服に金のモールが縫い付けられている。待合室までメリーに会いに行こうとしたら公爵夫人に止められた。気持ちが先走ってしまった。
心を落ち着けて大聖堂の神殿の前で待つ事にした。
公爵がエスコートをしてメリーを連れてきた。綺麗すぎて意識を保っているのがやっとだ。神様の前で誓いを立てる。もう一度心を落ち着かせ誓約書にサインをした。続けてメリーがサインをした。誓いのキスを唇にする。これでメリーは僕のものになった。
一生君だけを愛すると神様に誓うよメリー。君が愛しくて仕方がない。
神殿のバルコニーから顔を出して国民に手を振った。割れんばかりのお祝いの言葉を貰った。
「とても綺麗だよ、女神様かと思うくらいだ。愛しているよ」
「ギルもとても素敵。キラキラして王子様っていう感じだわ。本物だけど」
「早く二人きりになりたい」
「私も」
可愛すぎるメリーにキスをしたらバルコニーの下の皆のどよめきが凄かった。
各国の来賓を集めたパーティーはつつがなく行われた。
途中で抜け出した花嫁は公爵邸の敷地に建てられた新しい屋敷に連れ帰られた。
そこで侍女達に磨かれることになった。
ドレスを丁寧に脱がされ、コルセットを外されて一息つく。この時に軽食を食べることが出来た。
早朝から飲み物くらいしか摂っていない身体には、スープが染み渡る。きちんと食べている時間がなかったので嬉しいと思うメリーだった。
それから湯船に浸かり侍女達に隅々まで洗われた。髪を丁寧に乾かされ櫛を入れられた。
「奥様の御髪は絹のようでございますね」
すっかり顔なじみになった城の侍女が褒めそやした。
「お肌もしみ一つなく陶磁器のようでございますわ。ふっくらと張りがあって殿下がお喜びですわね」
年をとってもギルは愛してくれると思うわとメリーは心の中で呟いた。
これでもかというほど薄いナイトウェアを着せられた。侍女に
「これは着ていると言えるのかしら、上に羽織るものをちょうだい」
「侍女一同心を込めて決めさせていただきました。毎日お着せするのが楽しみですわ」
と言われたので、それ以上の反論は控えることにした。箱入り娘のメリーには何が正解なのか分からなかったからである。
旦那様の好みが大事なので後でギルに聞いてみようと思った。
主賓室で待っているとギルが急いで部屋に入ってきた。まだ少し髪が乾ききっていない。頭にタオルを掛けたギルも素敵だわとぼうっと眺めていた。
「メリー、僕に見惚れたの?」
耳の近くで囁くように告げられた。声の色気が半端ない。身体がゾクッとした。こんな人だったの?色気の塊だわ。乙女のメリーでも充分感じることが出来た。
「長い間我慢したんだ。これから想いを伝えるから覚悟してね、僕の天使」
いきなりキスから始まったそれは段々と深いものになり、ぐったりしたメリーを抱えてベッドにそっと降ろした。
薄いナイトウェアを見るとギルの目はますます熱を持った。ナイトウェアの上から口づけを身体中に落とした。我慢ができなくなると、薄物は剥ぎ取られ美しい裸体が露わになった。
「なんて綺麗なんだ、女神が僕のところに降りてきた」
ギルは出来る限り優しく丁寧に愛することに夢中になり、メリーは健気にそれに応えた。
メリーが目を覚ますとお日様が高い位置に登っていた。腕をしっかりメリーの身体に回しているので身動きが取れない。喉が渇いたので水を飲みたいのだが、ギルはぐっすり眠っているようだった。どうにか起こさずに抜け出せないものだろうか。暫くもぞもぞと身体を動かしてみた。
笑い声がしたのでギルの顔をまじまじと見つめた。
「喉が乾いたの?お腹が空いた?お風呂に入ってさっぱりしようか」
どれも魅力的な提案だったのでこくこくと頷いた。
まずは側に置いてあったレモン水をギルから飲ませてもらった。自分で動こうと思ったが出来なかったのである。
お姫様抱っこをされながらお風呂に入れてもらい、全身を洗ってもらった。
髪も丁寧に洗ってくれたのでびっくりしていると
「この日のために勉強したんだ」
と誇らしげに言われた。
お風呂に入っている間にシーツを取り替えてもらい。軽食を持って来て貰った。
果物の盛り合わせにスープ、柔らかなパン、サイコロステーキ、食前酒のワインまで、様々な料理がワゴン一杯に並べてあった。
楽な室内着を着て何故かギルの膝の上で食べさせられることとなった。
「どうしてお膝に乗せられているのかしら?」
「メリーを疲れさせたのが僕だからだ。嫌なの?」
「嫌ではないけど。自分で食べられるわ」
「多分指一本動かすのも辛いと思うよ、やってみる?」
やってみようとしたが無理だったので諦めて食べさせてもらうことにした。
口に入れられた物をもぐもぐ食べた。それをギルは幸せそうに見ているのだ。
「ギルも食べてね」
「ちゃんと食べるよ、心配しないで」
二人の蜜月は甘く過ぎていった。
結婚して二ヶ月経った頃、そういえばギルったら閨ごとがとても上手だったわと気がついた。王子様はそういう指導を受けると聞いたことがあった。過ぎてしまったことだけど、なんだかもやもやしてしまうメリーだ。私以外の人と肌を重ねていたなら面白くない。
夜ギルに聞いてみようと思うメリーだった。その日の晩餐はどこか上の空になってしまった。いつものように寝室に入って来たらギルに直球で聞くことにした。
しかしそうだと言われたら怖いのでワインを飲んだ。公爵家の秘蔵のワインである。半分くらい飲んだところでギルが入ってきた。
「メリー、どうしてそんなに飲んでいるの?夕食の時もどこか可笑しかったよね。理由を話してくれる?」
「ギルが初夜から上手だったのは閨指導を受けていたのかなと思ったの。王子様としては仕方がないけど、私以外の人と肌を重ねていたなら悔しくて、悲しくて飲まないとやってられないわ」
「メリー以外を抱いたことなんてないよ。本で勉強したんだ。他の女性を抱くなんて吐きそうだ」
「本当に?信じていいの?」
「本当だとも。僕の愛を信じきれてないなんてお仕置きが必要だね。もっとわからせてあげなくてはいけないようだ」
「ギル貴方だけいればいいの。愛してるわ」
「僕もだよ、愛しい僕の女神」
こうして痴話喧嘩はあっけなく終わりを告げた。
二年後国王の病気療養が国民に発表された。王妃と共に静かな離宮で静養することになった。次期国王は第一王子だった。幼い頃からの婚約者である公爵令嬢が王妃となった。二人は真面目な人柄で国民の為に尽くした。
数年後二人の間には男の子二人と女の子が一人誕生していた。子供たちとギルはメリーの取り合いで賑やかだ。そこには穏やかな家庭の風景が見られた。
不思議なことに同じような時期に作者不明の、幼い貴族の婚約破棄の本が出版されて人気を博した。貴族令息が婚約者がいるのにも関わらず別れさせられ、泣く泣く高貴な令嬢と婚約をさせられるが、その令嬢が駆け落ちしてしまい、元の婚約者と結婚するというというどこかで聞いたことのある話だったそうだ。
王家は作者を必死で探したが見つけることは出来なかった。
親世代は記憶を新たにし。子供世代はこんなふうに愛を貫きたいと決意をするきっかけになったそうだ。
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