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ギルの企み

お読みいただきありがとうございます。

 メリー・アン・シングルトンはギル殿下と仲が良い。隣国に婚約者のいる殿下をお慰めするものだろう。そんな噂が届いたのは十二歳になる頃だっただろうか。公爵令嬢に対して言うことではないと思うが公爵家は気にしていなかった。もうすぐ登城は控えさせるつもりだったからだ。

ここまで王家の我儘を許していたのはギル殿下への憐れみとメリーが懐いていることだけだったのだから。

メリーは存在だけで花が咲いたような華やかな少女になっていた。



ギルに婚約者がいるの?メリーを一番に可愛がってくれ本を読むのもお菓子を食べるのも勉強の難しいところを教えてくれるのもギルだった。

いつも薔薇の花を一本だけ届けてくれたり、王都で人気のスイーツをお土産に持ってきてくれ、一緒にお茶を飲むのもギルとだった。



あまりに当たり前過ぎてギルのいない生活など考えたこともなかった。でも婚約者がいるのなら申しわけがない。こんなことをしていては気を悪くさせてしまう。チクッと胸が痛いような気がしたが気のせいだと思うことにした。

メリーは今度のお茶会でギルに婚約者のことを聞いてみることにした。


「ギル、隣国に婚約者がいたの?ずっと一緒にいたのに気が付かなかったわ。早く教えてくれればこんなふうに会ったりしなかったのに」

「誰から聞いた?」

いつも優しいギルと違って冷たい声だった。

「誰だったかわからないわ、婚約者が隣国の王女様だから、埋め合わせに私で我慢をしているとか、妹のようで女性としてみていないから可愛がっているとか色々聞こえてくるの」

「早く潰しておくんだった」

暗い声でギルが呟いた。

「こんなふうに会っていては縁談に差し支えるでしょう?戦争になるかもしれないわ」

「メリーちゃんと聞いてくれる?」

いつになく真剣なギルの様子にこれはもう会えないと言われるのではないかと、メリーはどきどきしてしまった。




「最初に僕と婚約していたのはメリーだ。そこへ政治を持ち出して破談にしたのは、僕の両親と向こうの国だ。僕が好きなのは昔からメリーだけだ。君以外は愛するつもりはない」


「王命なのよね、どうにもならないのではないの?」

言いながら涙が溢れそうになった。

「メリーは僕のことが嫌い?」

跪いてメリーを見つめるギルの真剣なギルの眼差しに逃げるすべはなかった。

「ギルが側にいるのは当たり前になっていて考えたことはなかったけど、ギルの側にいるのは私がいい。他の人に笑いかけているギルは見たくない」

「じゃあ決まりだ。どんな手を使ってもメリーを手に入れてみせるよ」

手の甲にキスを落としながらギルが言った。真っ赤になったメリーは俯いてしまった。


「僕のメリーに余計な事を言ったやつも消さないとね」

ギルの後ろに黒いものが見えたような気がしたメリーだった。


隣国の王女は十七歳で年頃になってきて早く結婚をと言われていた。一番末の王女らしく我儘らしいが、我慢出来ないほどではないらしい。公爵家の次男あたりを留学させてみようかと思うギルだった。誘惑に乗ってさえくれればいいのだ。


ギルはまだ十五になったばかりなので結婚は早いと躱していた。第三王子は一夫一婦だ。王太子でも子供が出来ないときを除いて側室を持つことは許されていない。

メリー以外と結婚するなど吐きそうだ。

メリーと結婚して公爵家に婿入りする。メリーは一人娘だった。もしこれから公爵家に後継が生まれたら、王弟として公爵位を賜ってもいい。二人で幸せになりたい、ギルの目的はただそれだけだった。



隣国の王女の様子は影を使って調べさせていた。傅かれることに慣れている普通のお姫様だった。いつも一緒にいる騎士がギルの態度に不満を持っているようだと伝えてきた。そんなことは気が付かないふりをしていればいいのである。ギルは息のかかったメイドを使いギル王子にはストラウス国に想い人がいると噂を流させた。


真意を問う手紙が届いたので、そのようなことはありませんと返事を侍従に出させた。しかし婚約者に会いたいと王女から先触れが届いた。二週間先である。



メリーに害が及んではいけないので、しばらく会わないことにした。手紙と花束は欠かさなかった。部下に恋人の振りをして貰うから誤解しないようにと言い聞かせてある。



お茶を飲んだり散歩をするのはメリーとのことをよく理解している部下の令嬢にした。仕事なのでそれなりの対価を約束した。



王女が到着したが迎えには出なかった。客間に通させそれなりに対応させた。

護衛騎士と付き添ってきたメイドはかなり怒りを見せているらしい。

「今日はお疲れでしょうからこのままお過ごしください。後日歓迎の夜会を開くことになっております。それまでは我が国の案内を付けさせていただきますので観光を楽しまれてはいかがかと存じます」

と侍従を通して言わせた。


王女には何の恨みもないが、メリーとの未来のためだ。心を鬼にすることに変わりはない。

翌日には遠目で仲良く散歩をしているところを目撃してもらった。顔が重なるようにしあたかもキスをしているように見せた。


実は仕事の打ち合わせで、髪に付いた葉を取っていただけというオチが付くのだが、誤解をされるようにしているのだから狙い通りだ。




夜会は仕方なく王女の相手をしなくてはならない。相変わらずの無表情で通すつもりだ。正装をし夜会の入口で王女を待つ。十七歳のくせに王女は妖艶だった。

ギルはメリーのような清楚系が好みなのだ。


一曲ダンスを踊ったら姿を消そう。この艶やかさなら男が次々とダンスを申し込むだろう。王女の護衛騎士も正装で入場している。


「相変わらず無表情ですのね。笑顔くらい貼り付けられたらいかがかしら」

「そうですね」

「この婚姻は政略ですわ。貴方は想い人がいる。わたくしも想い人を作ってよろしくて?」

「よろしいように」

「呆れるくらいの無関心ですわね、いっそ気持ちがいいくらい」

「どうとでもお取りください」


冷たい会話をしていても周囲から見れば絵に描いたカップルのように見える二人だった。王女と近づきたい令息が次のダンスを申し込んだので、ギルはこれ幸いと逃げ出すことにした。他の令嬢が踊りたそうにしていたが打ち合わせ通り侍従が耳打ちをしてくれたので、急用が出来たと見せかけて会場から逃げ出すことに成功した。






その夜天井裏に入りこませた影から王女と護衛が人払いをして抱きしめ合っているという報告が来た。流れは良い方に来ていると飛び上がりたいギルだった。

後は決定的証拠だけだ。どうするか考え始めた。



誤字脱字報告ありがとうございます。

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